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ご挨拶
財団法人さわやか福祉財団 蒲田 尚史
 
 それでは「フォーラム・ワークショップ『“おやじ”の学校デビュー奮闘ものがたり』」を開始させて頂きます。
 まず、さわやか福祉財団がなぜこういうことをやって今日に至ったかについて簡単にご説明させて頂きます。
 そもそもの発端は、平成13年に始まった「サラリーマンの皆さん、もっと社会参加しましょう」という呼びかけです。「勤労者マルチライフ支援事業」で、当時の日経連とか厚生労働省に働きかけまして事業化し、平成13年度から取り組んでおります。
 皆さんもおわかりの通り、その壁は非常に高く厚いもので崩せておりません。そういう中で、なぜわれわれこんなことをしてきたかと言いますと、サラリーマンは10年前迄は年功序列型賃金と終身雇用に守られていて、要は会社が居場所になっていました。それが崩れ働く人たちの居場所がなくなって、別のところに居場所をつくらないといけないという意識が芽生え、そういう中で私どもはこういう事業を始めた次第です。
 片や子どもたちを取り巻く環境、これは後で相川先生からいろいろ詳しくお話頂くのですが、それもずいぶん変わってきました。昔から、お父さんは仕事一本やりで、子育てはお母さん任せだったのですが、地域社会があり、そのなかで子どもも育ってきました。
 ところが、大都市周辺では地域社会が崩壊してしまっている。よって、新たにそれに代わる受け皿をつくっていかなければならない。では、誰にお願いしようかな、お父さんじゃないかということになりました。先ほど述べたお父さんの居場所をつくったほうがいいということと、子どものいままでの地域社会に代わる子どもの受け皿が必要ではないかという事情がマッチし、「じゃ、お父さんに子どもに関わってもらおうとなり、この「“おやじ”の学校デビュー」といったことを一昨年あたりからやってまいりました。
 お父さんはすごく忙しい。でも、忙しいから子どもに関われないというのはどうでしょうか。今日来ていただいているお父さん方は大変忙しい方ばかりですが、それでもなんとかやっておられる。われわれとしてはこのようなお父さん方を応援していきたい。そんな気持ちで現在の事業に取り組んでおります。
 冒頭、相川先生から、子どもを取り巻く状況とお父さんの役割等々についてお話いただきます。非常にポイントを突いたお話をして頂けると思います。
 その後に、当財団からお願いしてフォローさせていただいている幾つかの事例がございます。まだ完成形ではないのですが、いま非常に頑張っていただいているお父さん方、あるいは地域の方々に事例報告という形でお話をして頂きます。
 それをベースに後半は、A、B、Cのグループに分かれワークショップを行います。そのなかで、「お父さんに参加してもらうにはどうしたらいいか、継続して参加してもらうにはどうしたらいいのか、その輪をどんどん広げていくにはどうしたらいいか」ということについて話し合って頂きます。
 それぞれのグループには司会者が入っておりますし、既に立派なご経験をお持ちの方をアドバイザーで入って頂いております。書記もおりますので、自由に話し合って頂き、発表して頂いて、その成果を持ち帰って頂ければと考えております。
 では、最初に相川先生にお願いします。先生の簡単なご紹介だけさせて頂きます。
 相川先生は、長い間、学校の先生をなさっており、渋谷区の原宿中学校の校長先生を最後にご退職されまして、現在、渋谷区の青少年教育のコーディネーターと東京都生涯学習審議会の委員をなさっております。
 先生は社会教育館の運営のみならず、渋谷区全体の地域教育や青少年問題に関して大変造詣深くコミットされております。学童館に対してもアドバイスとかサポート、いろんな分野でご活躍されております。それから先生のお話にも出てくるのですが、渋谷のファンイン、子どもの居場所、こういう実践活動もなさっておる。理論面と実践面において大変造詣の深い先生でございます。いまからお話いただきますが、必ず参考になるかと思います。では、先生、よろしくお願いいたします。
 
基調講演:子どもにとって居場所とは 〜子ども・若者の育ちの場として〜
渋谷区青少年教育コーディネーター
渋谷ファンイン 事務局 相川良子氏
 
 皆さん、こんにちは。ただいまご紹介いただきました相川と申します。「青少年教育コーディネーター」という名前なんですが、要するに青少年に関わることであれば何でもやるということです。「何でもやる」という意味は、与えられたことをしているのではなくて、子どもの育ちにとって必要ならつくるということです。つくるわけですから、自分1人でつくれるわけがなくて、多くの人と一緒につくっていきますので、当然このコーディネートが必要になってくる。というわけで、いつの間にかこういう名前の仕事になったと自分で思っています。
