IV
第4章 参考資料
1. 車いすの種別と概要
(1)自走用標準型車いす
車いすは下肢や体幹などに障害があるか、高齢で長い時間歩いて移動できない人のための移動用補助用具で、座位を保つための“いす”部分と、移動するための“車輪”が基本的な構成要素である。
自走式車いすは、一般的には後輪の外側についてハンドリムと呼ばれる輪を押して進むタイプのものである。坂を登るときなど本人の力では難しい場合もあり、いすの背の後ろに介助者用のグリップがついている場合が多いが、ブレーキなどは、本人が操作することを前提とした位置(後輪前方)についている。JIS標準型の場合、前輪はキャスター、後輪の径は18インチ(約46cm)以上である。
広い意味でこの範疇に入る車いすは、様々なものがあり、片手の操作で進めるもの、足で地面を蹴って進むものなど障害のタイプに合わせた製品が開発されている。
(2)普通型電動車いす
電動車いす(図2)は、車輪を電動モーターで駆動する車いすで、上肢に力のない人でも、ジョイスティックなどのコントロール部を操作できれば使用することができる。四肢に障害を持った人以外にも、自走式車いすでは長時間移動できない高齢者の移動用具としても利用され、近年では、さまざまな機能を備えたものが開発されている。
バーハンドルを操舵する製品は、電動三輪車・四輪車と呼ばれることが多く、専ら屋外を走行する目的の製品である。道路交通法上は(電動車いすに乗った)歩行者とみなされ、運転免許は不要である。但し、最高速度は時速6Km以下に制限されている。座席の下にバッテリーを積んでいるため相当の重量がある。
(3)介助用標準型車いす
介助用車いすは、移動に必要な操作を介助者が行うことを前提とした車いすで、JIS規格では、前輪がキャスターで後輪のハンドリムはついていないものを指す。製品によっては、後輪の径が小さく本人の手が届かないものもある。ブレーキの位置も、介助者が使う前提で後輪の後方についているものが多い。ハンドグリップに自転車のブレーキのような補助ブレーキをつけ坂を下るときの制動を容易にした製品もある。なお、自走式の車いすのグリップに補助ブレーキをつけて介助用として使う場合もある。
2. 障害の特性と公共交通利用における配慮事項等
<肢体不自由>
公共交通利用における特徴・配慮事項等 |
使用器具等 |
・歩行が困難
・段差、坂、ステップ等の通行が困難 ・料金の支払や切符の購入等が困難 ・手すり等一方の側しか使えない |
・適切な空調が必要
・とっさの動きが困難 ・痛みを伴うことがある ・手の届く範囲、動く範囲が限られる |
・歩行器
・杖 ・松葉杖 ・車いす(手動・電動) ・介助犬など |
<細分類および主な特徴、原因となる疾病等> |
●切断等による下肢・上肢障害 |
・四肢のいずれかを切断した人をいい、事故などの原因の他、糖尿病などの内部疾患が原因となる場合もある。
・義肢等の装着訓練を経て歩行している人がいる。 |
●脳血管障害による片麻痺 |
・脳血管障害:脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血などを原因とする。
・左右いずれかの片麻痺が生じる事が多い。重症の場合には四肢麻痺になることもある。 ・片麻痺を補って、杖、歩行器等で歩ける場合が多いが、重度片麻痺の場合は車いすを使用することが多い。 ・電動車いすを使用する場合と、片麻痺の場合でも運動機能が残っている側で自操式車いすを操作できる場合がある。 |
●脊髄損傷による四肢麻痺、対麻痺、体温調節障害など |
・脊髄損傷:(頭部に近い方から)頚髄、胸髄、腰髄、仙髄(腰髄の下)の損傷のこと。
・交通事故やスポーツ中の事故による脊髄内の神経の切断や傷により麻痺が生じる。 ・神経の麻痺により、体温の調整が難しい、排泄のコントロールが難しい、床ずれになりやすいなどの症状がある。 ・胸椎、腰椎(頚椎より下)を損傷した場合、上半身の機能が残っている場合が多い。 ・胸髄、腰髄、仙髄の障害では、松葉杖、装具等により歩行可能な人もいる。 ・頚椎(脊髄の上部)損傷の場合は、上半身の麻痺、多くは四肢麻痺がみられ、生活上多くの面で介助が必要になる。 |
●脳性麻痺による身体不自由、巧緻性障害 |
・脳性麻痺:しばしばCP(celebral palsy)と略される。
