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2004/12/28 読売新聞朝刊
中央競馬 売り上げ15年ぶり3兆円割る(解説)
 
◆息の長いファン獲得へ努力必要
 中央競馬の今年の売り上げが十五年ぶりに3兆円を下回り、最盛期と比べ、1兆円以上も減少した。
(運動部 小島雅生)
 今年の売り上げ2兆9314億円は、4兆6億円だった一九九七年の約四分の三。ショックな数字には違いないが、日本中央競馬会(JRA)関係者は安堵(あんど)の表情を見せた。その理由は、前年比2.6%減にとどまったためだ。過去五年間、前年と比べた平均減少率が5%近かったのを考えると、大健闘ともいえる内容だった。
 象徴的なのが、最終日二十六日の有馬記念(G1)。入場人員は0.8%増加、売り上げは515億円強と昨年比99.9%を記録した。今年九月から全国発売した新馬券、3連単(1―3着を着順通り当てる)が全体の27.4%を占めた。落ち込み分を新馬券が埋めた計算になる。JRA広報部は「高額配当が期待できる新馬券が売り上げ減少の歯止めになった」と分析する。
 ただ、九九年以降に発売された四種類の新馬券が、売り上げカーブ上昇を実現するまでには至らなかったのも事実で、「防戦」の感は否めない。来年一月一日の競馬法改正で、複数レースの結果を予想する重勝式馬券の発売も可能となるが、現時点で発売の具体的計画はない。
 改正競馬法では、馬券購入が禁止されていた学生・生徒も二十歳以上なら購入出来るようになるが、従来実効的に規制されていたかどうかは疑問があり、売り上げ向上に結びつく要素は少ない。
 毎年のように売り上げを更新した九七年までは、「特殊な状況下の競馬ブーム」の中で達成されたものだった。バブル経済の余韻があり、地方競馬出身馬オグリキャップの活躍が共感を呼んだ。また、武豊を筆頭に若い才能ある騎手が台頭する話題性もあり、若い世代や女性ファンが一気に増えた。オグリで有馬記念を勝った武豊騎手が「日本中が応援してくれた感じ」と振り返るほどだった。
 九四年の調査で、二十歳代は競馬場入場者の27%を占めていたが、今年は10%に低下、逆に五十歳以上が54%で、平均年齢は五十・八歳に上がった。ファンの新陳代謝という面で、競馬は明らかに失敗している。JRAが来年のイメージキャラクターにSMAPの中居正広さんを起用するのも、若い層の取り込みを考えているからだ。
 地方競馬をはじめ公営ギャンブルが苦戦する中、中央競馬も売り上げのV字回復は困難な状況だ。今年はコスモバルクという地方競馬所属馬が話題を集めたが、強いだけではなく、逆境をはねのけるようなストーリー性のあるスター馬の出現は演出できるものではない。「来年は売り上げ増を目指す」というJRAだが、売り上げが2兆5000億円まで減少したことを想定して、組織の改革や経営方法のシミュレーションを行っている。
 競馬界の中でも、無理な売り上げ増より、競馬の質を考えるべき時期、という認識が強い。競馬評論家の原良馬さんは「ブーム当時より馬券の購入金額は減ったが、今の方が楽しみ方は健全だ。騎手とファンが接する場の提供など、JRAは息の長いファンを獲得するためのサービスが大切」と提言する。
 
 
 
 
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