日本青年館 INFORMATION
郷土で学び 郷土を学び 郷土に貢献する ・・・鹿児島の心
「今年の艸舎の祭りは、いつ頃ね。」近所の人に尋ねられるようになった。四年間続けてきた大きな成果である。『何だか楽しそうなことをやっているところ』、艸舎に対する印象としては、最高の評価である。二十一世紀のスタートに新しく開館した鹿児島県の青年会館、人と地域を巻き込んだこれまでの挑戦の一端を振り返る。
■イメージづくり
「艸舎」誕生
鹿児島県青年会館は新館オープンに先立ち、イメージづくりにこだわった。新しく付けた名前は「艸舎」(そうしゃ)、「艸」は草という意味。「鹿児島の若者よ、雑草のようにたくましく、しなやかに」という理事長の思いが一つの文字に集約された。「舎」は、鹿児島の伝統的な郷中教育の場「学舎」にちなみ、小さな学び舎という意味で名づけられた。
地域再発見の取り組み
最初に取り組んだのが「地域再発見のための読書活動」である。鹿児島の昔話を屋外の朗読劇で演出し、鹿児島の年中行事や祭事を取り入れた。これが先に言う「艸舎の祭り」である。
(独)国立オリンピック記念青少年総合センター「子どもゆめ基金」の助成を受け、子どもを対象にした読書活動を青年達と一緒につくりあげてきたものだ。初年に取り上げたのは、十五夜行事。鹿児島ならではの十五夜は、「芋名月」という名前に象徴され、さまざまな関連催しの企画が立ち上がった。翌年は「さつまの七夕 ネブイハナシ」・・・「ネブイハナシ」とは、七夕の前の晩に青年達が無礼講で大騒ぎした昔の行事の名前。
実際、準備の段階では、スタッフ一同眠らずに朝を迎えることがしばしばあった。
一つの行事を終える中で次のイメージがみんなの中で浮かんでくる。月、星で「天」と続いた後は、田の神で「土」、河童で「水」、これまでの活動をまとめる今年はすでに昨年の夏から、「火」のイメージが立ち現れている。言葉の持つイメージを関わる人達それぞれが思い描きながら、一つの「艸舎の祭り」へとまとめていく。
■調べる・学ぶ
年中行事や祭事を取り上げることは、関わる青年達に、郷土の歴史や文化について深く学ぶきっかけをつくる。家庭の中で何気なく過ごしていた行事、恒例の青年団活動としてこなしていた祭事や伝統芸能、他の地域を知ることにより、比較し、差異を意識することができる。また、他者からの評価により価値を再発見することができる。
そんな小さな気づきが、日頃の活動を見直し、新しいことへ取り組むきっかけづくりにならないかということをねらっている。
また、「祭り」の中には必ず学習の機会を取り入れている。最初は読書活動の手法について一から学んだ。学校現場、県立図書館等、多くの経験を積んだ社会教育主事の指導を受けた。「読み聞かせは、単に本に書かれていることを読むだけでなく、自分の人格を通して子ども達に読み聞かせることです。その気持ちをしっかりと持ち、責任を持って取り組んでください・・・」。読書活動の最終目的が、自立する子どもを育てることだということを教えられた。
物語る力
また、各年のテーマに沿い、その分野の一流の講師を招き講演をしてもらう。さらに、青年達にとって、「子どものための」という目的は、地域において、様々な団体と関わる手法や手段を学ぶためにとても大事なプロセスを踏むことになる。このような活動を通してふるさとに「誇り」を持つ青年たちを育てる、これからの地域を担うリーダー達の「物語る力」(企画力・想像力・表現力)を養うことを目的としている。
活動3年目に、菱刈町青年連絡協議会が、「お話しとどけタイ!」という活動をスタートさせ、町内のすべての校区公民館で子ども達に読み聞かせや言葉遊び、方言を使った朗読劇を実施した。さらに各地の「ふるさと学寮」等でも自然と読み聞かせを実施する青年団の姿が見られるようになった。
■一緒につくる
屋外で実施する朗読劇は、天候にも左右されやすく、多くの問題を引き起こすが、その分いろいろな知恵が結集される。「七夕」の時は、会場を囲む暗幕には茶農家が使う「カンレイシャ」が運びこまれた。「田の神さあ」では、農家に返す約束でトラック一台分運び込まれた稲穂が、会場中を埋め尽した。農村の家々からは昔の農機具も提供された。霧島山の麓からは新鮮な農産物も届き、特設の青空市場も出現する。「ガラッパどん」では、青年団仲間の大工の力を借り、本物のような滝が完成、水しぶきに皆が歓声を上げた。
みんなでつくる
イメージの中から出されるアイディアに関わる人たちの背景にある家族や仲間、地域から物と知恵が集まり、力をあわせて形が生まれてくる。この2年は、鹿児島デザイン協議会ジュニアの若手デザイナー達も加わり、会場やロゴマークのデザインを行う。「紙粘土で田の神さあをつくろう」等、子どもを対象にした創作活動も実施した。
地域の親子読書会も参加者から出演者として関わり始めた。昔話や読み聞かせの絵本も自分達で探し、親子で一緒に舞台に立つと、演出のアイディアも生まれてくる。隣接する県立短期大学の学生も、艸舎に顔を出し、事業に協力してくれるようになった。当日に向けて、青年も子どもも一緒にわいわい集まりながら準備を進める。
艸舎正面壁の前が特設舞台
青年輪読会「島津日新公いろは歌」
■輪を広げる
事業をはじめるにあたっては、様々な先人の知恵と経験を借りながらスタートした。大正10年創立の「鹿児島童話会」からは八十代のベテラン読み手が舞台に立った。また、読書活動の手法を学ぶ講座では、子どもの読書活動を専門に取り組む「かごしま文庫の会」のメンバーが指導。本物並みの河童に扮し、お話の魅力、言葉の力を教えてくれたのは、九十歳の大先輩。現在では、地域の幼稚園、小学校等様々なグループが艸舎を拠点に読書活動に取り組んでいる。「艸舎の事業には全部参加している」と胸を張る子どもも出てきた。明治から続く伝統的な学舎も新しいスタイルの艸舎に協力的だ。伝統芸能の薩摩琵琶や天吹(竹の縦笛)の奏者も出演子ども達も熱心に聞き入る。
毎年のテーマ毎に紹介する年中行事や郷土芸能の資料は、市町村教育委員会の協力が欠かせない。青年輪読会で使われた「島津日新公いろは歌」の試みでは、長年「いろは歌」に取り組む加世田市教育委員会が、子ども達の「手づくりかるた」を届けた。30年以上鹿児島の農村を撮り続けるプロの写真家も快く作品をギャラリーに展示してくれた。多くの先人達が、ふるさとの若者のためであればと骨身を惜しまず自らの持っている技や知恵を提供してくれる。
場を広げる
建設当初、応接間として設計されていたスペースは、開館時に小さなギャラリーに衣替えした。ギャラリーでは、事業に合わせて竹細工や帖佐人形の県内伝統工芸の紹介を行う他、写真展や絵本原画展等を開催。一昨年から、鹿児島在住の若手芸術家支援として、絵画やイラスト、木工家具等の作品紹介を行っている。ギャラリーは独自に、いろいろな人が出入りする場として存在をアピールし始めている。
このように少しずつだが、確実に艸舎で取り組む事業やこの場を支える人の輪が広がってきている。
薩摩琵琶弾奏 共研舎
玉江小親子読書会「ぎんのすず」の子ども達
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