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解剖学への招待

 事業名 篤志献体の普及啓発
 団体名 日本篤志献体協会 注目度注目度5


解剖学実習を終えて
高知大学医学部 高嶋泰世・高橋直美・武内俊明・竹内麻子
 
 去年、私たちは解剖学実習を行いました。今までにも実習はいくつかありましたが、解剖学実習は、初めて経験した本格的な医学実習です。実習については先輩から色々聞いており心の準備はできていたつもりでしたが、いざ御遺体を目の前にすると、すべて吹き飛び、今までに体験したことのないような緊張感とともに様々な思いが駆け巡りました。なんとも言えない恐れのようなものが混じった不安、未知への探究心、そして何よりも、目の前の御遺体を自分たちの手で解剖していくのだ、この方の献体してくださったお気持ちを無駄にしてはならないという体全体にのしかかってきた責任感は忘れられません。
 実習には、事前にその範囲の予習をして臨みます。筋肉や神経、血管などの同定ができるよう蛍光ペンなどで印をつけた図譜を実習室に持ち込むのですが、教科書と実際目にしたものが異なることも多く、同定にはとても苦労しました。しかし、班員同士で話し合いながら同定していくうちに、人体の精密で複雑な構造に何度も感銘を受け、実習への意欲がさらに増していったのを覚えています。今私たちは4回生になり、臨床的な医学の講義を受けていますが、それを学ぶにあたって解剖学の知識は不可欠であり、実習のありがたさを改めて感じています。教科書の文章や平面的な図・写真だけでなく、実習で実際に見、触り、重さを感じたからこそ、私たちの頭にしっかりと残っているのだと思います。それを基盤とし、これから私たちは膨大な知識を身につけなければなりません。同時に、医師としての自覚や責任感、人に対する思いやり、さらには命の尊さなど、考えなければならないことは果てしなくあり、押しつぶされそうになることがあるかもしれません。しかし、医学の発展を願って自ら献体して下さった方々の期待を裏切らないよう、立派な医師となり社会に貢献していきたいと思っています。
 最後になりましたが、ご献体してくださった方々の御冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、献体にご協力してくださったご遺族の皆様、爽風会の皆様、関係者の皆様すべてに心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
 
川崎医科大学 高瀬由莉
 
 納棺を終えて二十日後、父が亡くなりました。その時改めて、大切な方を亡くされたご遺族の方々のお気持ち、そして提供してくださった御本人やご遺族の勇気のいった決断に、本当に心から感謝したいと思いました。
 父が亡くなるまでの約十日間、私たち家族は全力で父を支え見守り、共に生きてきました。徹夜で看病しました。その頃は体力も本当は限界でどうしようもありませんでした。しかし、気力で生きる父を見て、私たちも気力で看病しました。そして、静かに息を引きとり冷たくなっていく父を見て思いました。私たちが解剖させていただいていたご遺体の陰には、私たちと同じように家族全員で病気と戦ってこられたご遺族の姿、精一杯生きてこられた方々が歩んでこられた人生があったということを。私は痛く切なく有難く感じました。
 実習では、私たち人間の体の仕組みがどうなっているのか、ご遺体に身を持って教えていただきました。実習が始まって一週間は慣れることに必死で、確かに辛かったです。失敗はしないか不安でした。しかし、知識が増えるごとに実習にも慣れ、不安も少しずつ少なくなっていきました。医学生でしかできない本当に貴重な体験をさせてもらうことができ感謝しています。
 私は、病気で弱っている父の姿を見て、医師になろうと思いました。これから先、時には戸惑うこともあると思いますが、ご遺体やご遺族の方々、そして亡くなった父の、医師になろうとする者たちへのメッセージを心に、医師を目指しがんばっていこうと思います。
 
奥羽大学歯学部 高橋衣理奈
 
 心地よい風の吹く六月の始め。私は慰霊式に立会っていた。菊の花、お線香の匂い。屋外で行われたその儀式では、私達は献体者の御遺族の方々の後ろに立っていた。これから私達が解剖させていただく方と、最も近しいところにいたと思われる方達の背中。私は祖母の葬儀のことを思い出していた。やりきれなさ、寂しさ、そして思い出だけが残った後の穏やかな空気。そのときは、実際に自分が解剖していくことを想像することができず、自分の追憶とともに、御遺族の方々がどんな心持ちであるか・・・など思いを巡らすばかりであったように思う。
 秋、私達の解剖学実習が始まった。人間の重みというものに驚いたのも束の間、半ば震える手で御遺体の包まれたビニール袋を開いた。それから実習の手順に従い、解剖を進めていった。時にはその困難な作業を投げ出してしまいたくなることもあった。そんな折、初夏の慰霊式のこと、御遺族の方々のことが思い出され、自分のうすっぺらな知識や興味を恥ずかしく思った。そして、班員と協力し合い、先生方に助けられ、悪戦苦闘しながらも御遺体と向かい合っていた。細い神経、細い血管、その一本一本が、体内に存在する臓器の全てが、一人の人間が生まれてから亡くなるまでの間、その人を支え、機能していたのだということを思うと、人体の精密さ、美しさというものを改めて感じた。また、それ以上に、私が解剖させていただいた方が、一人の人間として、どんなものを見て、どんなことを思い、生きて、そして今、私に人体の精密さについて教えてくれている偶然や不思議さについても考えた。
 最後に、解剖学実習を終えて、献体者、その御家族の方々への感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
 
