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2004/03/06 読売新聞夕刊
[土曜マルシェ]競馬人気低迷の厳しい事情
 
 公営ギャンブルの代表として親しまれてきた競馬の人気が低迷している。幾度かのブームを経て、不況下でも右肩上がりの成長を続けてきたが、どんな変化が起きているのだろう。
(三宅 隆政)
■ネットで馬券購入
 久しぶりに出かけた競馬場で、馬券販売の締め切り時間を知らせるチャイムが鳴った。だが隣の友人は、熱心に携帯電話のボタンを押している。「インターネットで馬券を購入できるんだよ」と教えてくれた。
 日本中央競馬会(JRA)関西広報室に問い合わせると、パソコンや携帯電話で馬券を購入するファンは年々増え、現在は200万人を突破しているという。ただ、広報担当の長谷川淳一さんは「ネットの普及で参加者は増えました。でも、競馬場などに足を運ぶ人は減り、売上高も減少が続いているのです」と浮かない表情だ。
 今年で設立50周年を迎えるJRAの入場者数は、ピークだった1996年の1411万人から、2002年には540万人も減った。売り上げは97年に4兆円を超えたが、02年は3兆1334億円に落ち込んだ。
 JRAは、ファンの購入意欲を刺激するため、高い配当が期待できる「3連複」「馬単」など馬券の種類を増やしている。今夏には、1―3着を着順通り当てると、さらに高配当となる「3連単」を導入する予定だ。ただ、「不況で支出できる金額そのものが減っていると、どうしようもない」(長谷川さん)との不安もある。
 不景気は、競走馬を所有する馬主にも波及している。競馬好きで知られる関西のオーナー社長に取材を申し込んだところ、「最近は業績不振で、馬の数を減らしているので・・・」と断られてしまった。規制緩和で外国産の馬の輸入や出走機会が増えたこともあり、国内ではG1レースに勝った有名馬を多数出した牧場も倒産している。
■人気馬も世相反映
 経済基盤の弱体化が進む地方の競馬では、事情はもっと深刻だ。運営母体の自治体が赤字を補てんできなくなり、2001年には全国で30か所あったが、中津(大分県)、益田(島根県)、上山(山形県)などが相次いで閉鎖し、今年4月には24か所となる。
 首都圏の東京シティ競馬(東京都)や川崎競馬(神奈川県)などでは、ナイター競馬が勤め帰りの会社員に好評で、健闘している。それでも、地方競馬全国協会の石原一憲広報室長は「携帯電話や東京ディズニーランドなど、娯楽の幅が広がり、お金の使い道が多様化していることが、競馬低迷の最大の問題だ」と考えている。
 最近、高知競馬(高知県)所属のめす馬、ハルウララが脚光を浴びている。現在105連敗中だが、ひたむきに走る姿が人気を呼ぶ。「当たらない」と、外れ馬券は交通安全のお守りとして重宝されている。3月22日には、トップ騎手の武豊さんが騎乗する予定だ。
 かつてアイドル馬と言えば、ハイセイコー、オグリキャップなど中央で活躍する立身出世型の馬だった。高知競馬の尾原徳重業務課長は「不況や社会問題の深刻化のせいでしょうか。ハルウララには、リストラや病気、登校拒否などに負けずに頑張る勇気をもらったという手紙を多くいただきます」と言う。人気馬も世相を反映しているようだ。
 長年競馬を見つめてきた予想紙「競馬ブック」の評論家、中野秀幸さんは「熱狂的な女性ファンや、長く競馬を支えてきた団塊の世代以上の人たちが減っているのが気がかりです」と話している。
《編集後記》
 熱狂的な競馬ファンで、一口馬主でもある三宅記者によると、競馬は2度の石油ショックなども乗り越え、戦後、一貫して右肩上がりで成長してきたそうです。90年代半ばを境に下降線をたどっているのは、それだけ今回の不況が深刻な証拠かもしれません。
 バブル期には地道に働くことが軽視され、今度は一獲千金を夢見るパワーまで国民が失ったとすれば、日本は一体どうなるのか。三宅記者は、国の行く末をこう憂い、また週末、競馬場に通うようです。(上)
 
 
 
 
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