研究成果
1. 実船搭載型舶用推進プラント(SMGT2)の設計・製作
1.1 ガスジェネレータモジュールの設計・製作
SMGT2では基本的にはSMGTのV型ガスジェネレータモジュールの成果を引き継ぐこととした。しかし、SMGTの陸上試験での経験により得た改良すべき項目については、変更設計を行って適用した。
平成14年度は、NO.1およびNO.2軸受共に滑り軸受への変更を検討したが、慣らし運転は転がり軸受で実施した。平成15年度は、ガスジェネレータロータの軸受を滑り軸受に変更して、性能試験、耐久試験等各種試験を実施した。また、タービン動静翼、ディスク等の高温部の温度評価を行い、設計許容値内であることを確認して耐久試験を開始した。平成16年度は、圧縮機とタービンマッチングを調整するため、タービンのスロート面積を狭めたノズルを製作して性能試験を実施した。また、耐久試験を実施し信頼性の確認を行った。なお、性能試験、耐久試験等は、後述の図3.2-1に示す日程で実施した。
1.1.1 設計・製作および改良設計
(1)軸受
SMGTではガスジェネレータロータの軸受として転がり軸受を採用した。このうちタービン側のNO.2軸受(円筒コロ軸受)は構造上、軸受周囲温度が高温となり、運転中の軸受部分の温度上昇による熱膨張の影響で、軸受の内外輪とコロの隙間(軸受内隙間)の変化が大きくなる(図1.1-1参照)。このためSMGT2では信頼性を重視し、NO.1軸受、NO.2軸受ともに急負荷変動等のいろいろな運転状況においても影響を受けにくい滑り軸受に変更することにした。
滑り軸受を採用したガスジェネレータの断面図を図1.1-2に示す。軸受はティルティングパッド式を採用し、NO.1軸受側はスラスト軸受とジャーナル軸受、NO.2軸受側はジャーナル軸受とした。滑り軸受の取り付けに必要なスペースは転がり軸受と大きくは変わらないため、基本的な全体構造を変更する必要は無かったが、軸受の変更に伴いガスジェネレータシャフトやディスク及び軸受廻りの静止部品の設計変更を実施した。
滑り軸受を適用したロータの軸振動解析を行い検討した結果、大きな問題はないことを確認した。
図1.1-3に滑り軸受用ガスジェネレータロータを示す。
また、転がり軸受から滑り軸受への変更により軸受への潤滑油給油量が増加したことに対応するため、潤滑油の給油および排油系統の大容量化を図った。
(2)軸流圧縮機
SMGT2にはSMGT陸上試験で実績を積んだV型軸流圧縮機を用いる。SMGTにおいて海洋環境を考慮して、防食試験を行い、圧縮機部品に適した防食技術の研究を実施した。特に、デミスタ故障時に塩水粒子を大量に含んだ吸気に晒されるエンジン吸い込み空気流路面に対しては、防食強化が不可欠である。SMGTでは実験機において動翼、静翼、ディスクには防食技術を適用したが、圧縮機ケーシングおよびベルマウスについては外表面のみに耐熱塗装を施工していたが、内面の空気流路面には防食処理を行っていなかった。そこで、SMGT2では防食コーティングを流路面および外表面に施工した。コンプレッサケーシングについてコーティング改良前後の比較写真を図1.1-4〜1.1-7に示す。
(3)第1段タービン静翼スロート面積の変更
「3.信頼性試験」で記述しているように、平成15年度に実施した性能計測試験の結果で、熱効率は目標値を満足することができたが、出力が僅かに目標値を下回った。この理由は、ガスジェネレータタービンのスロート面積が若干広いため、設計目標に対して圧力比が低く、空気流量が少ない点で動作しているためである。
そこで平成16年度は、ガスジェネレータタービンの第1段静翼のスロート面積を狭くした部品を製作し、圧縮機特性に合わせて高圧力比、大流量側で動作するよう、マッチングの改善を図った。
しかし第1段タービン静翼は中空翼の精密鋳造品であり、鋳物形状から変更した場合、多大な型修正費用及び設計、製作日数を要することになる。そこで検討を行った結果、第1段静翼の取付角度を1°回転させるとスロート面積を5%狭くすることができ、ほぼマッチングが改善できる見込みを得ることができた。このため、機械加工部分の変更のみで対応を実施し、従来と同一の鋳物を使用することが出来た。静翼取付角度とスロートの関係を図1.1-8に、製作した第1段静翼を図1.1-9に示す。
1.1.2 各種運転試験での評価
(1)タービン動・静翼の温度評価
信頼性の評価にあたって、ガスジェネレータ高温部での冷却性能を運転試験で把握しておく必要がある。SMGT2のガスジェネレータタービンは基本的にSMGTと同じであるが、SMGT2の信頼性試験においてタービン動・静翼やディスク等の高温部の温度計測を実施し、設計許容値以下の温度となっていることが確認できた。温度計測は熱電対や示温塗料によって実施した。
(2)耐久試験
平成15度の第1回耐久試験(平成15年12月〜平成16年1月、項目3 参照)の後、圧縮機、ガスジェネレータタービン、燃焼器、シャフト類およびハウジング等について分解点検を実施した。点検の結果、問題は見られなかったため、同一部品を用いて再組立を行い、引き続き第2回耐久試験に供試することとした。
第2回耐久試験(平成16年3月〜6月)の後、圧縮機、ガスジェネレータタービン、燃焼器、シャフト類及びハウジングについて分解点検を実施した。点検の結果、遠心圧縮機インペラの短翼に割れが発見された。その他の部品について異状は見られなかった。
インペラは、原因調査及び対策を実施し、対策を施した部品を第3回耐久試験に供試した。その他の部品については同一部品を用いて再組立を行い、第3回耐久試験(平成16年9月〜11月)に供試した。
第3回耐久試験の後、第2回耐久試験後と同様に各部品の分解点検を実施した。点検の結果、第2回耐久試験で不具合のあった遠心圧縮機インペラ短翼の割れは確認されず、対策の効果が確認できた。また、その他の部品についても異状は見られず機械的健全性を確認できた。耐久試験終了後のガスジェネレータ外観を図1.1-10に示す。分解後の軸流圧縮機1段動翼、1段静翼及びを図1.1-11、図1.1-12に示す。分解後のガスジェネレータタービン1段静翼及び動翼を図1.1-13、図1.1-14に示す。分解後の燃焼器ライナ及び尾筒を図1.1-15、図1.1-16に示す。分解後のインペラの外観写真を図1.1-17に示す。
(3)インペラ翼振動計測
インペラについては振動応力の確認のため、運転中に翼の振動計測を実施した。その結果、長翼短翼ともに強度上問題ないことが確認できた。
SMGTの構造図
図1.1.-1 NO.2軸受概要
No2軸受部 拡大図
(円筒コロ軸受け)
No2軸受部 滑り軸受け
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