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(2)大気境界層
 大気境界層は、MM5には8種類のOPTIONが用意されている。大気境界層は、乱流を計算し、潜熱・顕熱を上層に輸送するなど、台風の構造を表現する上で重要な項目であり、No PBLやBulkは、台風を推算する目的には適切でない。
 Christopher A.Davis 2001は、
・Burk-Thompsonは、台風を強く発達させすぎる
・MRFは、境界層を深く作り、30m/sを超える風の場では、非現実的になる
と報告し、BlackadarかEta PBLを推奨している。
 本項では、BlackadarとEta PBLの進路推定誤差を比較した。BlackadarとEta PBLの計算負荷、進路推定誤差・気圧深度誤差も大きな違いはなかったが、Eta PBLの方が少し進路推定、気圧深度誤差が小さく、計算負荷が小さかった。したがって、大気境界層はEta PBLを使用した。
 
表3.4 大気境界層のOPTION毎の調査結果
項目 内容 計算負荷 気圧深度誤差(hPa) 進路推定誤差(km)
No PBL なし - -
Bulk バルク法 - -
Blackadar K-theory 1 12.7 98.7
Burk-Thompson Mellor-Yamada - -
Eta PBL Mellor-Yamada 0.88 9.9 93.3
MRF K-theory - -
Gayno-Seaman Mellor-Yamada - -
Pleim-Xiu K-theory - -
 
(3)積雲パラメタリゼーション
 積雲パラメタリゼーションは、MM5には8つのOPTIONが用意されている。台風は、積雲対流がその発達維持に重要な役割を果たしているが、個々の積雲対流のスケールは格子間隔より小さく表現することができない。積雲パラメタリゼーションは、格子間隔以下の積雲対流による熱や水蒸気の鉛直輸送や降水を評価する過程である。
 各積雲パラメタリゼーションには、対流活動を何に依存させるか、あるいはフィードバックによって特徴づけられ、効果的に働く格子間隔がある。(表3.5)大領域の格子間隔は、Grell, Kain Fritchスキームが効果的だが、Christopher A.Davis 2001は、Kain Fritschスキームは降水を多く推算する傾向があると報告している。したがって、本研究では、大領域はGrellを使用した。中・小領域は、積雲パラメタリゼーションは使用しなかった。
 
表3.5 積雲パラメタリゼーションのOPTION毎の調査結果
項目 対流活動を何に依存させるか フィードバック 格子間隔 領域
None なし なし <
5km

Kuo 鉛直積算した水蒸気の収束量 積雲の内部と外部における気温と水蒸気量の差に基づく加熱と加湿 >
30km
-
Grell 格子スケールの成層の不安定化割合 補償下降流による断熱昇温および乾燥化、雲頂・雲底におけるデトレインメント 10-
30km
Arakawa-Schubert 格子スケールの成層の不安定化割合 補償下降流による断熱昇温
および乾燥化、雲頂におけるデトレインメント
>
30km
-
Fritsch-Chappell 成層の不安定度 補償下降流と上昇流、下降流による熱と水蒸気の輸送、雲頂・雲底におけるデトレインメント 20-
30km
-
Betts-Miller 成層の不安定度 積雲の内部と外部における気温と水蒸気量の差に基づく加熱と加湿 >
30km
-
Kain-Fritsch Fritsch-Chappellスキームを精密にし、積雲の側面における混合を考慮したスキーム 5-
50km

Kain-Fritsch2 Kain-Fritschスキームに浅い対流を考慮したもの 5-
50km

 
(4)計算設定
 前項までに選択した計算OPTIONを考慮し、本研究で使用した各領域の計算設定を表3.6に示す。
 
表3.6 計算設定
項目 大領域 中領域 小領域
水平解像度 13.5km 4.5km 1.5km
水平格子数 140×140 241×181 181×151
鉛直層 36 36 36
タイムステップ 40秒 40/3秒 40/9秒
微物理 Simple ice Reisner graupel microphysics sheme Reisner graupel microphysics sheme
積雲パラメタリ
ゼーション
Grell cumulus scheme none none
PBL scheme Eta PBL Eta PBL Eta PBL
Radiation scheme Cloud radiation scheme Cloud radiation scheme Cloud radiation scheme
Land-surface scheme Five-Layer soil model Five-Layer soil model Five-Layer soil model
 
 メソ気象モデルMM5は、大気の気象要素や、海水温を初期・境界値に計算を行う。大気の気象要素や海水温の格子点データは、複数の数値予報センターから様々なデータが公開されており、それぞれ作成方法が異なる。数値予報モデルの精度は初期・境界値の精度に依存する。本章では、各格子点データを初期・境界値に使用した場合の台風の推算精度を評価し、最も適切な格子点データを調査した。検証台風事例は、計算OPTIONの検討と同事例とした。
 
 大気格子点データ、海水温格子点データは、様々な数値予報センターから、領域や格子・時間間隔、客観解析手法等の異なるデータが公開されている。本章では、その中から大気格子点データ3種、海水温格子点データ2種について調査を行った。調査を行った格子点データを示し、2004年現在の各格子点データの仕様を表3.7〜3.8に示す。
 
大気格子点データ
(1)気象庁発行の領域客観解析データ(以降 RANAL)
(2)気象庁発行の全球客観解析データ(以降 GANAL)
(3)アメリカ気象局発行の全球客観解析データ(以降 NCEP)
 
海水温格子点データ
A 気象庁発表のアジア域客観解析データ(以降 Near-goos)
B アメリカ気象局発行の客観解析データ(以降 OISST)
 
表3.7 大気格子点データの仕様(2004年現在)
  RANAL GANAL NCEP
作成機関 気象庁 気象庁 アメリカ気象局
格子間隔 20km×20km 1.25度×1.25度 1度×1度
領域 アジア域*1 全球 全球
時間間隔 6時間 6時間 6時間
客観解析手法 4次元変分法 3次元変分法 3次元変分法
台風ボーガス あり あり なし
 
表3.8 海水温格子点データの仕様
  Near-goos oisst
作成機関 気象庁 アメリカ気象局
格子間隔 0.25度×0.25度 1度×1度
領域 アジア域 全球
解析時間間隔 1日 1週間







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