3.3.2 結果
各格子点データを初期・境界値に使用した場合の推算精度の比較を行った。精度は、計算OPTIONの検討と同様に気圧深度誤差と進路推定誤差で評価した。
(1)大気格子点データ
3種類の大気格子点データを初期・境界値とした場合の気圧深度誤差を表3.9に、進路推定誤差を図3.3に示す。NCEPを初期・境界値として推算を行った場合、気圧深度誤差が27.3hPaとRANAL(9.9hPa)、GANAL(13.9hPa)と比較して大きく、推算時間24時間で400km以上の進路推定誤差が生じた。進路推算誤差の大きい時刻では、台風は減衰し、シャープな気圧構造を表現できていない事例が数事例存在した。
GANAL・RANALを初期・境界値として推算を行った場合、大きな精度差はないが、気圧深度推定誤差はRANALを使用した場合の方が小さく、進路推算誤差は推算時間が長くなるにつれ、RANALを使用した場合の方が小さくなった。
以上から、本研究では、大気格子点データとしてRANALを使用した。
表3.9 各大気格子点データを初期・境界値とした場合の気圧深度誤差
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RANAL |
GANAL |
NCEP |
気圧深度誤差(hPa) |
9.9 |
13.9 |
27.3 |
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図3.3
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各大気格子点データを初期・境界値とした場合の進路推定誤差
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進路推定誤差
(2)海水温格子点データ
海水温格子点データは、推算期間中は一定値として与える。Near-goosは1日毎、OISSTは1週間毎に解析が行われているため、表3.10の期間のデータを使用した。
大気格子点データには前項の結果から、RANALを使用した。
表3.10 海水温格子点データの時間の設定方法
海水温格子点データ |
時間の設定方法 |
Near-goos |
推算時間12〜36時間に該当するデータ |
OISST |
推算時間24時間にもっとも近いデータ |
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2種類の海水温格子点データを初期・境界値とした場合の気圧深度誤差を表3.11に、進路推定誤差を図3.4に示す。大きな精度差はないが、気圧深度推定誤差はNear-goosを使用した場合の方が小さく、進路推定誤差は、推算時間が大きくなるにつれ、Near-goosを初期・境界値に使用した場合の方が小さかった。
以上から、本研究では、海水温格子点データとしてNear-goosを使用した。
表3.11 各海水温データを初期・境界値とした場合の気圧深度誤差
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RANAL |
OISST |
気圧深度誤差(hPa) |
9.9 |
10.5 |
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図3.4 各海水温データを初期・境界値とした場合の進路誤差
進路推定誤差
台風ボーガスは、人工的に台風を作成し、解析値における台風の精度の不十分さを補償する方法である。解析値の台風精度の不十分さは、主に以下の2つの原因から生じている。
(1)台風が発生・発達する熱帯海上の観測網の空間スケールが台風の擾乱スケールと比較して粗いため
(2)解析値の解像度が、台風の構造を表現するには粗いため
台風ボーガスによる推算精度の向上についてT9918事例を対象に調査を行った。
台風ボーガスは、MM5に付属のLow-nam,S., and C. Davis, 2001の開発したスキームを使用した。このスキームは、(1)解析値に存在する台風を除去し、(2)新たに人工的な台風を投入することで作成する。
(1)解析値に存在する台風の除去
台風中心から400km未満に中心を持つ渦の除去を行う。
(2)人口的な台風の投入
投入される台風は、rankine渦(式(3.3)〜(3.5))で、軸対称の渦である。A(z)は、高度補正係数で、地表面を1とし、高度が高くなるにつれ小さくなる。台風の中心は、飽和状態を過程しており、眼は存在しない。
この台風ボーガスの設定に必要な最大風速は、気象庁発表のベストトラックを参考に設定した。
α=-0.75
A(z) :高度補正係数、rm :最大風速半径、vm :最大風速
対象時刻を1999年9月22日21時とし、台風ボーガスを作成した。ボーガスを投入する前の解析値は、RANALを使用した。
図3.5に以下の4種類の1000hPa面における風速分布と風ベクトルを示す。ボーガス投入前、投入後の解析値は気圧コンターも合わせて描画した。
・ボーガス投入前解析値
・台風除去後の解析値
・投入したボーガス台風
・ボーガス投入後の解析値
対象時刻におけるベストトラックデータは中心気圧が930hPa、最大風速は90knot(約48.6m/s)であった。台風ボーガス投入前の解析値は、ベストトラックのデータと比較して、中心気圧が962hPaと浅く、最大風速は34.2m/sと小さかった。(図3.5、左上)その解析値から台風中心の半径400kmの渦を除去し(図3.5、右上)、rankine渦を投入した。投入したrankine渦は、軸対称な構造を持った渦である。(図3.5、左下)投入後では中心気圧が939hPa、最大風速45.1m/sと、ベストトラックに近い気圧や、最大風速を表現していた。(図3.5、右下)
図3.5
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1999年9月24日9時JSTにおける地上風速分布と海面補正気圧分布図
(左上:ボーガス投入前解析値、右上:台風除去後、左下:投入したボーガス台風、右下:ボーガス投入後解析値)
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(拡大画面:201KB)
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