2.3 マイクロ波標識の現状
我が国において現在使用されているマイクロ波標識は、レーマークビーコンとレーダービーコンに大別される。このうち、レーダービーコンは低速掃引型と周波数アジャイル型の2つの方式が利用されており、我が国において1996年度以降に設置するレーダービーコンは、この周波数アジャイル型となっている。
レーダービーコンは、船舶のレーダーから発射された電波を受信したとき、これをトリガとしてレーダーと同一周波数帯のビーコン電波を発射し、船舶のレーダーPPI上にモールスコードによって識別符号を表示させる。レーダーのPPI上にはビーコン局を起点として輝線で表示されるので、局の位置を知ることができる。レーダービーコン符号の表示例を図2-13に、また周波数アジャイル型レーダービーコンの主要な仕様を表2-3に示す。
レーダービーコンは次のような場所に設置される。
(1)狭水道及び陸岸に接近した主要航路などの主要目標点または危険な障害点
(2)レーダー映像に現れにくい干出岩
(3)砂浜などの障害点または他の航行船舶のエコーと誤認される恐れがある障害点
現在我が国では、許可標識を含め35局のレーダービーコンが稼働しており、船舶の航行上重要なシステムとなっている。
一方、前述のように、厳しさを増すスプリアス基準値への適合、目標探知性能向上等の期待から、新方式レーダーに対する要求が高まっているが、現状のレーダービーコンはこれらのレーダーには対応していない。従って、新方式レーダーに対応できる新しいビーコンの開発が急務となっている。
図2-13 レーダービーコンの表示例
表2-3 周波数アジャイル型レーダービーコンの主要な仕様
番号 |
項目 |
仕様 |
1 |
送信周波数範囲 |
9300〜9500MHz |
2 |
送信周波数安定度 |
±4.5MHz以下 |
3 |
周波数アジャイル精度 |
±1.5MHz以下 |
4 |
送信電力 |
400mW±20% |
5 |
送信応答遅れ |
0.6μs以下 |
6 |
空中線利得 |
8dB以上:灯台・灯標用
3dB以上:灯浮標用 |
7 |
最小トリガ感度 |
-40dBm以下 |
8 |
最大許容入力レベル |
1W(+30dBm)ピーク |
9 |
最小受信パルス幅 |
0.08μs |
10 |
最大応答周波数(注1) |
2.5kHz |
11 |
遠近判別機能 |
0.3±0.05μs |
12 |
送信単位パルス幅 |
近:1μs±0.02μs
遠:2μs±0.02μs |
13 |
パルス符号 |
任意のモールス符号が単位パルス幅に対応する16ビットから構成されていること。 |
14 |
サイドローブ応答抑圧 |
メインローブを認識させた後、受信レベルを下げていき、送信応答が停止するレベルが
20dB±3dB
であること |
15 |
受信阻止ゲート幅 |
100μs±10μs |
16 |
動作/休止シーケンス |
動作:10sec
休止:20sec
5sec間隔で精度0.5secで設定できること |
17 |
イルミネーション/スタンバイ時間 |
イルミネーション:10ms
スタンバイ:5ms |
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注1)対応可能なレーダーの最大パルス繰り返し周波数を意味する。
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平成15年度に行われた調査研究によって、新しいレーダー方式に対応したマイクロ波標識を開発するにあたっての要件が、以下のようにまとめられた。
(1)対応するレーダー方式の範囲
厳しいスプリアス規制に対処するために新しい方式のレーダーが検討されているが、現時点ではどのような方式となるか予測は難しい。また、統一された規格とならない場合や、過渡期には様々なレーダー方式が共存する場合も十分考えられる。従って、可能な限りどのような方式のレーダーにも柔軟に対応できるビーコン方式とするべきである。また、レーダー側で特別な装置を必要としない方式とすべきである。
(2)識別符号の挿入
従来のビーコン同様、ビーコン局であることを示す識別符号を挿入できる方式とすべきである。このために、パルス圧縮やFM-CWで用いられる長いパルスに符号を挿入する技術を検討する必要がある。
(3)対応する周波数の範囲
従来のビーコンと同様、Xバンドレーダー周波数帯の全ての範囲を極力カバーできるような方式とすべきである。
(4)スプリアス、干渉問題への配慮
ビーコン局自身が極力スプリアス等の妨害波を出さない方式とすべきである。
(5)機能・性能
現状のビーコンが有する機能・性能を極力具備した方式とすべきである。
平成15年度の調査研究において、以上の要件を満たす可能性のある方式として、「遅延合成方式」の新マイクロ波標識に関して検討が開始された。平成16年度においては、この方式の新マイクロ波標識を中心として、計算シミュレーション、試作実験等により、システムの実現性や技術的課題及びその解決手段等について、詳細に検討することとなった。
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