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5. 会議内容報告
5.1 国際コンファレンス
会議運営部会・論文WG主査 村川 英一
 
 国際コンファレンスは, “Technical Trends and Future Prospectives of Welding Technology for Transportation, Land, Sea, Air and Space”をテーマに, 7月15日・16日の2日間にわたり開催された。予備を含め350部準備したプロシーディングが足りなくなるほどの盛況であり, 年次大会終了後もIIW事務局からプロシーディングの残部に関する問合せが幾度も寄せられたという事からも, 海外を含め関心が非常に高かったと言える。このように多くの参加と高い関心が得られた第一の理由は, 造船・自動車および航空機を含めた輸送機器という分野に的を絞った時宜を得たテーマ選定および企画であり, 第二には, 論文の執筆および講演準備のために多くの時間をさいて下さった講演者各位の貢献が挙げられる。
 
 コンファレンスは, 恒例のHoudremont Lectureを含め, 31件の講演論文と, 40件のポスター論文から構成されており, プログラム的には, 陸上・海上・航空・宇宙輸送機器の3セッションに大きく分けられる。第1日目には陸上輸送機器, 第2日目には海上および航空・宇宙輸送機器に関する講演が行われた。また, ポスターセッションは, 第1日目の午後, コーヒーブレイクの時間も活用して行われた。International Conferenceでは, 通常の講演およびポスターセッションと併せてPortevin LectureあるいはHoudremont Lectureが隔年毎に行われることが恒例となっており, 大阪大会では, 柘植綾夫氏(三菱重工業(株))がHoudremont Lectureとして, “Mission of Japanese Manufacturing Industries in the 21st Century from the View Point of Heavy Industry”(日本の製造業が21世紀に果たすべき役割;重工業の視点から)と題して, 21世紀の人類が直面する課題は, エネルギー・環境および経済問題であり, こうした問題に対して製造業は, 責任を負うところが大きい。20世紀後半におけるエネルギー危機や環境問題を技術革新で乗り越えた日本の経験は, 正しい解決の方法を真撃な姿勢で探究することにより問題は克服できるという証である。21世紀においては, 産官学さらには世界の国々が協調し, 人類と地球環境の調和を実現しなければならないという趣旨の, グローバルな立場から示唆に富む講演をされた。
 
