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(5)知的障害者
 知的障害とは、発達時期(概ね18才頃まで)において、脳に何らかの障害が生じたために、「考えたり、理解したり、感情をコントロールしたり、話したり」するなど知的な能力やコミュニケーションに障害が生じることです。物事の意味や抽象的な概念が分かりにくい障害です。以前は、精神遅滞、知恵遅れ、発達遅滞等の言葉が使われましたが、日本では1994年から「知的障害」という言い方が法律で認められ一般的になりました。
 知的障害があっても、その人はひとりの人格を持つ人であり、障害のない人と同じように生活し、社会活動する人です。
 同じ社会に暮らす仲間として、特別視することなく接することが大切です。
 知的障害は一見したところ外見からはわかりにくい障害です。態度や言葉づかいに敏感で、相手の言動がとても気になります。自分の障害のことを、人に知られたくないと思っています。
 知的障害者が、日常生活に支障を生じる時、何らかの支援を必要とする場合があります。日常使っている交通機関については問題ありませんが、初めて使う路線等の場合は、困難なことがあります。
 
 知的障害を含む代表的な症候群には、「ダウン症」、「自閉症」等があります。知的障害の診断は、社会生活能力検査、IQ(知能指数が70より低い。「知的障害児(者)基礎調査(厚生労働省)」より低い)等の方法により判定されています。
 知的障害者の方は約100万人と言われ、平成12年の「知的障害児(者)基礎調査(厚生労働省)」によると、障害者手帳を保有する知的障害児(者)数は約45万9千人、うち在宅者は32万9千人、施設入所者は13万人となっています。
 
ダウン症:
 ダウン症は症候群であり、21番目の染色体が1本多いまま受精してしまい、染色体総数が47本(正常は46本)ある染色体異常を伴う障害です。身体的な特性としては、出生時から体重、身長とも平均より少なくその後も同年齢の平均に比べ小さく、また、先天性の心臓疾患など内臓の奇形や白血病などの疾患が合併することも多い等の特徴があります。知能面では、一般に障害の程度が中度以下(IQ35〜50、ないし40〜50以下)の者が多いと考えられていますが、個人差も大きく、また、性格は一般に陽気で温厚、愛嬌があるといわれています。さらにダウン症者のコミュニケーションの発達特徴として、理解に比較して表出機能が遅れているという特徴があります。そのため偏見を受けることでのストレスを表現によって解決することや、他へ昇華することが困難なため、自傷や引きこもりが多くなります。またダウン症者は、他の知的障害者と比べると老化が早いといわれ、アルツハイマー病に罹患しやすいといわれています。
 
自閉症:
 自閉症も症候群であり、知的障害に関連した障害です。自閉症は心理的な原因で生じる情緒障害ではなく先天性の脳障害であり、原因は解明されていません。(1)社会的相互関係の障害、(2)コミュニケーション能力の障害、(3)反復常同的あるいは執着的行動、の三つが幼少期から見られることによって定義づけられる発達障害とされています。常同行動や執着的行動の具体的な例としては、台所用品や暖房器具などが違った場所にあると元の位置に戻してしまう、いつもと違う曜日に全校朝会があると大混乱に陥るなどがあり、同一性保持の名称で知られています。言語障害についてはさまざまですが、イントネーションの異常やカン高い声、問われた言葉の終わりの部分をそのまま繰り返したり、自分の知っていることをくり返し質問することなどがあります。知能の傾向として、描画・音楽・計算・記憶力(ただしそれが持つ意味には無頓着です)などで全体の能力に比べると不均衡に突出した能力を持っており、例えば、過去の出来事を思い出すことや、道順、物のありかを良く憶えています。
 
主な特徴としては
・一度にたくさんのことを言われると混乱します。
・コミュニケーションに障害のある人は、困ったことが起きても、うまく自分から人に助けを求めることができない人もいます。
・旅行や乗り物が好きな人が多く、列車やバスの最前列に座ったり、船員さんに話しかけたり、バス等の降車ボタンを押すことが好きな人もいます。
・社会的なルールや常識が理解できにくいことがあり、列車、バス、船の船内で知らない人に話しかけてしまったり、他の利用者から誤解を招く恐れのある人がいます。
・警戒心が弱く、犯罪被害にあいやすいのも特徴です。トイレ等で暴行や恐喝やいたずらをされることもあります。
 