 ご紹介いただきましたように、ずうっと中学校の教員をしておりました。最後にいまはなくなりました原宿中学校にいたんですが、子どもの数があの原宿の近辺は極端に少なくなりまして、私が最後いたとき、「せめて1学年25人の子どもは絶対自分の力で集める」と宣言して、そこにこだわって最後に25人集めて終わったわけです。
 私が25人にこだわった理由は、子どもたちが1つの同じ年齢の集団のなかで過ごすと、いろんな確執を持ちます。いろんなトラブルが出てきます。男の子、女の子がそれぞれ2つの班が必要だ。グループ分けしたときに2班必要。そうすると、男12人、女12人、この最低人数必要ですね。やはり6人ぐらいいないと、1つの集団はなかなかうまくいかないわけですから、それで25人という線を出しました。
 地域の人と一緒に小学校やいろいろなところを回って子どもを集めた経験があります。そういうことはありましたけれども、学校は統合していきました。ずうっと昔から私が現職の頃から、子どもは学校で学んで、家庭で躾けられて、いちばん大事な地域で育てられるというふうに言われていました。この「地域で育てられる」というのは、ずうっと昔から、この「ずうっと昔から」というのは人間の知恵だったんだろうと思いますけれども、そう言われてきたのではないかと思うんです。
 ところが、その育ちの機能というのを地域がだんだんだんだん捨てていってしまいました。ですからきょうのテーマは、子ども・若者の育ちの場としていま地域が復活しなければならない。その地域が復活するんであれば必要なのは何だろうということで、それ全部トータルとして「居場所」と名付けているということです。だからこれをつくったらこれが居場所だということではなくて、育ちの場としての居場所というのはどうあるべきなんだろうか、というのをいま模索しているという途中経過という形でお話できればと思っております。
 きょうは「“おやじ”の学校デビュー」という素晴らしい名前のフォーラムということで、実は昨日、岡山市からちょっと連絡がございまして、岡山市が「学校と地域の共同」というのを大きな施策の中心として、要するに学校が地域と共同するために、さまざまな取り組みをしたいということらしいんですが、そのときインターネットで調べてみたら、「“おやじ”の学校デビュー」というのが「相川良子」という名前にくっついてあった。
 たぶんこれがインターネットに載ったんでしょうか。そういうことがございまして、すごく感動していました。「やっぱり東京はすごい」と。「東京はすごい」んではなくて「さわやか福祉財団がすごい」んだろうなと思ったんですが、もう1つ、私、さわやか福祉財団の居場所づくりに関わっておりまして、そういう関係でここにいま登場しているのではないかと思います。
 30分しか時間がないので前置きはそのくらいにしまして、早速、子ども・若者の状況について、そこのスライドに書いてございますけれども、お話します。きょうは6つぐらいのテーマで行ければいいかなと思いますが、ファンインという居場所についてはもう資料をお渡ししてありますので、そのへんは割愛させていただくことになるかと思います。
 まず「1」の「子ども・若者の状況と背景」ということで、子ども・若者がいまどういう状況にいるんだろうかということから見ていきたいと思います。
 いまの社会はいろいろ言われていますけど、右肩は上がっておりませんね。景気が良くなったと一部で言われてはいるものの、実感はないということで、相変わらず不透明感。やはり私、いちばん最近思うのは、子どもたちの取り巻く状況がそれを非常に映し出していて、夢が持ちにくいなどと言われますけど、実は大人自身の夢がなくなっているということがいちばん大きいのではないか。
 もう1つは、非常に格差が生まれてきてしまったということがあるのではないかと思います。そういうなかでさまざま「1」「2」「3」「4」「5」「6」と書いてありますが、問題が指摘されています。
 なかでも「3」の「乗り越える力が弱い」。多くの学校でいい子ちゃんは育っております。地域や家庭でも素直でいい子がたくさんいます。しかし、その乗り越えていく力は、どうも昔に比べて弱いのではないかなと、多くの人が言っております。
 続いて「人間関係をつくる力が弱い」。これもよく指摘されることです。まず話を聞く態度というのがよく言われますね。「話を聞くときにはこうするもんだ」と親があまり教えないし、またそういう経験がないし、地域の人も「話を聞くときはおれの目見て聞け」と言う大人もだいぶ少なくなっています。それなど人間関係をつくる力が非常に弱い。
 そういうなかで子どもたちは人付き合いが下手になってしまいました。同じ集団のなかでは非常に確執が生まれやすいですから、昔はそれを乗り越えて付き合っていったものなんですが、最近はどちらかというと、引いてしまう傾向が非常に強い。
 そしてその多くの子どもたちが、さまざまな困難を抱えて自立が非常に遅れている。最近話題になる不登校、引きこもり。不登校は13万人を超えた。やや改善されたと言われていますけれども、学校に行っても自分が出せないような、引きこもり的な子どもたちが非常に増えているのではないかと思われます。フリーターが240万人とかね。フリーターが私、悪いとはぜんぜん思っておりませんけれども、話題となるニート、いつまでも世の中に出ていかない、行きたくない、そういう子どもたちの問題はやはり非常に深刻だろうと思われます。
