(7)ローカル周波数掃引方法と応答頻度の解析
遅延合成方式の新マイクロ波標識は、レーダー周波数帯の9300〜9500MHzをカバーするために、ローカル周波数を掃引させる必要があることは先に述べた。ここでは、そのローカル周波数掃引速度と応答頻度について検討する。
新マイクロ波標識の応答頻度等に関係するパラメータを数式化すると次式のようになる。
はじめに、単純なシステムについて検討する。遅延合成方式は、これまでの検討でわかるように非常に狭帯域なシステムとなる。従って、レーダーに対して確実に応答するためには、新マイクロ波標識はローカル周波数の掃引周期を十分長くし、レーダーと周波数が一致する時間を確保する必要がある。一般的な船舶レーダーの空中線回転周期を2.5秒程度とすれば、計算により200MHzのレーダー割り当て周波数帯域内を約625秒で掃引する必要がある。この場合、新マイクロ波標識の応答頻度はレーダー送信波の周波数帯域に従って、概ね表3-2のようになる。
表3-2 遅延合成方式新マイクロ波標識の基本応答頻度
レーダー送信波周波数帯域幅 |
応答 |
無応答 |
2.0[MHz] |
2〜3回転分 |
247〜248回転分 |
5.0[MHz] |
6〜7回転分 |
243〜244回転分 |
10.0[MHz] |
62〜63回転分 |
187〜188回転分 |
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この結果より、この基本的なシステムでは新マイクロ波標識が応答/無応答を繰り返す周期が非常に長くなってしまい、運用上問題である。そこで、従来の低速掃引型ビーコンが実施しているような、複数システムの並列運転を考える。周波数離調に関する解析の項で示したように、単位遅延時間0.1μsの遅延合成処理は、レーダーの送信周波数と新マイクロ波標識のローカル周波数との関係において、10MHzごとに正常な符号が得られる条件が存在する。この特性を積極的に使用し、0Hz付近のみを狭帯域フィルタで通過させるのではなく、正常符号を応答する±10MHz、±20MHz・・・をそれぞれ中心とする狭帯域フィルタをフィルタバンクで構成することにより、応答頻度を向上できる可能性がある。今回試作検討も行う新マイクロ波標識システムでは、使用デバイスの性能制約等により、50MHzの帯域、すなわち±25MHzの帯域を持つため、200MHzのレーダー周波数帯をカバーするには4つのシステムで良いことになる。その具体的なブロックを図3-62に示す。同図のように、単なる帯域制限ではなく、フィルタバンクによって複数の所望帯域を通過させるシステム構成とする。なお、今後回路で取り扱える帯域が200MHz、すなわち±100MHzに向上できれば、1枚の基板で構成できることは言うまでもない。
図3-62 フィルタバンク形式による応答周期の向上
この構成による新マイクロ波標識の応答頻度の計算結果を表3-3に示す。これより、基本システムと比較して、応答/無応答の周期が改善された。
表3-3 フィルタバンク構成の遅延合成方式新マイクロ波標識の応答頻度
レーダー送信波周波数帯域幅 |
応答 |
無応答 |
2.0[MHz] |
2〜3回転分 |
9〜10回転分 |
5.0[MHz] |
6〜7回転分 |
6〜7回転分 |
10.0[MHz] |
常時 |
- |
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なお、表3-3において、レーダーの送信周波数帯域が10MHz以上の場合には、常時応答するシステムになっている。従来のビーコンでは、符号を常時応答してしまうことはレーダーが本来の目標を探知する事を阻害する要因になるとして、動作/休止シーケンスを設ける等の工夫がなされてきた。そこで、本システムも動作/休止シーケンスを設ける必要がある。
これらの点に配慮し、最終的に得られた計算結果が表3-4である。これより、概ね妥当な応答頻度ならびに応答周期が得られた。なお、参考の為に、同表には従来のビーコンにおける応答頻度も記述した。
表3-4 |
改善した遅延合成方式新マイクロ波方式と従来ビーコンの応答頻度の比較 |
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レーダー送信波周波数帯域幅 |
応答 |
無応答 |
遅延合成方式
(改善型) |
2.0[MHz] |
2〜3回転分 |
22〜23回転分 |
5.0[MHz] |
6〜7回転分 |
18〜19回転分 |
10.0[MHz] |
12〜13回転分 |
12〜13回転分 |
周波数アジャイル型 |
- |
3〜4回転分 |
8〜9回転分 |
低速掃引型* |
2.0[MHz] |
1回転分 |
48回転分 |
5.0[MHz] |
1回転分 |
19回転分 |
10.0[MHz] |
1回転分 |
9回転分 |
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*)上記は、主掃引のみから計算した値。
低速掃引型は副掃引も持っているため、実際の応答頻度はもう少し高いと思われる。
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