3.4.2 台風ボーガスの検証
台風ボーガス投入前と投入後の解析値を観測値と比較した。
台風ボーガス投入前の解析値は、以下のデータを使用した。
・初期 :RANAL
・推算時間3時間以降 :RANAL、Neargoosを初期・境界値とした推算計算結果
台風ボーガスを投入する際に用いたパラメータを表3.12に示す。パラメータは、緯度・経度、最大風速は気象庁発表のベストトラックから設定した。
表3.12 台風ボーガスパラメータ
月日 |
時間(JST) |
経度(deg) |
緯度(deg) |
最大風速(m/s) |
最大風速半径(km) |
9月22日 |
21:00 |
127.2 |
26.3 |
48.6 |
80 |
9月23日 |
0:00 |
127.2 |
26.6 |
48.6 |
80 |
|
3:00 |
127.2 |
27.0 |
48.6 |
80 |
|
6:00 |
127.3 |
27.4 |
48.6 |
80 |
|
9:00 |
127.3 |
27.8 |
48.6 |
75 |
|
12:00 |
127.5 |
28.3 |
48.6 |
75 |
|
15:00 |
127.8 |
28.9 |
48.6 |
75 |
|
18:00 |
128.1 |
29.5 |
48.6 |
60 |
|
21:00 |
128.6 |
30.4 |
48.6 |
60 |
9月24日 |
0:00 |
129.0 |
31.0 |
48.6 |
70 |
|
3:00 |
129.7 |
31.7 |
48.6 |
80 |
|
6:00 |
130.5 |
33.0 |
48.6 |
75 |
|
9:00 |
131.3 |
34.3 |
48.6 |
80 |
|
12:00 |
132.6 |
35.7 |
43.2 |
90 |
|
15:00 |
133.7 |
37.1 |
37.8 |
80 |
|
18:00 |
135.6 |
38.8 |
35.1 |
80 |
|
21:00 |
137.0 |
40.0 |
35.1 |
80 |
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図3.6に(1)RANAL、(2)台風ボーガス投入後の解析値、(3)ベストトラックの台風中心の海面補正気圧の時系列変化図を示す。RANALは期間中960hPa以上の気圧深度で、ベストトラックと比較して高かった。気圧深度は、24日9時に976hPaまで減衰し、24日21時は973hPaと再び強くなり、ベストトラックの気圧変化傾向とは一致しなかった。
台風ボーガス投入後の解析値は、9月22〜23日にかけての930hPa程度の深い気圧深度を表現しており、台風の減衰期の気圧変化傾向はベストトラックと同じだった。
図3.6
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台風中心の海面補正気圧の時系列変化
(BOGUS: 台風ボーガス投入後の解析値、RANAL: 領域客観解析値、BOGUS: 台風ボーガス投入後の解析値)
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図3.7に苅田港の風向風速(高度30m換算)の時系列変化図を示す。風向風速は、観測値、RANALとボーガス投入後の解析値について描画した。RANALは、推算期間中は、風速10m/s以下で観測値と比較して小さかった。台風ボーガス投入後の解析値では、最大風速は、観測値と出現時刻は異なっていたが同程度の大きさを再現していた。
しかし、台風中心から苅田港の距離が大きい時間の風速は、観測値と比較して大きくなる傾向があった。この傾向は、他の地点にも同様であった。これは、解析値に存在する台風の除去では台風中心から400kmを対象にするのに対し、人工的な台風の投入では400km以上にもrankine渦を投入するためと考える。
図3.7
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苅田港における風向風速の時系列変化図
(OBS: 観測値、ANA: 領域客観解析値(RANAL)、BOG: 台風ボーガス投入後の解析値)
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台風ボーガスを投入した解析値と、投入しなかった解析値を初期・境界条件として48時間の推算を行い、その結果を比較した。
図3.8に台風ボーガスを投入した場合と投入しなかった場合の計算値の進路推定誤差の時系列変化図を示す。台風ボーガスを投入しなかった場合、推算時間が長くなるにつれ、進路推定誤差は増加し、台風中心が八代海、周防灘を通過した推算時間30〜36時間では、100km以上の推算誤差を生じた。一方、台風ボーガスを投入した場合、推算開始から15時間後までに進路推定誤差は70kmに達するが、15時間後以降は増加しなった。台風中心が八代海、周防灘を通過した推算時間30〜36時間では、台風ボーガスを投入しなかった場合の半分程度の進路推定誤差になった。
以上から、台風ボーガスを投入することで台風の推算精度は向上する可能性があると考える。
図3.8
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台風の進路推定誤差の時系列変化図
(BOGUS: 台風ボーガスあり、NOBOGUS: 台風ボーガスなし)
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進路推定誤差
図3.9に台風ボーガスを投入した場合と投入しなかった場合の計算結果を示す。計算結果は、台風中心の海面補正気圧の時系列変化図とし、ベストトラックの海面補正気圧を合わせて描画した。台風ボーガスを投入した場合、初期時刻の台風中心の海面補正気圧は、ベストトラックに近い940hPa程度であった。推算計算の最初の1時間で台風は減衰し、台風ボーガスを投入しなかった場合と同程度の気圧深度となった。
推算計算の最初の1時間の大きな減衰は、初期値が台風の構造を表現することができていないために生じたと考える。この問題は、台風推算において重要な問題であり、今後改善していく必要がある。
図3.9
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台風中心の海面補正気圧の時系列変化 (BOGUS: 台風ボーガスあり、NOBOGUS: 台風ボーガスなし)
台風中心の海面補正気圧の時系列変化
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