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 これまで述べたケースは、いずれも入力波形のスペクトラムが比較的広い(パルス幅が細く、距離分解能が良い)場合である。これらの場合は、伝達関数スペクトラムのうち応答波形を生成する主要な成分、すなわち周期的に現れるスペクトラムを少なくとも1本は含んだ状態で応答波形が生成されていた。このため、波形が櫛状になる場合はあるが、長線、短点、長線という符号を含んでいることが幾分なりとも認識できた。しかしながら、入力波形のスペクトラムが狭い(パルス幅が長い)場合、離調の度合いによっては符号を生成する主要なスペクトラムを1本も含むことができないケースが発生する。
 離調のないパルス幅1μsの波形が入力された場合の、応答波形の生成過程を図3-36に示す。パルス幅が広い場合は、入力波形の周波数スペクトラム(b)は非常に狭くなる。この入力スペクトラムと伝達関数スペクトラム(d)の積によって得られる応答信号のスペクトラム(f)も非常に狭いものになるが、応答符号を生成する主要スペクトルが残っているため、応答符号(e)を生成できる。なお、応答波形(e)の立ち上がり及び立ち下がりがなだらか鈍ってしまっているが、これは時間領域的には図3-19(c)に示したレベル重畳の影響、周波数領域的には入力波形のスペクトラムの狭さが、伝達関数に含まれる符号生成に必要なスペクトラムを制限してしまった為と考えられる。
 3MHz離調したパルス幅1μsの波形が入力された場合の応答波形の生成過程を、図3-37に示す。この場合、入力波形の周波数スペクトラム(b)は非常に狭く、なおかつ周波数が離調しているため、伝達関数スペクトラム(d)の主要成分と重ならなくなる。従って、応答波形のスペクトラム(f)も正常応答時の図3-36(f)とは全く異なる波形となり、時間領域の応答波形は長線、短点、長線の形状が全く現れない、異常な符号となっている。
 これらの状況を包括的に表したものが図3-38である。離調の度合いによって正常な応答符号と異常な応答符号を繰り返すことがわかる。(この場合の異常符号は、正常符号に比べてレベルが低いため、同図では表示が薄くなり見づらいが、(2)の部分が異常符号である。) また、正常符号を示す離調の度合いは、入力波形のパルス幅が0.1μsの図3-35の場合と同様に、10MHz毎であり、入力波形によらず伝達関数の周波数スペクトラムに従っている。
 以上、単純パルス入力を例にとって説明したが、パルス圧縮波形やFM-CW波形においても、そのレーダーの送信波形が持つスペクトラムと、新マイクロ波標識が持つ遅延合成の伝達関数スペクトラムの積が応答波形を生成することを考えれば、これまでに示した例と同様に離調時の応答波形が異常となる場合があることは容易に推定でき、この異常符号応答を抑圧する対処が必要である。
 
図3-36 応答波形の生成過程(1μsパルス、離調なし)
 
図3-37 応答波形の生成過程(1μsパルス、3MHz離調)
 
図3-38 離調の度合いと応答波形の変化
1μsのパルス波形を入力した場合
(1):離調なし状態:図3-36(e)に対応(正常応答波形)
(2):3MHz離調状態*:図3-37(e)に対応(異常応答波形)
*)レベルが低いため表示が薄いが、異常符号が存在する







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