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1995/03/15 産経新聞夕刊
【打鐘が鳴る】競輪再発見(3)新しい魅力
 
 「ただバンク(競争路)を走ってみたいというあこがれがあったんです」。昨年三月に「競輪入門・バンクを走ろう」という企画を担当した有隣堂(本社・横浜市)の生涯学習部、大平雅代さん(二九)は、発案のきっかけをこう話した。
 出版やカルチャースクールを手がける同社は、田舎暮らし、アウトドアをテーマにユニークな講座を企画・実行している。「バンクを走ろう」もその一つだが、カルチャーセンターという、教養を身につける場で、競輪を取り上げるのは、全国でも珍しいという。
 大平さんと自転車とのつながりはせいぜいマウンテンバイクに乗る程度。ところが、競輪を題材にした漫画を読んでから興味を持ち始め、初めて競輪場に足を運んだ。競輪選手が実際にバンクで走るのを真近で見て、「ゴー」というタイヤの音がいつまでも耳に残ったという。「私もバンクで走ってみたくなった。同じように思っている人も多いのでは」と大平さん。
 彼女の企画は、競輪場で車券を買う人だけを“お客さん”とみる競輪関係者からは不思議がられた。企画を地元・横浜の花月園競輪場に持ちかけると、競輪場側は「一発当てて金をもうけようとしている人が競輪場に来るのに、バンクを走るためだけに金を払ってまで来る人がいるのかね」と言われたという。
 それでも募集を始めると「バンクで乗りたい」などと予想外の反響。キャンセル待ちが出るほどの人気となった。
 参加者には二十−三十代の女性が目立ち、全体の三分の一を占めた。大平さんは、「競輪場はグリーンに輝くバンクやバンク内の芝生がとてもきれい。参加した人もすごく楽しんでいた」。講座は昨年九月にも二回目を行うなど好評だ。
 とかくギャンブル面だけが強調されている競輪だが、関係者以外からスポーツ性や地域振興面などの魅力に注目しようという動きも出てきた。
 全職員が女性で、行政研究や企業訪問などの活動を行っている社団法人「ユースボール・ジャパン」(東京都港区)では、特別プログラムとして昨年七月から九月までの計七回、首都圏の三つの競輪場で学生や社会人を対象にした競輪教室を開催した。公営ギャンブルの社会的意義や問題点を考えてもらうのが狙い。これまでに延べ三百人が参加するなど反響が大きかったため、今年も開催を検討しているという。
 ユースボール・ジャパンでは「競輪は、スポーツ観戦としても楽しめ、地方財政への支援という面もある。このような一面を知ってもらうきっかけになってほしい。施行者側も、もっとさわやかでソフトな面を打ち出した方がよい」と話す。
 こうした動きについて、日本自転車振興会の村上行弘広報部長は「今まで競輪を見たことのない、若い世代の人たちに来てもらう機会となれば結構」と歓迎する。ギャンブル面だけにとらわれない、競輪の新しい魅力発見が新規ファンの獲得につながりそうだ。
(鈴木正行)
 
 
 
 
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