・出産時の何らかの原因で、脳の運動を司る細胞の一部が死滅することにより、ほぼ全身に麻痺がみられる。 ・知的障害と重複している場合がある。 ・言語障害と不随意運動がある場合が多い。 ・手足に硬直がある場合がある。 ・車いすを使用しなくても、杖等を使って歩行可能な人もいる。 ・動作の巧緻性に困難があるので切符の購入等が難しい場合が多い。 |
●進行性筋萎縮症
(主として筋ジストロフィー症など) |
・進行性の筋肉が萎縮する疾患の総称を、進行性筋萎縮症という。
・神経原性(末梢神経に障害が生じて筋肉が萎縮する)と筋原性(筋肉そのものに異常が生じて萎縮する)に分けられ、筋原性の代表的な症状が筋ジストロフィー症である。 ・筋ジストロフィー症は遺伝性で、先天性と成人してから発症する場合がある。 ・進行性で徐々に歩けなくなり、車いす使用になると介助が必要になる場合が多い。 ・姿勢を保持したり、首の座りを維持するのが難しい場合もあり、少しの力を加えるだけで身体のバランスを崩すこともある。 ・筋肉が弱っているため肩や腕を持って介助する場合など、十分に相手の状況を聞いてから行う必要がある。 |
リウマチ性疾患による関節可動域の制限など |
・リウマチは慢性的に進行する全身病で、女性に多く発病する。原因ははっきりしていない。
・足の関節に大きな負担のかかる動作は難しいため、車いすを使用していることが多い。 ・症状が軽いうちは、杖を使用して歩けるが、階段の昇降、立上がりなど、負担のかかる動作は困難。 |
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<視覚>
公共交通利用における特徴・配慮事項等 |
使用器具等 |
・不案内な場所は誘導が必要
・経路確認、料金の支払い、切符の購入等が困難 ・音声案内が必要 ・弱視は白杖を使う人とそうでない人がいる |
・弱視は色のコントラストがないとステップや表示などが認識できない
・弱視は大きな文字なら近づいて読める人もいる ・緊急時の情報伝達で配慮が必要 |
・白杖
・眼鏡 ・盲導犬 ・音声レシーバーなど |
<細分類および主な特徴、原因となる疾病等> |
●全盲
(主として糖尿病、網膜色素変性症、事故など) |
・糖尿病は成人の失明原因の1位。病状により網膜出血を繰り返し視力が低下する。末梢神経障害などの合併症を起こす。
・糖尿病の進行で腎機能障害を起こし人工透析に通う視覚障害者もいる。 ・全盲は最も程度の重い1級となる。ちなみに等級は1〜6まで分けられ(視力と視野の二つの機能から見て障害の程度を、等級ごとに分類)、1,2級を重度視覚障害者という。 ・1級の中でも障害の程度に差があり、全盲のほか、光や明暗がわかる(光覚弁)、目の前の手の動きがわかる(手動弁)、目の前の指の本数が数えられる(指数弁)、視力表の50cm前に立てば一番上の指標がわかる(視力0.01)の人まで含まれる。 |
●弱視
(主として白内障、強度近視など) |
・白内障は視野の変化は少ないが、全体的に白く濁ったようになる。中間色の識別や、眩しい光のもとでは見えにくい。
・視覚障害者の多くは、何らかの方法で視覚活用が可能な視機能の低下した人で「弱視(ロービジョン)」と呼ばれる。 |
●視野障害
(主として網膜色素変性症、黄斑部変性症網膜剥離、緑内障など) |
・網膜色素変性症は、周辺視野の狭窄が見られる。夜間や暗い所ではかなり見えにくい。強い光をまぶしく感じるので遮光レンズサングラスをかけていることが多い。
・黄斑部変性症は、中心視野の暗点や欠損が見られる。 ・網膜剥離、緑内障は、視野の一部欠損が見られる。 |
●その他 |
・脳腫瘍や頭部外傷は、眼の機能には影響がなくても、見えているものが何かわからなくなる、認知障害が生じることがあり、介助が必要になる。
・ベーチェット病は、全身性、進行性の疾病により視覚障害になる場合がある。 |
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<聴覚・言語>
公共交通利用における特徴・配慮事項等 |
使用器具等 |
・車内や駅の構内放送が聞こえない ・文字情報、手話、筆談等のコミュニケーション手段の活用など工夫が必要 |
・緊急時の情報伝達で配慮が必要 ・話し言葉が聞き取りにくく分からない時は、ゆっくりていねいに聞き返すことが必要 |
・補聴器 ・手話、口話、筆記 ・聴導犬 ・フラッシュランプなど |
<細分類および主な特徴、原因となる疾病等> |
●全聾(唖) |
