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【バックアップ施設は必要か】
 国のグループホームができた1989年当時は、バックアップ施設(24時間対応できる入所施設のみ)がないと、グループホームは設置できませんでした。そのせいか、施設がないとグループホームはつくれないと思われています。
 グループホームをつくるために、まず入所施設を作ろうなどという本末転倒な動きすら起きています。制度がスタートした当時は施設以外地域に資源がほとんどない状態ですし、グループホームへの理解もない時代だったので、バックアップ施設を条件とすることもやむをえなかったのかもしれませんが、現在はずいぶん地域にさまざまなサービスや地域生活を支える仕組みができてきました。しかし、それにもかかわらず、バックアップ施設が必要という誤解が根強く残っています。
 バックアップ施設がないとグループホームがつくれない時代が長く続き、さまざまな弊害が発生しています。その一つがグループホームの偏在です。施設がないとグループホームがつくれなかったので、施設がない地域にはグループホームがほとんどありません。入所施設もグループホームもない地域の障害者は、親元で暮らせなくなると、まず、別の地域にある施設に入所し、そして、その施設の近くのグループホームに移り住むということになります。こうして、その施設に空きができるとまたあちこちから入所し、そしてまた施設の近くのグループホームに移り住むということが繰り返されます。このまま進めば、障害者があまり住んでいない町と、障害者が多く住む町ができていってしまうのではないでしょうか。全国の市町村の中で施設がある市町村のほうが少ないのです。そして、グループホームも施設がある市町村にしかできてきません。
 もう一つの弊害は、バックアップ施設がグループホームをつくるので、その施設を利用していないとグループホームに入居することが難しいのです。自分の町にはグループホームがあるのに、グループホームを設置した施設と関係ないので、入居できない場合もあります。自分が通っている通所施設がグループホームづくりに熱心でないとグループホームには入れないということも起こります。
 
【現在の制度はどのようになっているのか】
 「知的障害者福祉法に基づく指定居宅支援事業者等の人員、設備および運営に関する基準(平成14年6月13日厚生労働省令内80号)」の93条(支援体制の確保)には次のように書かれています。
 「指定地域生活援助事業所(グループホームのことです)は、利用者の身体及び精神の状況に応じた必要な支援を行うことができるよう、知的障害者援護施設等との連携その他の適切な支援体制を確保しなければならない。」とされています。
 この省令を解説している「指定居宅支援事業者等の人員、設備および運営に関する基準について(平成15年3月28日障発第0328019号)」では、「指定地域生活援助事業所は、サービスの提供体制の確保、夜間における緊急時の対応等のため、地方公共団体や社会福祉法人等であって、知的障害者援護施設等の施設を運営する者や他の関係施設機能を活用すること等により、支援体制が確立できると見込まれる者との間の連携及び支援の体制を整えなければならない旨規定したものである。」と説明しています。
 つまり、以前は知的障害者援護施設等を運営する法人しかグループホームを設置できなかったのですが・現在は(1)知的障害者援護施設等を運営する者(2)他の関係施設機能を活用すること等により、支援体制が確立できると見込まれる者、このどちらかの者との間の連携及び支援の体制を整えられる法人ならグループホームを設置できるということになります。
 自分では施設を持っていなくとも、別の法人の知的障害者援護施設等が(この施設には小規模授産施設も含まれます)連携し、サービスの提供体制の確保、夜間における緊急時の対応等、支援体制を確立するか、「関係施設機能を活用すること等」と「等」もつけていますので、支援体制が確立できるなら、施設以外との連携でもグループホームを設置できます。身障療護施設、老人保健施設、小規模作業所などをはじめ、ホームヘルパーの事業所や法人の人的資源(法人のスタッフが緊急時対応を行う)も連携及び支援の体制として認められています。このことにより、施設をもっていないNPO法人でも、グループホームを設置できるようになりましたし、施設がない地域でもホームヘルパーの事業所や法人の人的資源、小規模作業所などとの連携でグループホームを設置できるようになりました。この変更は支援費制度がスタートする前から(平成14年5月14日)の通知で行われています。
 国の制度は平成14年に変わっていますが、実際に事業所の指定を行う都道府県(政令市・中核市は市)での話になると、施設を持っている法人以外はグループホームの設置を認めなかったり、施設以外は連携施設(支援体制の確立)と認めないという都道府県が多くあるようです。しかし、全国には施設をもたないNPO法人が運営しているグループホームは数多くありますし、施設以外の事業所や法人自身が支援体制をつくり、グループホームを運営しているところも数多くあります。ねばり強く都道府県と話しあってみてください。
 