(6)精神障害者
 精神障害には、「統合失調症及び妄想性障害」、「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」、「気分(感情)障害(そううつ病を含む)」等の疾患があります。平成11年の精神障害者数は約204万人、うち障害者手帳保有者は約20万人で、精神障害者全体の約1/10です。
 精神障害のある方は、「理解できない人、弱い人」と見るのではなく、これまでの人生の中で自分なりに最善を尽くしてきた人で多くの長所を持っている人であり、侵すことのできない尊厳を持ったひとりの人間として接することが大切です。精神障害者は病気を治療し、障害を克服しながら、自分の住む地域で普通に生活したいと願い、自分の生きがいを追求している人です。
注)平成14年3月現在では、障害者手帳保有者数は約22万人
 
 疾患別構成比を見ると、外来患者は「統合失調症及び妄想性障害(26.9%)」、「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(22.4%)」、「気分(感情)障害(そううつ病を含む)(22.3%)」が多く、入院患者は「統合失調症及び妄想性障害」が62.6%と最も多くなっています。
 
精神障害者の精神疾患の種類別構成
(厚生労働省「患者調査」平成11年)
 
統合失調症:
 ごく普通のありふれた病気です。約1%の発病率なので、世界中にこの病気で悩んでいる多くの人がおり、日本でも約67万人が治療を受け、20万人以上が入院生活を送っています。統合失調症の原因は正確には不明ですが、いくつかの因子の相互作用によると考えられています。すなわち、遺伝因子、脳の発達に影響するような妊娠・出産の合併症、生物学的・社会的ストレスなどが、統合失調症の発症に影響しています。
 その症状は、脳(神経)の働きが活発になりすぎた状態で、前兆として、不眠やあせりの気持ちがひどくなり、つらい気持ちになりますが、治療を受け十分な休養と睡眠をとって規則正しい生活のリズムを作ると、回復へ向かいます。
 この病気は以前は「精神分裂病」と呼ばれておりましたが、この呼称が誤解や偏見を産むとして家族会や当事者からの呼称変更が要望され、それを受けて精神神経学会が「統合失調症」に呼び名を変えることを決めました。
 
てんかん:
 てんかんとは、脳内に正常よりも強い電気的変化が突発的に生ずることにより、意識障害やけいれんの発作が起きる病気で規則的に服薬を続けると大部分は発作を防げるようになりますが、一部に発作をコントロールできず、発作が繰り返されることがあります。発作は通常2〜3分でおさまりますが、まれに発作が強くなったり、弱くなったりしながら長時間つづく「発作重積」と呼ばれる状態があり、この場合は医師の治療が必要になります。てんかん発作は、意識が完全に障害されていない状態の部分発作と、意識障害を伴う全般発作があります。ガムを噛むような状態から全身けいれんに移行する二次性全般発作もあります。
 
うつ病:
 うつ病は、ストレスにさらされれば誰でもなる可能性があり、いってみれば心の風邪ひきのようなものです。ストレスにさらされると、これに立ち向かうホルモン(副腎皮質ホルモン)が分泌されますが、普通は「フィードバック機構」が働いて次第にストレス反応が止まります。しかし、うつ病になるとこれが止まらなくなってしまいます。悲しいことがあったり、大きな失敗をしたときなどは、誰でも食欲がなくなったり眠れなくなったりしますが、うつ病はこれがひどくなって、そのまま治らなくなってしまったり、治りにくくなってしまった状態です。
 
そううつ病:
 気分が高揚した「そう」状態と「うつ」状態が交互に現れ、一般にそう状態よりうつ状態の期間の方が長くなります。遺伝的要因と環境要因が重なって、発病するものと考えられています。
 
出所: 「ゆっくり」「ていねいに」「くりかえし」―知的障害、精神障害のあるお客様への応対―(国土交通省)
墨岡孝著「なぜ心が病気になるの?」ナツメ社2003年7月
菅野敦、池田由紀江編「ダウン症者の豊かな生活」福村出版1998年
中根晃著「自閉症」日本評論社1999年
影山任佐著「図解雑学 心の病と精神医学」ナツメ社2002年
 
