第4章 試作の概要と基本動作の確認
遅延合成方式の新マイクロ波標識の検討を行うにあたり、実験による評価を行うため試作を行った。その概要と基本動作の確認結果を示す。
遅延合成方式の新マイクロ波標識の動作については、次の点について実験による検証が必要である。
(1)送受アンテナ間アイソレーション量の把握
(2)遅延合成方式の理論の検証
近年、電磁界シミュレータの発展に伴い、高周波回路やアンテナ特性等は、実用上有意な精度で計算が可能になってきた。しかしながら、アンテナ間アイソレーション量の検討のように、比較的大きな開境界を定量的に精度良く計算することには限界があり、実験による検証が必要である。また、遅延合成方式の理論については、先に述べた定式化の妥当性を含めて、実験によって応答符号波形生成の検証を行っておく必要がある。従って、図4-1に示すように、遅延合成方式新マイクロ波標識システムのうち、アンテナ及びデジタル遅延合成回路について試作を行う。
図4-1 新マイクロ波標識システムの試作検証部分
送受アンテナ間アイソレーション量の定量的把握等を目的として試作したアンテナの概要並びに基本特性について述べる。
第3章 図3-63の設計を基に、アンテナ間アイソレーション実験用ビーコンアンテナの試作を行った。外観を、図4-2に示す。
前述の通り、片面4素子導波管広壁面スロットアレーアンテナの構成とし、導波管はXバンドの標準導波管WRJ-10とした。導波管狭壁面の寸法が狭いほど、より理想的な水平面内無指向性の特性が得られる可能性があるが、特殊製法を用いることなく容易に製作が可能である観点から、標準導波管を用いた。入力端も実験の汎用性を考慮し、方形の標準導波管フランジとした。
アレーの両端設ける円形のグランド板は、この寸法も検討のパラメータに出来るよう、φ=100、140、230mmの3種類を製作した。
アンテナは、アイソレーション測定のために送信用、受信用それぞれ1個を製作した。
図4-2 試作アンテナの外観
試作したアンテナの基本特性について評価した結果を表4-1に示す。同表より、概ね設計通りの良好な特性が得られていることがわかる。
次に、詳細な測定結果について示す。
アンテナの周波数に対する入力反射係数の特性を図4-3に示す。同図からわかるように、いずれのアンテナも入力反射係数の測定結果は計算値と良く一致し、9.4GHzを中心として9.3GHz〜9.5GHzのレーダー周波数帯では、反射係数-20dB(VSWR約1.2)を十分下回る、良好な特性を得た。
アンテナの指向性特性を図4-4に示す。水平面、垂直面ともに計算結果と良く一致する測定結果を得た。水平面内の平坦度は約±4dBで、WRJ-10導波管を使用した設計としては妥当な結果といえる。垂直面についても、ビーム幅18.5度を得ており、新マイクロ波標識用のアンテナとしては妥当な特性が得られた。
表4-1 アンテナの基本特性評価結果
項目 |
計算値 |
測定値 |
反射係数 |
-25.8dB |
-24.6dB(No.1) |
-25.0dB(No.2) |
アンテナ利得 |
12.2dB |
11.6dB |
水平面内平坦度 |
±4.6dB |
±3.8dB |
垂直面ビーム幅 |
17.2度 |
18.5度 |
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図4-3 アンテナの入力反射係数特性
図4-4 アンテナの指向性特性
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