聖マリアンナ医科大学 高橋千波
 
 解剖学実習の終わりが近づき、私は寂しさを覚えた。もうお別れしなければならない。思えば二ヶ月前、実習室に入った私はホルマリンのにおいに顔をしかめ、気持ち悪さを感じた。ご遺体にかかるビニール、そして布をはがすと今までにほとんど見たことのない息のない人体に想像以上に衝撃を受けた。ご遺体に最初にメスを入れるために決心が付くまでには時間がかかった。心を決めて入れたメスを持つ手に伝わる感触は初めてのものだった。それから、皮膚、筋肉、臓器、神経血管・・・をはがす、触る、観察する・・・という作業を繰り返した。私は教科書と授業ノートとご遺体とでにらめっこした。授業と教科書で勉強してきた筋肉や神経をご遺体の実際の部位と照らし合わせた。教科書では分からない筋肉の実際の硬さ、神経血管の太さ、実際の大きさ、立体的な構造などを勉強した。特に、心臓や腹腔内臓器は教科書では分かりにくく、血液の流れや病気の派生を理解する上で不十分だったイメージを学ぶことができた。解剖学実習の期間中には循環器、呼吸器、腎臓などの病気についての授業も行っているが、病気の理解度はイメージの有無では差は激しく、よりすんなりと病気を理解できた。
 解剖学実習の初期はどこが切っても良い所か悪い所か分からず、恐る恐るメスを入れていた為進行はものすごく遅かったが、回数を重ねるごとにその感覚や組織の様子を覚え、判断が明確になった。一度身についたこの感覚は、時間がたってもゼロになってしまうことは決してないだろうと思う。その反面、『人の体を切る』という行為に対する慣れの怖さを感じた。始めた頃はその日解剖の作業に慣れても、次の日に布をめくるとメスを入れる際にまた新たな決心が必要だった。しかし、回数を重ねるごとにその決心をすることは減り、作業のスピードが上がった。手術に当てはめてみれば、作業の手順、スピードへの慣れは必須である。が、気持ちの慣れは不要だと思った。気持ちまで体を切ることに慣れてしまったら、まさに患者の病気や臓器だけを見て患者の本質を見られない医師になってしまう。これから学ぶ多くの新しいことについても気持ちはいつも初心を忘れずにいたい。
 また、解剖学実習の前後でご遺体に対する思い、気持ちが大きく変化した。私たちは実習室ではマスク、キャップ、エプロン、長靴、手袋を装着する。初めの頃はどこかに献体にはなるべくなら触りたくない・・・という思いがあった。どこかで不清潔と思っていたからかもしれない。しかし、解剖を繰り返していくうちにご遺体の方のご意志、ご家族の方の思い、考えなどの崇高さをひしひしと感じ、学ばせていただいている感謝の気持ちが膨らみ、何よりご自分の体を献体しようと決めたご遺体の方に対する尊敬の念が高まった。そのため最初の思いは実習を終える頃には消え去り、私にとってご遺体は崇高で清らかなものとなった。ご献体して下さった方とそのご家族の方に心から感謝の気持ちを送ります。
 
岩手医科大学歯学部 高橋干春
 
 解剖実習を終えて、勉強についてはもちろんの事ですが、それ以上に歯科医師という職につくにあたっての精神面と、人間的に成長させて頂く事ができました。私達に自らの身体を貸してくださったという寛大な心に対する尊敬、感謝の気持ち、そして生命について考える機会を与えて頂いた気がします。
 実習前には、「私が解剖をして良いのだろうか」という不安と緊張ばかりでした。しかし、「いつしか献体された方が私に解剖されても良いと感じてもらえるようになろう」という気持ちに変わりました。また、献体された方が亡くなっているという現実は変わらないのですが、時がたつにつれて献体された方に「生命」を感じている自分がいました。献体された方に見守って頂いている中で、毎日が本当に充実していました。一日一日が私にとって精一杯であり、気がつくと一週間が終わり、そして約半年間の解剖実習が終わっていました。
 献体された方への感謝の気持ちを伝える方法は、自らがしっかりと知識を身に付けるという事だと知り、私にとっての解剖実習時間は、解剖実習室の中だけではなく、半年間の全てになりました。薬品で実習している訳でもなく、歯科彫刻の実習をしている訳でもありません。身体を提供してくださるという献体された方の重み・・・。どこかであきらめかけていた自信が、少しずつ回復してくるのがわかりました。人の何倍やって、人と一緒。うまくは言えませんし、結果として出たかも、よくわかりません。でも、そんな私を頑張らせてくれました。身を持って、言葉にならない、言葉よりも素晴らしい事を伝えて頂きました。そして、自分は、ここまで頑張れると教えて頂きました。
 歯科医にとっても、一人の人生の先輩としても、私にとって大切な大切な人であり、一緒に過ごした時間は宝物です。ありがとうございました。







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更新日: 2019年8月10日

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