【施設を含めた地域のネットワークで暮らしを支えていくことが必要】
 バックアップ施設をめぐる根本的な問題は、連携や支援体制がないとグループホームだけでは存在が難しいという点にあります。
 グループホームの現在の支援費は、世話人を雇うだけでなくなってしまいます。世話人の相談にのったり、退職した世話人の後継者を探したり、経理やグループホームの運営のための事務を担う人を雇うお金がありません。そこで、どうしても施設であったり、作業所であったり、親の会であったり、誰かの支援がないとグループホームだけでは存在できないのです。施設や親の会などに依存しないとグループホームの存続は難しく、そしてそのために、その施設や親の会の関係者しか入居できない社宅のようなグループホームができあがってしまいます。この問題を解決するには、グループホームが4〜5カ所でまとまった、自立した運営が可能にすること、入居しているひとり一人の入居者の暮らしを支えるには、一つの施設が丸抱えで支えるのではなく、施設も含めた地域のネットワークで暮らしを支えていくことが必要となります。
 
知的障害者地域生活援助支援費(平成16年)
(地域区分が丙地の場合。地域により割増)
入居定員 障害程度区分1 障害程度区分2
4人 131,470円 65,730円
5人 118,320円 52,590円
6人 109,550円 43,820円
7人 103,290円 37,560円
障害程度区分2の額は262,920円(年額3,155,040)を入居定員で割った額
障害程度区分1の額は上記障害程度区分2の額に65,730円を加えた額
 
【グループホームをつくる】
 グループホームをつくるには、法人でなければつくれません。(国の支援費制度ではなく、県や市町村の制度で法人でなくともグループホームを設置できる場合もある。市町村に確認が必要。)法人を設立するには2つの方法があります。小規模社会福祉法人になるか、NPO法人になるかです。
 小規模社会福祉法人を設立するには、1,000万以上の資産を法人が持っていることが条件になります。グループホームをつくるためにも費用が必要ですから、かなり資金づくりが大変になります。
 一方NPO法人だと、法人設立はずっと簡単になります。しかし、NPO法人には法人税がかかり、収益があると法人税を支払わなくてはならない問題があります。
 法人をどうするかが決まったら、連携施設をどうするかを考えなければなりません。近くに施設があれば連携し、支援してもらえるかもしれません。
 施設に頼らない場合は作業所やホームヘルパーの事業所との連携を考えるか、法人の中で緊急時に対応できる体制を考える必要があります。
 
