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1995/03/14 産経新聞夕刊
【打鐘が鳴る】競輪再発見(2)追っかけ “おじさんの聖域”異変
 
 中央スタンド前、金網の最前列に陣取る女性ファン。選手の名前を書き込んだ横断幕を張って黄色い声援を送る。横断幕には選手をかたどったかわいらしいマスコット人形まで付けるというこりようだ。お目当ては鈴木誠選手。競馬の騎手ではない。昨年十二月三十日、東京・立川競輪場で開催された「KEIRINグランプリ」での一シーンだ。
 声援を送るのは横浜市の大野清美さん(二六)。鈴木選手の大ファンで、「誠さん(鈴木選手のこと)が出るレースは、ほとんど見に行く。誠さんに怒鳴り声を浴びせたおじさんとケンカしたこともある」という筋金入りの追っかけだ。
 競馬に取り残されて“おじさんたちの聖域”だった競輪に女性の追っかけが目立ってきたのはここ一、二年のこと。その象徴が競輪場内に張り出される横断幕の数。一昨年までは数枚だったのが、昨年に入って急増。昨年夏に岐阜・大垣競輪場で開かれた全日本選抜では、三十枚を超える横断幕が出された。追っかけの女性は横断幕を持って競輪場をハシゴするのだ。
 大野さんは、三年前に女性ファンとして初めて横断幕を張ったと自任する。
 「横断幕を使ったのは、女の子だって競輪を応援しているのを知ってもらいたかったから。最初のうちは、横断幕を張り出すのを断る競輪場もありました」
 また、二年前から神山雄一郎選手の追っかけを始めたという川崎市のOL(二四)は「全国五十の競輪場のうち三十八カ所を制覇した」と自慢する。
 さらに昨年の賞金王、吉岡稔真選手には、ファンクラブもでき、まさしくアイドル並みだ。
 追っかけを含め、女性ファンの数は着実に増えている。平成三年に関東自転車競技会(東京都港区)が結成した「競輪レディースクラブ」では、当初五十人だった会員数が現在は約百六十人に増加。同競技会では「彼女らは、休日を利用して地方の競輪場に行ったついでに温泉など観光を楽しんでいるようです」と話す。
 女性ファン増加の動きに対応して、昨年五月には女性向けの競輪入門雑誌「KEIRIN for Ladies」が登場。十万部の発行に対して実売七万五千部と好評で、第二弾も検討されている。
 しかし、競馬の女性人気には及ばない。財団法人余暇開発センターの調査によると、平成五年三月時点の競輪ファンの平均年齢は五十歳前後。競馬、オートレース、競艇に比べて高齢化も進んでいる。人気のある若手有力選手が数多く出場する特別競輪と違い、通常のレースでは、女性ファンの姿はほとんどない。競輪入門雑誌の編集担当者も「人気選手への女性ファンは拡大しているが、競馬に比べればまだまだ」。
 女性グループ三人で観戦していた東京都小平市の佐々木みどりさん(二八)はこう訴えた。「男性ファンのなかには、女子供の来る場所じゃない、という人もいるでしょうが、もっと若い女性ファンだって増えた方がいいんじゃないかと思います」
(鈴木正行)
 
 
 
 
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