柘植氏によるHoudremont Lecture
 
Dilthey氏による基調講演
 
会場における質疑応答
 
 一方, 自動車・車両などの陸上輸送機器に関するセッションでは, Keynote Lectureとして, 松井仁志氏(トヨタ自動車(株))とUlrich Dilthey氏(Aachen University)が, 日本およびヨーロッパ自動車産業における現状と展望, 特に, 薄板溶接のためのパルスGMA溶接における高・中・低周波数領域における適応制御, また, マルチマテリアルを想定したカーボディー設計に対応した, アーク溶接・ろう付け, 電子ビーム溶接・レーザビーム溶接・機械的締結・接着などの各種溶接・接合技術について講演された。これに引き続き, 陸上輸送機器に関して, 海外からの5件を含め13件の講演があった。具体的には, 隙間尤度, コーティングに対する影響の小ささ, 変形抑制の面で優れた, 多電極あるいは帯電極GMAブレージングに関する報告, 低真空・低圧電子ビーム溶接, レーザ・アークハイブリッド溶接に関する報告, アルミ合金の接合のためのMIG, YAGレーザ溶接, 摩擦攪拌接合(FSW), ハイブリッド溶接, 2電極MIG溶接の比較, また, FSWに関しては, 自動車用アルミ合金の接合における, 継手の力学的, 材料学的, 化学的特性評価および接合装置に関する報告, 平行加熱による回転変形の抑制法に関する報告, FSWと同様に, 車体の軽量化, 省エネルギー, 設備投資, 作業環境の面で優れたスポット摩擦溶接についての講演があった。強度評価については, 自動車用鋼材およびアルミ合金溶接継手の疲労強度評価基準の提案, ハイドロフォーミング材の溶接における応力ひずみおよび疲労強度を予測するための一貫シミュレーション法とこれを用いた継手設計および施工法の改善に関する報告があった。材料の分野では, 車体用材料としての高合金鋼の可能性を溶接性, 耐食性の観点から評価した報告, 高張力鋼について静的強度, 疲労強度, 衝撃強度の観点から, スポット溶接・アーク溶接・レーザ溶接・マッシュシーム溶接など各種溶接法について検討した報告, さらに, 自動車産業におけるMAG溶接の品質と生産性を支えている日本の溶接ワイヤーの技術動向, 特に化学組成および表面処理に関する報告があった。また, レーザ溶接の分野では, レーザとACパルスMIGのハイブリッド化によるアルミ合金の低入熱, 高速溶接の例, 燃料インジェクターなどの精密部品の溶接変形をサブミクロンに抑制する技術としてツインビームレーザ溶接が紹介された。
 第2日目の午前の海上輸送機器のセッションでは, Keynote Lectureとして, Richard Boekholt氏が, 1997年にスタートしたShipbuilding WGの活動を中心に, ロボット溶接・レーザ溶接・アルミ合金の溶接・溶接技能者の問題, さらにヨーロッパにおける造船業の展望について講演されたのに続き, 杉谷祐司氏が多品種少量生産, ロボット化, モニター/センシング技術, CAD/CAM, CAPMの観点から, 日本における自動化の動向に関して報告された。さらに, 一般講演として, 海外からの講演2件を含め5件の講演があった。一般講演でも自動化による生産性や品質の向上に関する報告が多く, エレクションやLNGのメンブレンの溶接を対象としたポータブル自動溶接システムと検査・計測システムが紹介された。また, 過去20年にわたる日本における建造技術の変遷を定量的に分析したデータを踏まえ, Computer Integrated Manufacturing(CIM)の展開について, ハードウエアおよびソフトウエアあるいは情報技術の観点から示された。また, CAD/CAMとの連携によるマルチロボットシステムの高度化に関する報告があった。環境問題については, 技術導入, 設備投資の際に環境に対するインパクトをTotal Cost of Ownershipという概念に基づき定量的に評価する手法が, 新規溶接熱源を導入する場合をひとつの例として紹介された。さらには, FSWを用いて日本で建造中のアルミ合金製大型高速船の溶接技術についての報告があった。
 午後の航空・宇宙輸送機器のセッションでは, Keynote LectureとしてAirbus A380などの大型航空機における溶接技術戦略についてFrank Vollertsen氏(Bremer Institut für angewandte Strahltechnik)が講演し, 航空機の胴体および翼の製造において軽量化, 製造・保守費の削減を達成するために, 溶接は重要な基盤技術であり, Airbusにおけるレーザ溶接の適用実績が, 品質保証および変形制御等について紹介されるとともに, 将来における各種レーザ溶接およびFSWに関する展望が示された。また, 日本の宇宙機器における各種接合技術について藤原力氏(三菱重工業(株))が講演し, 高品質アーク溶接, ろう付けに代り, 新しい技術としてFSWおよび超塑性加工と拡散接合の組合せなどが登場しており, 今後, 航空・宇宙分野では, FSWおよびレーザ溶接が注目される旨が報告された。さらに, 海外からの講演4件を含め6件の一般講演があった。内容としては, 押し出し型材をFSWにより接合し航空機の床構造を製作した例についての報告があり, 溶接前後における熱処理により強度的要求を満足することができ, 耐食性にも優れることが示された。また, レーザ溶接とFSWがリベット接合に置き換わる一つの要因として, 溶接が可能なAA6013やAA6056などのアルミ合金の開発があり, これら材料の溶接継手の疲労強度および破壊靭性を検討した結果が報告されるとともに, 課題として軟化域に起因する問題の克服が指摘された。また, FSWについては, コスト削減および品質向上の面でFSWは効果的であるが, さらなる適用拡大のためには, 今後の課題として, プロセスの統一規格および設計許容応力の設定, 変形の低減の必要性が述べられた。また, 国際宇宙ステーションにおける溶接については, 搭乗員の居住性および搭載機器の安定稼動を保障するための温度制御用冷却システムの信頼性を支えるものが1万2千箇所を超える溶接であり, 100%の信頼性を実現した溶接技術が紹介された。ジェットエンジンについては, 軽量化・高温・高圧化に対応する技術としての耐熱コーティングや補修技術の重要性が示されるとともに, レーザ肉盛, Powder Metallurgical ProcessやMicro Spark Coatingなどの新しい技術が紹介された。同様に, 液相・固相・気相・プラズマなど異なる状態を活用した新しい接合技術についての講演もあった。
 ポスターセッションでは, 幅広くより多くの方に参加して頂くために, 対象領域を広げ, 輸送機器関連技術に加え基礎技術のカテゴリーを設けた。時間は, コーヒーブレイクも含め1時間ではあったが, 発表者と参加者が個別にディスカッションでき, リラックスした雰囲気での良い意見交換の場となった。なお, ポスターセッションヘの投稿論文は, 講演論文とともにCD-ROMに収録され配布された。
 
陸上輸送機器のセッションでの講演
 
FSWに関する講演状況
 
セッションでの講演状況







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