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解剖学への招待

 事業名 篤志献体の普及啓発
 団体名 日本篤志献体協会 注目度注目度5


めぐる命
財団法人不老会 服部利孝
 
 娘が、やっと同意してくれましたので入会できることになりました。というコメントが付いて入会申込書が送られてきました。
 見れば縦書きの申込書で(現在は横書きの様式)、紙も黄ばみかけている。多分、十年くらいはその方の手元にあったのであろうと思われる。
 かと思えば、献体登録をすることは、死を約束することだと思っている。人間死んでしまえば唯の物となる。物になってしまうのに六人もの同意は多過ぎる、二人か三人でいいではないか。という意見もいただいております。
 また、ごく稀ではありますが、ご親族間の意見がわかれて、ご本人の志が無視されて、結局は献体されなかった報告も入ってきます。
 ここに示したのは、ほんの一例であって、不老会入会=献体登録をめぐっては、十人十色の人間模様を織り成している。一人として同じ人生がないように、献体登録に対する反応もさまざまである。
 しかし、献体を実現させたことによって全てが昇高され、志が生かされた時、何人も犯すことのできぬ聖域となっていくのであります。
 献体とは、命がけの大仕事であるといっても過言ではありません。人間ができることのうちで、これ以上のものはないと言えます。
 献体により、遺体の提供を受けた大学における医学教育=解剖学実習はどのようであろうか。
 解剖学実習を履修した学生たちの報告は、解剖学実習の学習予定表が明示されると、実習をやり終えることができるだろうかと、初めての経験への不安を感じている。
 実習第一日、実習室に入室して、白いシートに包まれたご遺体が整然と配置されている光景に、気持ちが落ち着いていくとともに、人の体にメスを入れていいのであろうかというためらいを持ち、複雑な心境をのぞかせています。
 いよいよ、体にメスを入れて、目的のものを剖出するのであるが、初期は無我夢中の境地であったものが、二週間たち三週間たちするうちに、適格な実習ができるようになり、実習が終わった時、学生は異口同音に次のように述べている。
 教科書には説明が書かれているが、人の姿が違うように、脈管や臓器の位置や形は人それぞれに違っていて、人体の構造やしくみはすごく複雑であるが、その働きや連係は精密で、神秘的でさえある。実に多くの知識や技能を修得することができたが、それ以上に大切に思えたことは、命の重さ、死とは、生とはを考えることができたことであった。ご遺体は無言なるが故に崇高であった。
 献体登録者は、いずれ死を迎え、肉体は終焉しても、献体により、若い学生に生命の尊さを感得してもらい、医学の中で行き続けており、命はめぐっていくと思っています。
 
熊本白菊会 林田シゲル
 
 心配していたお天気も日本晴れ。心はルンルンだが身体は年だ。疲れる。着席して白菊会総会の開会を待つ。肩を叩かれて振り向けば懐かしい友、玉名市のM様。私が入会してから5年後くらいに入会された方である。それ以降出席なさる度に天草まで送って下さっている。「また送ってあげましょう」との有り難いおことば。天にも上る気持ちとはこの事と喜ぶ。
 会は盛会に終了し、孫のごとき学生さんとの親しいふれ合いに感激しているところに、またまた3人の学生さんから「玄関まで送りましょう」と御多忙なのに恐縮する。そこへM様「玄関まで送ってもらって下さい。車を廻しておきますから」との事。嬉しくて涙が出そうだった。手を引いて下さる方、バッグを持って下さる方、私にも孫がいるが東京住まいで未だ逢った事もない。よたよた歩いていると学生さんが「おんぶしましょう」。私は3度びっくり。でも腰痛で休みたいところだったので嬉しかった。広い背中におぶさる。周囲の目も何のその。でも今思うと、学生さんは3人で赤面なさったのではないかと反省する。80有余年の中にはじめて肉親以上の愛情を感じた。玄関に着くと、M様が待っていて下さった。ただ「ありがとう」の声のみで車は動きだした。M様に「学生さんの名前聞いてきたの」と問われてあっと思った。2期生の方と分かっていても。自分のおっちょこちょいを改めて叱った。反省する事ばかり。車は走る。天草路を目指して。安全運転だ。
 真正面を向いたまま淡々と来し方を話される。全く、お若いが私の及びもつかぬ人生訓を持っておられる。「背負うた子に教えられて浅瀬を渡る」のごとく痛感した。一時間余りの旅であったが、私には大きな大きな道しるべであった。老い先短い人生ではあるが、日光を浴びて生活できる思いであった。お名残り惜しくはあるが、万感胸に迫り涙声で別れを告げた。
 「運命は糾える縄のごとく」。表が出たり裏が出たり、吉凶は世の習い。でもこんなにも楽しい一日があった事は、白菊会に入会しいたればこそと改めてM様と学生さんに心からお礼を申します。
 医聖になられるよう祈っております。
 
