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1997/02/22 産経新聞朝刊
【日本緊急手術ヲ要ス】カルテNo.20 虚業法人始末(10)日本中央競馬会
 
 曜日や時間帯を問わず、テレビの画面をにぎわす「日本中央競馬会」(JRA)のCM。特に、競馬好きな若者の間で関心が集まっているのが、GIレースが近づくと流れる特別編だ。出演するタレントが身につけている帽子やスカーフなどの色と、同じ色の枠順が当たるという“信仰”さえ生まれている。
 JRAが使った広告関係費用は昨年で約百億円。トヨタ自動車や花王など最高レベルの約四百億円には及ばないものの、「百億−二百億円というのは相当な高水準」(大手広告代理店)だそうだ。
 こんな派手な広告戦略に、広告マンは「多額の広告費を使うのはありがたいが、自動車など競争が激しい業界と違って、JRAのように競争相手もいない分野は効果の面で支出に見合うかな」と話す。
 JRAは最も裕福な特殊法人だ。売り上げは三兆七千七百億円(平成七年決算)。このうち、払戻金二兆七千九百億円や国庫納付金四千四百億円、維持管理費を引いた剰余金(企業の税引き後利益に相当)は六百四十億円。東芝の八年三月期の税引き後利益六百二十五億円をしのぐ超優良企業である。
 国庫納付金はいったん国の一般会計に入れられるものの、「四分の三は畜産振興に充てる」と定められているため、実際には「農水省予算に最初から(他の予算とは)別枠で組み込まれている」(農水省)。さらにJRAからも補助金として百五十億円が、農水省所管の公益法人などに配分される。JRAがもうかればもうかるほど、農水省や関係法人が太る構図だ。
 そのからくりは、馬券の売り上げから主催者が天引きする金額の割合の控除率にある。例えば米国の競馬では一七、八%程度が標準だが、日本の公営ギャンブルの控除率は二五%に及ぶ。全国規模で場外馬券売り場を展開するなど強い市場支配力を持ちながら、高いテラ銭をファンに押しつけている。
 JRAは三年から、単勝式・複勝式の馬券については控除率を事実上二〇%程度にする措置をとっているが、売り上げの九割以上を占めている連勝式馬券の控除率を見直す予定はない。通常の商品なら売れれば売れるほど安くなるが、JRAはここ十年ほどで急増したファンが負担する高い控除率で潤ってきた。
 同じ競馬を開催していながら、県や市の地方自治体が主催する地方競馬は、対照的に厳しい環境に置かれている。北海道から佐賀県まで全国三十カ所に点在するが、いずれもバブル経済の崩壊後、入場者、売り上げとも大きく落ち込んでいる。レースが始まっても、スタンドに見える人影はせいぜい二、三百人という競馬場さえあるほどだ。
 こんな地方競馬の売り上げから一定の率で交付金を受けている農水省所管の特殊法人がある。やはり畜産振興を目的にする「地方競馬全国協会」(NAR)。
 東京都内から三十分程度と、立地は良いはずの浦和競馬場(浦和市)。売上額の約一・四%、三億八千万円(昨年度)を交付金としてNARに納めている。このほか、公営企業金融公庫への納付金も三億五千百万円に上る。そして、同競馬場の決算は昨年度、七億円の赤字になっている。二つの納付金を合わせれば、赤字は帳消しになるほど重い負担だ。穴埋めに黒字が出ていた時代の剰余金を取り崩している。
 宇都宮競馬を主催する宇都宮市は、すでに剰余金が底をつき、市の一般会計から三年連続で赤字を補てんしているほど。昨年度の決算では地方競馬を主催している二十五施行者のうち、八割近い十八が赤字を計上した。「地方財政に貢献する」はずの地方競馬が逆に、足を引っ張っている。
 このため、主催者側は足並みをそろえ、一番、負担となっている交付金率の引き下げを求めているが、NARは頑として応じない。
 この背景には、交付金の引き下げを認めれば、NAR自身が破たんしてしまう事情がある。NARは交付金(昨年度八十四億円)を畜産業への補助金を出す畜産振興事業と、調教師・騎手の養成などの競馬事業に使っているが、四年度から交付金収入が、事業支出に追いつかない状態が続いている。
 そもそも、同じ競馬が中央と地方で二本立てとなっているのは、世界でも例がないという。このため、もうけ頭のJRAが構造不況のNARを「吸収合併」すべきとの意見も強いが、農水省は「成立の過程から異なり、統合にはなじまない」(競馬監督課)と強く反発する。
 同省はOBをJRAに理事長以下役員五人、NARにも会長をはじめ四人の役員を送り込む。両トップとも事務次官経験者のポスト。統合は貴重な天下り先が一気に減ることになる。
 NARでは昨年度から、広告費や畜産振興のための補助金を削減するなど、経営改善計画を進めている。農水省の強力な指導で、十二年度には収支が均衡することを目標にしているが、人気の拡大につながるような前向きな要素はない。そこでは、もはや自治体も畜産振興も、ましてファンも置き去りにされている。
【国庫納付金】
 日本銀行や日本中央競馬会、政府系金融機関などの特殊法人が得た収入の一部を税外収入として、財政の一部に繰り入れたもの。一般会計に組み込まれるのは日本中央競馬会納付金と日本銀行納付金。その他は特別会計に組み込まれる。中央競馬会の場合、馬券売り上げの約一〇%(第一次納付金)に、純利益の半額(第二次納付金)を加えたものを納付。日銀は毎期の剰余金のうち、一定の積立金と配当金を除いた額を納めるよう法律で定められている。今年度の納付金はJRA四千五百四十三億円、日銀三千八百八十九億円。
 
 
 
 
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