【変わりつつあるグループホーム】
 グループホームというと、比較的障害の軽い人たちが暮らすところと考えられてきました。しかし、重い障害があっても、グループホームでは自分でできないことは援助者に手伝ってもらえます。お金のことがわからなくても、洗濯が自分でできなくても、一人でお風呂に入れなくても、できないことは援助者が手伝ってくれます。多くの援助を必要とする人たちが暮らしているグループホームも少しずつですが増えてきているようです。
 グループホームで生活したいけど「近くに施設もないし、グループホームもない」など、地域での生活を希望していても、結局入所施設へ入らざる得ないという人が多くいます。
 確かに最近まで国の制度では施設がバックアップしないとグループホームはつくれませんでした。そのため、全国的にグループホームは施設の周辺にしか存在せず、施設のない地域ではグループホームをつくることができませんでした。しかし、ようやく数年前からNPO法人などのバックアップ施設をもたない法人でもグループホームを運営できるしくみになりました。
 2003年4月に支援費制度がスタートして、財源の不足など多くの課題と将来の不安がある制度ですが、ホームヘルパーやグループホームは利用しやすくなり、ニーズがあるのは間違いありません。また、サービスを利用するだけでなく、サービスを提供する事業者になることもやりやすくなりました。各地で、バックアップ施設をもたず、家族が中心のNPO法人や小規模社会福祉法人がつくるグループホームができてきています。
 しかし、地域の現状はどうでしょうか。全国どこでも、障害者が希望すれば施設に行かずに地域で暮らしつづけることが可能でしょうか。退所を希望する施設入所者が暮らす場は、地域に十分あるのでしょうか。グループホームで施設から退所してくる人を受け止め、さらに増えるグループホームを地域で支えるしくみはどうなっているのでしょうか。グループホームで本当に本人が希望している暮らしを実現できているのでしょうか。
 多くの援助を必要とする人たちが暮らしているグループホームや本人や家族が中心のNPO法人や小規模社会福祉法人がつくるグループホームが増えてきたとはいえ、まだまだ数も少なく地域も限られています。本当に障害者や家族のみなさまの希望に応えるためにグループホームが全国どこの地域でもつくれること、またその数を増やしていけることが必要です。
 
