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1997/09/13 毎日新聞朝刊
[社説]中国共産党大会 実利優先の江沢民指導部
 
 5年に1度の中国共産党大会が12日、開幕した。第15回の今大会は2月のトウ小平氏の死去後、初めての大会であり、21世紀初頭まで5年間の基本方針とこれを担う新指導部を選ぶことになる。名実ともに江沢民総書記(国家主席)の時代の幕開けを告げる大会だ。
 といっても、江指導部がトウ小平時代から大きく舵(かじ)を切ろうとしているわけではない。大会冒頭、2時間半にわたって行った政治報告で江氏は「トウ小平理論」をマルクス・レーニン主義、毛沢東思想と並ぶ党の行動指針と位置づけ、党規約に明記するよう提案した。
 トウ氏が進めてきた「改革・開放政策」の堅持を規約の面からも明確にするもので、江指導部が今後進める政策は、基本的にトウ小平路線を継承するものとなろう。
 1992年10月の14回大会は「社会主義市場経済」の確立を宣言した。これは事実上、社会主義経済の根幹であった計画経済を放棄するものだった。今大会では経済改革をさらに進め、国有企業に株式制を本格導入することが目玉になる。
 江氏は報告で「株式制が公有制か私有制かをおおざっぱに言うことはできない」と指摘。「国家や集団が株式を支配すれば、それは明らかに公有性を持つ」と、株式制も公有制の一部だとの解釈を打ち出した。
 国有企業への株式制導入には、「公有制の崩壊につながる」との左派からの批判が出ていた。株式制も公有制だと強引に位置づけることで、党内の論争に終止符を打つことが狙いだろう。
 実際には国有企業の株式会社化は日本における電電公社や国鉄の民営化と似ている。計画経済の放棄に続いて社会主義のもう一つの柱である公有制を事実上、見直すものともいえる。
 膨大な赤字を抱えた国有企業が株式の導入だけですぐに活性化するわけではない。合理化に伴う失業者対策など克服しなければならない課題は多い。
 しかし、市場経済化・株式化によって中国は経済制度の面では西側諸国に極めて近い体制になる。これは国際経済との結びつきを強めている中国にとって有利だ。
 政治報告からは江指導部が経済発展を最優先に現実的な視点で改革を進めようとしていることがうかがえる。中国は改革・開放路線で経済発展を軌道に乗せることに成功した。後戻りはできない。
 大会閉会後の中央委員会第1回総会(1中全会)では最高指導部である政治局の新メンバーが選出されるが、中国の政治構造は文化大革命の前後のような激しい党内権力闘争が起きにくい状況にある。
 だれが権力を握ったにせよ、取りうる政策の幅は限られるからだ。江氏は党内安定を優先し、政治局常務委員の入れ替えは最小限にとどめる意向といわれる。
 新中国成立後、党大会で同一人物が2度、政治報告を行うのは江氏が初めてだ。また、今後3年間に50万人の兵力削減を表明したことは軍の掌握への自信をうかがわせる。
 中国の将来についてさまざまな議論が出ているが、現時点では江指導部の安定度はかなり高いといえるのではないか。憶測で不安や過剰な期待をかきたてるよりも、大会を通じて隣国の政治の行方を冷静に見つめる時期だろう。
 
 
 
 
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