主な特徴としては
・精神障害の症状については、病気の種類、薬の服用状況によって表れ方が異なります。ストレスに弱く、疲れやすく、頭痛のある人、幻聴、幻覚の現れる人もいます。
・「統合失調症」の方は、きちんと治療を受け、服薬を継続していれば、もの静かで几帳面で、非常に繊細な人たちが多いといわれています。
・自分の病気のことを、人に知られたくないと思っている人が多いので、尊厳をもって対応します。
・一人旅をする時や、新しいことを経験するときは、非常に緊張し、不安を感じやすい傾向にあります。
・船内では緊張して、お腹が痛くなったり吐き気がするかもしれないので、トイレの近くに座るようにしていることもあります。
・ごく一部に、「不注意」「多動性」「衝動性」の行動特徴があり、船内で座席にずっと座っていることができない人もいます。
・以前に、駅や船内で、乗務員(船員)さんに不快な応対をされたことにより、それ以来、船や交通機関を利用することが怖くなった人もいます。
・到着港で降り損なっても、内気で声をかけられない人もいます。
 
(7)内部障害者や乳児連れ
 内部障害とは心臓、腎臓、呼吸器、膀胱または直腸、小腸、ヒト免疫不全ウィルスによる免疫の機能障害を言います。
 その程度は、身辺の日常生活が極度に制限を受ける1級から、社会での日常生活が著しく制約を受ける3級までとなっている。
 全体の半数以上が1級の障害者で、心臓疾患がもっとも多く、ついで腎臓疾患となっている。特徴としては、他の障害に比べ年々増加しているのが大きな特徴である。
 膠原病や、パーキンソン病、ペーチェット病などの難病も、病気の進行によって、日常生活に著しく制約を受ける。内部障害者の特徴としては、
(1)長時間立っているのが困難である。
(2)長い距離を連続して歩くことが困難である。
(3)障害の部位によっては、街中等空気の汚染されている場所に近づけないことや、酸素ボンベの携行が必要な場合がある。
 公共交通事業者の対応としては、通路や階段への手すりの設置、いすの設置、階段滑り止め、また内部障害者のためにトイレにオストメイト(洗浄装置)を設置したり、乳児連れのために授乳室やおむつ交換のためのベビーベッドを設けるなど、個々のニーズに応じた施設・設備の設置が望まれる。
 
(8)外国人
 標準図記号やマーク、英語等の併記など、日本語がわからない外国人にとっても利用しやすい配慮が必要である。
 
(9)大きな荷物を持った人
 例えば海外旅行用トランクやカートなどの大きな荷物を持ったまま、あるいは乳幼児を抱いたりベビーカーに乗せて、駐車場から船内まで利用する場合がある。各施設・設備においては、荷物を横に置いた状態での操作・利用などに配慮し、十分なスペースの確保などを図ることが望まれる。
 
(1)車いすの基本寸法
・JIS(日本工業規格)における車いす寸法は、1998年(手動車いす)、1999年(電動車いす)の改正により、以下のような規格となっている。
 
1)手動車いす寸法(JIS T 9201 : 1998)
 これまでは、大型、中型、小型の3区分であったが、1998年5月の第3回の改正により、自走用標準型と介助用標準型についての規定となった。
 また可能な限りISO(国際標準化機構)との整合化が図られた。
 
手動車いす寸法(JIS T 9201 : 1998)
部位 寸法値(mm)
全長(L-0) 1200以下
全幅(W-0) 700以下
レッグサポート(フットレスト高)(H-6) 50以下
折りたたみ幅(W-H) 320以下
全高(H-0) 1090以下
* 全幅については、日本国内の建築関係の現状を考慮すると、当分の間は650mm以下が推薦される。
 
 ここでの対象は、車いす使用者、杖使用者とした。この二者は、一般の建築計画で考えられている人の動作寸法では不十分なことと、行動条件が補助具の性能によって大きく左右されるためである。
 
1)JIS規格(大型)
 
2)最新型の例







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