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1997/02/21 産経新聞朝刊
【日本緊急手術ヲ要ス】カルテNo.19 虚業法人始末(9)日本自転車振興会
 
 東京・霞が関にある通産省の五階。来年度予算の折衝は年末に終わったはずなのに、補助金交付をめぐる折衝が続いている。公営ギャンブルにかかわる特殊法人「日本自転車振興会」と「日本小型自動車振興会」が、それぞれ競輪とオートレースの収益金から上がる補助金をどうばらまくか、の作業である。どちらも主管は通産省機械情報産業局となっている。
 「通産省の一般会計予算は少ない。二つの振興会の補助金は産業政策を進めるうえで大切」と同幹部。だが、そんな言葉とは裏腹に、「大蔵省のチェックが入らない、通産省のヘソクリ予算。通産省ががっちりと死守する利権の温床」(大蔵省幹部)との批判が渦巻いている。
 競輪の売上額は、全国五十カ所の競輪場で一兆六千億円強(昨年度)。このうち自転車振興会は三・七%を受け取り、補助金として公益法人に交付する。自転車振興会の久禮彦治理事は「補助金を出す公益法人は、ほとんどが通産省の所管」と話す。
 小型自動車振興会も、オートレースの売上高(二千七百一億円)の三・五%を原資に補助金を交付。今年度の交付は百六十四法人で計八十六億円強。補助金の二重取りを避けるため、両振興会は互いに調整し、三月までに交付先を決める。
 ところが、双方から別の名目で補助金を受けている法人がある。産業政策にかかわる幅広いテーマを調査・研究する財団法人「産業研究所」は、その一つ。
 産業研究所は、官庁街に隣接する霞が関ビル(東京・霞が関)にオフィスを構える。役員が十四人(うち非常勤役員九人)に対して職員はわずか七人。小所帯ながら、年間約百五十件の調査研究事業を行っている。収益事業がないため、収入はすべて両振興会からの補助金に頼る。
 自転車振興会からは調査研究費用として約十四億円。小型自動車振興会からは運営強化資金への繰り入れ分として約五千万円が配分されている。両振興会の補助金は通常、公益法人がテーマに選んだ一つひとつの個別事業ごとに交付されるが、「産研のように団体としての活動に交付する例はほとんどない」(今村昭弘・小型自動車振興会理事)。
 こうした収入を元手に産研では調査研究するが、自主研究は全体の二割。ほとんどが、民間シンクタンクや日本貿易振興会(JETRO)などへの委託研究で占めている。
 研究成果の公表は極めて限定的で、年に五−六件のテーマについて、業界向けに発表する程度。委託研究でまとめられたリポートも、印刷するのはわずか百部。それも八十五部は委託先の研究機関が受け取るので、産研の所有分は残り十五部。これでは、どれだけ国民に役立っているのか、疑問だ。産研はまるで振興会の補助金を研究機関に割り振るだけの手配師のようなものではないか。
 通産省が親会社、特殊法人である二つの振興会は子会社、そして、産研が孫会社。そんな特殊法人の補助金を媒体にした系列組織が存在するのはなぜか。そこに、甘い汁を吸う官僚の姿が浮き彫りとなる。
 現在、産研顧問は棚橋祐治氏、熊野英昭氏の元通産事務次官の二人。歴代顧問は、すべて通産省OBで占められている。「通産官僚の天下り先が見つかるまでの腰掛け」との批判は絶えないのは、このためだ。
 顧問を含む役員報酬は産研で決める。山崎誠治事務局長は「他の公益法人と横並びの水準になるよう通産省にも相談している」と話すが、元事務次官二人は年に一千万円前後とみられている。
 「通産OBの顧問がいた方が産業政策に関する意見を具申できるし、助言ももらえる。プラスの影響はあってもマイナスはまったくない」。山崎事務局長はこう語気を強めるのだが・・・。
 ほかにも、自転車振興会から補助金を受けている公益法人への通産官僚の天下りはいくつもある。機械システム振興協会の会長は、やはり元通産事務次官の山本重信氏。「交付先のかなりの法人に通産OBがいるかもしれない」(通産官僚)と、内部でもはっきりしないほど不透明だ。
 通産省は否定するが、「通産官僚は補助金交付先の公益法人で、かつて執筆や講演などのアルバイトに精を出していた」という憶測もある。補助金交付の代わりに、OBや現役の面倒をみてもらう。そんな利権の構図に特殊法人が利用されているのかもしれない。
 二つの振興会は交付先の公益法人名を一部しか明らかにしていない。昭和五十七年、米工作機械メーカーが「自転車振興会による工作機械業界への補助金は、輸出振興の補助金にあたる」などと訴えてきたことをきっかけに、交付先からの要望も受けて一覧表の公表をやめた。
 来年度の補助金分から、交付先の公表を復活させる方向で検討している。が、これで“通産省のポケット”の中身が明らかになり、通産省−振興会−公益法人の間に漂う霧を晴らすことができるか、国民は監視しなければならない。
【公益法人】
 宗教、慈善、学術など公益に関する事業をし、営利を目的としない法人。設立には所管大臣の許可が必要。総公益法人数は約二万五千九百二十七法人(平成七年十月)で、社団法人と財団法人の二つがある。財団法人は設立者が提供した財産を基礎に、社団法人は人の集団を基礎に運営される。社団法人は商法上、株式会社なども含むが、一般的には民法上の営利を目的としていない法人の方を指す。財団、社団とも税法上の優遇措置が取られているが、休眠状態の法人も三百四十九法人を数えるなど、公益活動をしていない法人もあり、問題点が指摘されている。
 
 
 
 
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