 では、こういう子どもが生まれた背景、どうしてこういう子どもが出てきてしまったんだろうかということで、次へお願いしたいと思います。
 なんといっても、私たち家庭、地域は高度経済成長を契機に大きく、お父さんたちが会社で、もちろん昔から会社員はありましたけれども、高度成長期には会社人間として、社会に貢献するということよりも会社に貢献することが自分の生き甲斐になっていった時代だったと思います。すべて子どもの育ちの機能を学校まかせにしてきました。私は学校にいましたので、だんだんその傾向が強くなったことを実感していました。夢を持つとか、こつこつ努力するとか、耐えるとか、素直に話を聞くとか、素直に「ありがとう」とか「ごめんなさい」が言えるとか、すべて学校まかせにしてきたように思います。
 それから高度成長期、60年代から70年代、特に80年代の偏差値真っ只中は、教員のなかにはこういう考え方が根強くありました。では、現在、これが学校のなかから消えたかというと、いやいや、実はしっかり生き残っておりまして、先生方の心の奥底には、これがやはりあるんですよね。
 私の付き合っている教員はあります。皆さんが付き合っている教員のなかにはだいぶ消えたかなと思いますけれども、いま受験シーズンですよね。高校生たち、中学生たち、あるいは小学生たちがたくさん心を痛めながら受験に行っています。そのなかにも、こういう価値観があるのではないかなと思います。
 この学校での価値観は十分家庭のなかに入っておりまして、いざ、自分の子どもを育てようと思うと、やはりいい学校に入れたいなというふうに思ってしまうんですね。では、いい学校って何なのかというのは非常にむずかしいんですが。
 それからそういうふうに思うと、子どもから見える大人というのは、親か先生でしかない。地域にいるおじさんとかおばさんとか、お兄さんとかお姉さんとか、あるいは先輩とか、そういうようなごく普通に地域で歩いていたり、生活していたりする匂いが子どもたちの前からちょっと消えているのではないかなと思います。
 もう1つ、4番目。これは非常に重大な問題で、インターネットの問題は、こんど東京都の青少年育成の方向性としてインターネットが前面に大きく出てきましたね。まさにそうだと思いますけれども、インターネットが現在、「社会化期」に入ったと言われています。開発され、そして商品化された。「商品化期」というのは2003年、2004年ぐらいまで。2004年、2005年以降10年ぐらいは、多くの人たちが使う。多くの人たちが使うなかで、子どもが当たり前に使う。もう子どもは使っておりますけれども、当たり前にこのインターネットというのが子どもの周りに無防備に登場してくる、そういう時代だろうと思うんです。
 このインターネットの怖さは、もう十分皆さんおわかりだと思いますけれども、情報がすごく一方通行であるということと、もう1つは、その情報が正確であるかどうかというのがわからないということですよね。
 子どもたちがさまざまな調べ学習で、インターネットで検索して報告書をまとめて先生に提出して点数もらうというのがよくあるんですね。私、社会科の教員やっていましたので、社会科の研究授業などでよくあるんです。その情報が正しいかどうかはともかくとして、とりあえずそこに書いてある事柄を写して、そして報告書にまとめて先生に出すと、よくまとめたのはAランクをもらえる。Aランクをもらうと、点数が5になるわけです。そうすると、子どもにとっては「インターネット情報は正しいものだ」という錯覚をもってしまう。そこで疑いを持たないという恐ろしさがあります。
 新聞記者は新聞を書くときに、8割方、インターネットで検索して書くんだそうで、ここにマスコミ系の方いらっしゃったら本当に申しわけないと思うんですが、現場に行かずにそういうことをする傾向がある。そこで得られたネット情報というのが子どもに非常に悪い影響を与えるだろうというのは素人の私にもようくわかります。
 合わせて書いてありますけれども、インターネットを検索すれば何でも済んでしまって、あるいはゲームで遊べたら、それが友だちと遊ぶより楽しいのであれば、引きこもり、ごろ寝、勉強しない、考えないということですね。そしてすぐに暴力。
 この「すぐに暴力」は、アスキーという会社を立ち上げている西さんという方がおっしゃっていましたけど、テレビゲームに熱中する子ども、あるいはテレビに熱中してそういうドラマを見る子どもたちは非常に暴力傾向が強くなる。
 これはなぜかというと、テレビゲームというのは、善か悪かを瞬時に判断し、いい悪い、いい悪いを判断しながらゴールに向かわなきゃいけない。その中間にある気持ち、「いやあ、実はこの人はそうは言うけど、こう考えていたんじゃないかな」なんて言ってたら、先へ行かれてしまいますよね。







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