【障害の重い人が地域生活を送るための経済基盤〜グループホームの生活から〜】
 地域で、障害のある人が生活するグループホームの中には、身体障害に知的障害など、重複している人が多く利用するグループホームがあり、入居している人たちの障害はさまざまですが、重い障害のある人たちが多く、働いて生活費を稼げる人はいない状況です。入居している人は年金や手当、あるいは生活保護などを使って、その生活にかかる費用を得ています。
 グループホームでは、障害にかかわりなく自分の生活費で暮らしています。自分の年金、手当、家族からの援助、生活保護などで得た生活費から家賃、水道光熱費、食費、消耗品費等を払い、衣類やその他生活に必要なものを買ったりしています。
 グループホームにかかる費用は、そのホームあるいはホームのある地域によって異なります。
 例えば、家賃など借りている建物によっても、その地域の相場によっても異なります。自治体単独で身体障害者グループホーム制度を実施し、一部家賃補助がされている地域のグループホームでは、その分を除いた金額を入居者数で割っています。
 生活保護を受けている場合は、家賃も生活保護の中でまかなわれています。
 水道光熱費は、入居者の障害によって異なります。身体障害があって、電気器具の使用が多い場合など、負担が大きくなるようです。
 食費は月々決まった金額を払います。昼食は通所施設に通っていて給食などがある場合通所先にその給食費を支払います。お弁当の人はお金を持っていったり、グループホームで作ったお弁当をもっていったりします。
 消耗品費は、みんなで使用する日用雑貨品などで、ホームで買うための費用となります。
 あとは自分の生活に必要なものを買うお金と小遣いなどとなります。小遣いなどを少しずつためておいて、個々の余暇に利用している人もいます。
 これらの生活費の収入源となるのは、年金、手当などと通所先で働いたお金、親からの援助、生活保護の受給などのお金です。
 働いたり、親からの援助、仕送りなどでは難しい場合には生活保護を受給することができます。ただし、生活保護を使って生活していくためには、障害者の生活基盤がグループホームにあって、きちんと家族から独立していることが大切です。
 障害者の生活を親が管理していたり、実家が生活の場なのかわからないような状況では需給は難しくなっています。
 グループホーム入居したばかりの頃は、グループホームでやっていけるのか、本人も親もまだ不安に思う時期があります。そのような時期は、生活の場がどっちつかずになる場合があります。こような場合には、今までたくわえてきた年金があれば、それを使って試してみる時期を設けてみるのもいい方法のようです。自信がついてきたら、次の経済基盤として年金と生活保護で生活することができます。
 ただし、生活保護は障害者の自立にとって、万能と言えるわけではありません。民法に定められた扶養義務者(親や兄弟)に所得がたくさんあると生活保護を受けることが難しい場合もあります。また、複雑な制度なので申請から受給決定までにはいろいろな困難にぶっかったり、制度のことがよくわからないことがあります。生活保護を考える場合、生活保護をよく知っている人などに相談することもあります。
 グループホームを立ち上げの動機として、「障害のある人が地域の中でふつうの生活がしたい」等の理由をよく聞きます。「地域の中で」ということと「ふつうの生活」というのはどんなことなのか。
 「地域の中で」ということは、まず建物が地域の中に存在することから始まります。ただ、それだけでは地域の中で生活しているとはいえません。グループホームからいろいろな所へ出かけたり、買い物をしたり、地域の人たちと交流があって初めて地域の中で生活していることになります。
 また、グループホームで生活しているだけで「ふつうの生活」をしているとは言えません。その人の年相応の生活がそこにあるかどうかが問われます。「地域の中で」「ふつうの生活」をするのに欠かせないのは、自分のお金を使ってその人らしく生活することです。
 障害のある人がグループホームで自分の借りている部屋の家賃を払って生活し、電車賃を払って自分の行きたいところに行き、食費を払って自分の食べたいものを作ってもらって食べ、自分が欲しい洋服を買って着ることなど、お金を使ってこそ、恩恵ではない自由な選択の道が開けます。
 消費者となって初めてお店でお客となり、障害のある人が使いやすいものを要求することができます。消費者であることが選べることとなります。
 障害があることで無料になること、割引がされることは結果として決して安くはありません。ただほど高いものはないということです。無料であるということと引換に、多くのものの中から、自分にあったものを選ぶということが閉ざされているように感じます。
 障害のある人の生活で大切なのは、働いて生活できない人に無料あるいは割引の恩恵を施すことではなく、年金をはじめとする収入源をもっと整え、そのお金を使って生活していけるようにすることが重要となります。
 グループホームに入居するときには、年金を生活費として使うこととなりますが、入居する前の在宅の頃に、年金を使っていない人が多くいるかと思われますが、将来の安心のためにと年金を貯金しています。一生懸命に貯金をしていて、その障害のある人は自分で使えるお金をまったく持っていない場合があります。
 お金は貯めているだけでは生きてきません。お金を使うことによって、多くのことを経験し、生きていく力を身につけていくことができるかと思います。お金を使う力、生活していく力を早い時期から養うことの方が、将来の安心につながるはずです。年金は有効に使えば本当に力強い障害者の味方になります。
 蓄えるだけの発想から一歩進んで、障害のある人にとって将来の安心を手にするためにも今、お金を使ってほしいと思います。
 多くの介助を必要とする入居者で、グループホーム職員が介助するだけでは人手が足りない場合は、グループホームで生活している人でもヘルパーの申請ができることになっています。(自治体によってはグループホームに派遣しない所もあるようです。)
 さらにヘルパーを使ってもそれ以上に介助が必要な人の場合には、生活保護の他人介護料を受ける方法もありますが、この場合、ほかのすべての制度を利用して、それでも援助の足りない部分があることをきちんと説明する必要が出てきます。
 これまでのヘルパー制度は、高齢者が中心で知的障害のある人に対しても、最近始まったばかりです。まだまだ障害者に対応できる事業所も人材の数も少なく、特に障害の重い人に対応できるヘルパーはみんなで育てることから始める必要があります。
 しかし今後、ヘルパー制度を有効な社会資源に育てていくことが地域での生活を充実させる鍵となってきます。外出に援助を利用すれば、入居者の個別の外出も可能となります。その人が希望するならば、グループホームを出て一人で暮らすことにも役立ちます。
 ヘルパー制度を使うことに挑戦しながら、障害のある人にかかわれる人材を育てていくことが大切となります。
 障害の重い人が地域の中で生活するときに、さまざまな制度をうまく使い、援助の量を増やし、生活の幅を広げていくことが必要となります。
 グループホーム職員は「入居者がさまざまな制度を使って、うまく生活できるように調整する役割」を担うことが強く求められます。今までの世話人という考え方から、地域での生活のコーディネーターへとその役割をきちんと見直すことが必要となってきています。







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