産業医科大学医聖会 葉山隆
 
 さわやかな秋の吉日、甥の結婚式に家族三人で出席した。家業の跡取り息子の挙式とあって、山陰の温泉郷の由緒あるホテルに多くの方が招かれ、披露宴は三時間をゆうに超えた。
 数回のお色直しのあと、一時間を過ぎた頃から祝宴はさながら歌謡大会の様相。逢えることを心待ちにしていた知人、縁者との会話もままならない。
 次々に繰り出される演歌にうんざりする。『この世に地獄があるとすれば、それは素人が歌うことだ』と言った皮肉屋バーナード・ショーの心境だ。
 所在ないまま、同じテーブルの義兄と盃のやりとりをする。彼はなかなかの論客で、田舎の連中に「理屈屋さん」と渾名されている。政治家の不勉強を嘆き、農協の不安な先ゆきを案じて、論調はするどい。やがて、『男の顔は履歴書』に話が及んだ。
 東京には裸一貫で地方から上京し、一代で財を成す人は少なくない。立志伝中の人の中には一等地に豪邸を建て、子供に惜しまず金を使い、「いいところ」から結婚相手を選び、豪華な結婚式を挙げさせる。そんなことを夢にしている人は結構いる。
 金さえだせば豪邸は建つ。しかし、折角大金をかけた豪華な結婚披露宴なのに、招待した政治家、有名人、取引先の役員、相手方の親族に比べ、こちら側の親族、友人席の顔が見劣りするのは、なんとしても悔しい。
 こんな想いを抱いている成金も多いとみえ、東京では、「親族、友人の出前屋」が繁盛しているという。そこに頼めば、銀行の重役、官庁の元局長夫妻からにわか仕込みの両親の学友まで、それらしい顔つきの人物(タレント)を取り揃えてくれる。
 意外にも、客からのリクエストで一番多いのは「上品な顔」だそうだ。ところが、出前屋さんの話では上品な顔の人が近年著しく減って、タレントの補充に苦労している。
 僕が子供だったころ、身近に立派な顔をしたお年寄りをよくみかけたものだ。特に品のよい老婦人の顔に何度も見とれた想いがある。
 織田信長の生涯は四十八年。松尾芭蕉は翁をつけて呼ばれているがわずか五十年。漱石は五十一歳で逝き、モリエールとシェークスピアの一生は五十一年と五十二年。中国の文豪魯迅は五十歳で泉下へ。
 僕自身がとうにその年齢を越えたいま、これらの方々の肖像画や写真に接し、人生を見事に生きた顔に、魅入るばかりだ。
 「過剰な情報、テンポの速すぎる社会。急速な長命社会の到来は欲望ばかりを肥大させ、僕たちの生活から落着きを奪い、人を容易に成熟させないのかもしれませんね」と僕は言った。義兄は盃を口にしながら、珍しくだまって聞いていた。
 やがて僕の顔をみつめながらのご託宣は「君の顔なら予備校時代の恩師ぐらいの役(タレント)どころだな」だった。
 
日本医科大学白菊会 東正恒
 
 昨年(2003年11月)献体登録をさせて頂き、このほど初めて解剖諸霊追善法要にお招き頂きましたので参列しました。名刹諏訪山吉祥寺の広壮な本堂に学長先生をはじめとする主催者側の皆様と大勢の遺族の方々がお並びのなかを、白菊会員ということで一段高い席にご案内頂いたのには恐縮いたしました。昨年ご遺体を捧げられた168名の方のお名前がすべて読み上げられ、丁重なご供養が営まれる様子を拝見して改めて感動いたしました。
 私はかねてから人体の複雑・精巧な仕組みにひとかたならぬ関心と敬意を抱いております。20年近く前、公開の解剖教室で、加工されていない実物のスライス標本、展開標本を観たことがあり、こんな素晴らしい造形は神のみがなし得るもので、到底人智の及ぶところではないとの感を深くしたことがあります。そして図解や模型では得られない、本物だけがもつ説得力に畏怖と愛着を覚えたものでした。
 人生の役目を終えたからといってその貴重な肉体をむざむざ灰燼に帰してしまうのはいかにも勿体ないと思うのです。かといって臓器や角膜の提供というかたちでの活用にはいろいろな制約、条件があり、たとえそれらをクリアしたとしても所詮他人のものが100パーセント適合することは期しがたいのではないでしょうか。
 そこでもっとも確実に死後の身体を役立たせる方法は、将来医学で身を立てる方々に学習・研究の材料として提供することだと思うのです。これなら老化しても病変があってもそれらの条件を前提として解剖・観察していただければそれなりの価値があるはずです。
 自分勝手ながらこのように考えていた私が、たまたま02年暮れに前立腺ガンの告知を受けたものですから、この機会にお世話になっている日本医科大学に献体登録ををするきっかけができたわけです。
 幸い家内も人体については科学的な目をもっており、私の献体には積極的に賛成してくれております。家内は鍼灸治療師としての経験や自然食品、ビタミン・ミネラルについての勉強などを通じて高年層の健康維持・老化防止に情熱を傾けており、私の身体についてもできるだけ元気に過ごさせ、最期まで健全だった肉体を提供することを目指しているようです。
 現在のところ私自身なんらの自覚症状もなく元気で、レール&ウォーク(鉄道乗り歩きと長距離ウォーキング)を趣味の生涯テーマとして、全国各地の鉄道に乗りに行ったり、街道歩きに精を出したりしておりますが、今後体調がどのように推移するのか、不安がないこともありません。その場合、漠然とした将来に献体という確固として誇るべき目標があることはひとつの救いでもあります。それまで白菊会員として過ごさせていただくことはたいへん有難いことだと思っております。







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更新日: 2019年8月10日

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