(2)FM-CWレーダー
従来のレーダーのようにパルス送信波を使用するのではなく、周波数変調された連続波を使用して測距を行う方式である。送信ピーク電力を極めて低く抑えることができるため、送信機の完全半導体化が容易である。
FM-CW方式の送信波、受信波について時間軸での周波数変化を図2-8に示す。また、図2-9にホモダインFM-CWレーダーのブロック図を示す。
図2-8 FM-CWレーダーの送受信波
FM-CW方式では、受信波の時間遅れが送信波と受信波の周波数差fb(ビート周波数)としてミキサから出力される。周波数変移ΔFと変調周期Tによって、往復伝搬遅延時間τに従うfbが作られる。その関係は以下である。
往復伝搬遅延時間tdと物標までの距離Rは以下の関係で与えられる。
τ=2R/c(2-3)
このため、物標までの距離と、それによって得られるビート周波数の関係は以下となる。
従って、FM-CWレーダーでは近い物標から得られるビート信号の周波数は低く、遠い物標から得られるビート信号の周波数は高く観測されるため、得られたビート信号をFFT(高速フーリエ変換)等の手段で周波数分析すれば、その距離が求められる。また、距離分解能は周波数変移ΔFに依存し、ΔFが大きいほど距離分解能が良くなる。
現実には、FFTの能力の制約等から、扱えるビート信号の周波数には限度があるため、距離レンジによって周波数変移ΔFを切り換えてビート信号が一定の周波数以下となるようにシステム設計されている。諸外国で実用化されている海軍艦艇用FM-CWレーダーのレンジ設定の一例を表2-1に示す。この例に見られるように、近距離レンジでは距離分解能を良くするためΔFを大きくし、遠距離レンジではfbの最大値(最大ビート周波数)を処理帯域内に抑えるためΔFを小さくしている。
図2-9 FM-CWレーダーブロック図
表2-1 FM-CWレーダーのレンジ設定例
レンジ設定 |
0.75NM |
1.5NM |
3NM |
6NM |
12NM |
24NM |
周波数変移 |
54MHz |
27MHz |
13.5MHz |
6.75MHz |
3.375MHz |
1.6875MHz |
距離分解能 |
9m |
18m |
36m |
72m |
144m |
288m |
最大ビート周波数 |
500kHz |
500kHz |
500kHz |
500kHz |
500kHz |
500kHz |
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(3)符号化レーダー
前節に示したパルス圧縮方式及びFM-CW方式のようにパルス内や送信波を周波数変調するものに対して、符号系列(コード)により離散的に位相変調を行い、受信時に符号系列の相関処理によりパルス圧縮や測距を行う方式のレーダーを符号化レーダーという。符号化によってパルス圧縮を行うものを「符号化パルス圧縮レーダー」、連続波の変調を符号で行うものを「符号化CWレーダー」と呼ぶ場合もある。
図1-10 バーカコードの例
符号化レーダーに使用できるコードは自己相関関数が一定の条件を満たす必要があるが、その条件を満たすコードとして「バーカコード」が知られている。図1-10は13ビットのバーカコードの例であり、+は0の位相、−はπの位相を示している。このコードを図1-11に示すような圧縮器で処理を行うと、図1-12に示すような圧縮波形が得られる。このコードの特徴は、圧縮したときのサイドローブレベルがコードのビット数の逆数になることであり、コードが長いほどサイドローブレベルは小さくなる。しかしながら、このコードは表1-2に示す種類しか発見されておらず、13ビットコードでもサイドローブレベルは-22.3dBである。また、物標が移動してドプラ効果が存在する場合にはサイドローブレベルが劣化しやすい等の問題点もあり、これらを改善すべく様々な研究が進められている段階にある。
図2-11 バーカコードの圧縮処理
図2-12 圧縮後の波形
表2-2 バーカコードの種類
コード長 |
コード |
サイドローブレベル |
2 |
0π, 00 |
-6.0dB |
3 |
00π, |
-9.5 |
4 |
00π0, 000π |
-12 |
5 |
000π0 |
-14 |
7 |
000ππ0π |
-16.9 |
11 |
000πππ0ππ0π |
-20.8 |
13 |
00000ππ00π0π0 |
-22.3 |
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なお、この他のコードとしてはM系列コード、フランクコード等もあり、さらに2値以外の多値符号などを利用する方法や、複数の符号系列を組み合わせる方法なども検討が進められている。
符号化方式は、昨今のデジタル処理技術の飛躍的発達と相まって今後のレーダー方式の主流となりうる可能性も秘めており、その動向を注視する必要がある。
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