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2001/09/04 読売新聞夕刊
[大手町博士のゼミナール]岐路に立つ、公営ギャンブル 税金で赤字補てんも
 
◆競合相手増えて苦戦 人件費など効率化が課題
 競馬や競輪など、地方自治体が運営する公営ギャンブルが苦境に陥っています。かつては自治体の歳入に寄与する「打ち出の小づち」として持てはやされましたが、最近では逆に税金で赤字が補てんされているところもあります。今回は、公営ギャンブルの経営について探ってみましょう。
(小野田徹史)
 受講生の会社員A太郎さん「競馬や競輪などの公営ギャンブルの存廃論議が各地で高まっているようですね」
 大手町博士「二月に大分県の中津競馬の廃止が決まり、北九州市も門司競輪からの撤退を決めている。かつては不況に強いと言われていた公営ギャンブルだが、最近は経営が行き詰まるところも出てきたんだ。公営ギャンブルは主に、利益で地方財政の充実を図るために行われてきたんだが、最近は逆に赤字で自治体から補てんを受けるケースが増えているんだ」
 
 地方自治体が運営する競馬、競輪、競艇、オートレースの売上高は、ピークの一九九一年度には五兆五千四百四十二億円に達したが、九九年度は三兆七千百三億円にまで落ち込んだ。利益から自治体の一般会計に回される繰り出し額は九九年度で七百六十三億円となり、九一年度の二割に減った。中でも地方競馬は厳しく、二〇〇〇年度は二十四の主催者すべてが赤字に転落した。
 大分県中津市総務部長の寺岡好信さん「高度経済成長期には、競馬の収益は市財政に大きく貢献しました。しかし、交通網の整備で近隣の競馬・競輪と競合するようになったことや、レジャーの多様化などでファンが離れたことから、累積赤字は約二十一億円に膨らみました。今後も黒字に転換する見通しは立たず、競馬事業は使命を終えたと判断しました」
 日本自転車振興会企画部部長の菅谷良昭さん「公営ギャンブルはバブル経済前にも逆風にさらされましたが、最近の低迷はサッカーくじの『toto』や数字選択式宝くじの登場などで、競合相手が増えたことも一因です。メーンのファン層も五十代半ばと高齢化が進んでいます。若い人に興味を持ってもらえるような施策を打ち出すのが課題です」
 受講生のOL、B子さん「経営を改善するための努力は行われているのかしら」
 経済産業省車両課課長補佐の木村聡さん「経費で大きな比率を占めるのが人件費ですが、これまでは世間に比べて賃金が高いなど高コスト構造の弊害が指摘されてきました。経営改善が進んでいる自治体は、魅力あるレースづくりとともに、人件費抑制などのリストラを積極的に行っています」
 
 公営ギャンブルの売上金の75%は的中者への配当として払い戻すことが法律で定められており、残りの25%で経費などを賄う。競輪の場合、その中から経済産業省所管の特殊法人である日本自転車振興会(日自振)に納付する交付金などを差し引くと、自治体の粗利は19%になる。競輪の窓口で車券を販売する臨時従事員の平均基本日給をみると、二〇〇〇年度は一万四百五十六円で女性パート基準賃金の六千二百二十三円を大きく上回っている。自治省(現・総務省)は昨年、自治体に対して向こう三年間の経営健全化計画を求めたほか、競馬を所管する農林水産省、競輪を所管する経済産業省も今年から、有識者による会合を設けて経営改善の方策を探っている。
 博士「公営ギャンブルの従事者は数が多いため、自治体の首長や議員が支持基盤を失うことを恐れて抜本的な改革に臨みにくいという事情もあるようだ」
 受講生の自営業C雄さん「払い戻しの割合を下げるなんてことは、まさかないでしょうね」
 博士「それはないが、競輪の場合は日自振への交付金を見直してほしいという声が自治体側にはあるんだ」
 全国競輪施行者協議会事業部部長の柴田倭敏さん「現在、日自振への交付金は売上金の3.7%となっています。その使途を自転車産業の振興に限定し、売り上げ規模の小さい競輪場については交付金を減免するなどの措置を求めています」
 
 日自振への交付金は、自転車を含めた機械工業の振興に売上金の1.7%が充てられるほかに、その他の公益事業の振興にやはり1.7%が使われている。自治体側には自転車関連産業以外に交付金が利用されることへの反発が根強く、二月には西武園競輪を開催する埼玉県所沢市が、交付金の一部の支払いを一時、拒否する騒ぎも起きた。
 経営コンサルタントの大坪伊作さん「現在の需要を考えれば、競馬や競輪の施設やレースの数は明らかに過剰です。公営ギャンブルに構造改革が必要なことは以前から指摘されていましたが、バブルの好景気で手つかずのまま終わりました。個々の自治体では担当者が異動で入れ替わるため、経営の専門家は育ちません。全国的な視点で配置を適正化し、近隣同士で雇用やシステムの一本化を図るなどの施策が欠かせません。また、存続させるのなら自治体側は市民の十分な理解を得る必要があると思います」
 博士「公営ギャンブルの赤字が続けばその付けは住民が支払うことになる恐れがある。自治体は積極的に情報を開示し、住民みんなで公営ギャンブルのあり方を考える必要がありそうだね」
 
 
 
 
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