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1997/03/16 毎日新聞朝刊
[社説]中国全人代 法治こそ改革推進のカギ
 
 中国の第8期全国人民代表大会(全人代=国会)が14日、閉幕した。大会直前にトウ小平氏が死去し、江沢民国家主席を中心とする指導部の安定度を占う大会だったが、最終日の李鵬首相の政府活動報告に対する採決では97%の高率の支持が集まった。とりあえず、ポストトウ時代の団結を示すことに成功したといえるだろう。
 しかし、同時に行われた最高人民法院と最高人民検察院の活動報告に対する採決では、いずれも3割を上回る批判票が出た。高率の支持が当たり前の中国では異例のことだ。まん延する幹部の腐敗や治安の悪化などに、根強い不満があることが改めて裏付けられた形だ。
 中国社会には安定を揺るがしかねないさまざまな不満が渦巻いている。中でも幹部の腐敗と並んで深刻なのが、国有企業改革に伴って増大している失業者問題だ。自宅待機を意味する「下崗」という言葉が今回の全人代でもキーワードの一つになった。
 「毛沢東は『下郷』(農村送り)と言い、トウ小平は『下海』(民間企業入り)、江沢民は『下崗』と言う」。皮肉をこめた、こんな言葉が北京などではやっているそうだ。
 24万の国有企業のうち、約7割が赤字。効率が悪く、市場経済化に対応できない企業が多数を占める。多くの企業が倒産や人員整理を迫られ、実質的な失業状態に追い込まれる労働者が増大。争議やデモも多発しているという。
 改革と社会の安定をいかに両立させるかというジレンマの中で、李鵬首相は全人代の政府活動報告で「抓大放小」(大をつかみ小を放す)の方針を打ち出した。約1000の大型国有企業に国家の資金を投入して競争力を高めるとともに中小の国有企業は株式会社化や売却、合併などの改革で整理を進めようというものだ。同時に再就職対策の充実も打ち出した。
 こうした方針は中途半端にも映る。小回りのきかない大企業こそ、改革が難しいという問題もある。だが、12億の人口を抱えた中国にとって改革は一朝一夕ではすまない。一歩一歩進めるやり方はむしろ現実的だ。
 ただ、改革で生活の基盤を揺るがされる労働者たちは、社会の公正さにも疑問の目を向けている。多くの労働者が職を失うのに、幹部は腐敗で私腹を肥やしているというのでは怒りが爆発しかねない。腐敗の一掃と国有企業改革はこの意味で連動しているともいえる。
 今回の全人代では人民解放軍に初めて法的根拠を与える「国防法」制定や、「反革命罪」という時代錯誤的な法律の名称を「国家安全危害罪」に変更する刑法改正も行われた。
 「国防法」には「共産党の指導」が明記されており、国家の軍隊に脱皮するわけではない。法律の名称が変わっても、治安対策はむしろ強化された面もある。しかし、こうした法制定の動きは「人治」から「法治」へという中国の政治システムの近代化につながるものでもある。
 多数の失業者を生む国有企業改革はトウ小平氏がやり残した大きな課題である。「法治」の確立で社会の公正さを示しながらでなければ、容易には解決できないだろう。その意味でも今回の全人代で表れた「法治」の方向が一層明確な形で進むことを期待したい。
 
 
 
 
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