・聴覚、伝音、感音器官の疾病や変調によって聴覚障害が生じる。 ・発生時期は先天性のものから高齢期まで幅広い。青年期以降を中途失聴者といい、音声言語獲得後の障害である。 ・先天的な聴覚障害では、成長過程での音声言語の修得が困難になり構音障害(発音がうまくできない)を伴うことが多い。 ・多人数での会話、騒音のある場所での会話が難しい。 ・重度の場合、補聴器は音の識別程度にしか機能しないため、補聴器使用者でも筆談や手話が必要な場合も多い。 ・高齢者の中には、医療や教育を受ける機会が不十分だった時代に生まれ育ったため、言語発達が不十分になり、コミュニケーションを取る上で大きな障害を持つ人が多い。 ・コミュニケーション手段は主として以下の方法がある:
聴覚活用→補聴器(主として難聴者―全体の8割程度が使用している)
上記の組み合わせ(場面やコミュニケーション相手に応じて対応) |
●難聴 |
●言語障害 |
・知的障害などと重複している場合、言語コミュニケーションが困難になり、意思伝達を身振り等に依存する場合がある。 ・言語障害は聴覚障害による二次的な障害を指す場合と、知的障害等による言語獲得の遅滞や脳の損傷による失語などがある。 ・失語症の場合、言葉が出てこない、意図しているものと違う言葉を発してしまう、話の理解が難しい、つじつまが合わなくなるなどの症状がみられることがある。 ・失語症は言語の障害であり、一般的に会話、文字の理解力・判断力はある。 ・身体的特徴として片麻痺をともなう場合がある。 |
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<内部>
公共交通利用における特徴・配慮事項等 |
使用器具等 |
・外見上判断できなくても歩行や階段の昇降などに困難がある ・心肺機能が低下している |
・外見上わからない部分に機器を使用している |
・酸素ボンベ ・ペースメーカー ・透析バッグ ・人工肛門など |
<細分類および主な特徴、原因となる疾病等> |
●心臓 |
・携帯電話等の電波によるペースメーカーへの影響が懸念される。 ・酸素ボンベを携行しなければならない(手引きの小さなカートで携行していることが多い)。 |
●腎臓 |
●呼吸器 |
●膀胱 |
・膀胱・直腸などの機能障害排泄の問題がある。 ・人工肛門、人工膀胱を造設している人をオストメイトと呼び、排泄物を溜めておく袋(パウチ)を装着している。 |
●直腸・小腸 |
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<高齢、一時的な移動困難等>
公共交通利用における特徴・配慮事項等 |
使用器具等 |
・素早い動きが困難
・階段の昇降が困難 |
・長距離の徒歩移動が困難
・休憩する場所が必要 |
・杖
・ベビーカーなど |
<細分類および主な特徴、原因となる疾病等> |
●高齢者 |
・知覚神経が低下する。20代と比べると65歳のお年寄りは50%低下。反応時間がかかる。
・視覚、聴覚の機能の低下による外部からの知覚情報の減少(鼓膜の硬化、音を感じる感覚細胞の減少、耳鳴り、水晶体の弾力性の低下) ・白内障(かすみ目)は、60歳で7割、70歳で9割の発生率。 ・脳の変化による記憶力の低下 ・骨が脆くなる ・自信、気力の喪失(外出意欲の低下、外出時の不安感など) ・排尿回数が多くなる、がまんできないなど、自律神経の失調、膀胱括約筋の低下による、排泄機能の障害 ・とっさの動きがしにくい ・長時間、長距離の歩行が困難(100〜300m歩いたら休憩を必要とする人も多い) ・平衡感覚がにぶりよろめきやすい ・関節の可動角度の減少により動きにくい(下りのスロープ、階段では足が痛むことも多い) ・つまさきが上がりにくく、敷居などのわずかな段差でもつまづきやすい |
●一時的な移動困難 |
・妊婦、子供連れ。
・大きな荷物を持っている人。 ・一時的なけが(松葉杖、ギプス等を使用している場合も含む)。 ・体調不良時など。 |
その他 |
・パーキンソン病、小脳失調症等は、平衡を維持できない場合がある。
・ホーム端部などでは危険 |
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パーキンソン病:筋肉が固くなる(固縮)、手足がふるえる(振戦)、動作が鈍くなる(動作緩慢)、立ち止まれない、転びやすい(姿勢保持障害)の四大症状の二つ以上があり、薬で症状が改善した場合に診断される。患者は日本全国で約12万人。 |
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