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2001/07/03 読売新聞夕刊
遠望細見 水上の麗人・寺田千恵さん 競艇“頂点”へスロットル全開
 
◆「SG」初の優勝戦進出 風切り進めばスカッ 女性ファン増に期待も
 佐賀県・唐津競艇場で、六月二十四日に行われた「第11回グランドチャンピオン決定戦」。五日間の予選を勝ち抜いた六人の一流選手の列の中に、寺田千恵さん(32)が加わった。「SG競走」と呼ばれる最高峰レースの優勝戦(決勝)に進出した初の女性選手として、四十九年の競艇史に名を刻んだ。「テラッチ頑張れ!」。ニックネームで一万人を超える観衆が応援する中、スロットルを全開にしたボートは、男女不問の“戦場”へと飛び出した。
 
 インターネットの応援掲示板には、優勝戦進出に、「涙が出た。テラッチの根性を感じた」「強豪男子相手に戦う姿にファンになった」などの書き込みが殺到した。五着に終わったが、レース後も「女性に希望を与えた」と声をかけられ、抱えきれないほどの花束をプレゼントされた。「ファンが感動してくれて本当にうれしい。自分をほめてやりたい」と笑顔で振り返った。
 千五百三十二人の競艇選手中、女性は百二十三人。女子リーグなどを除けば、男女同条件で戦う。女性トップの寺田さんは、男女含めた賞金ランキングでも十五位(六月末現在)。一九八九年のデビュー以来、十二年間で三億三千万円の賞金を稼いだ。
 
 北九州市の若松競艇場の近くで育ち、競艇は身近な存在だった。元ソフトボール選手で、スポーツ好きの母、アサ子さん(60)からも勧められ、福岡県立若松高を卒業後、この道を選んだ。小学校一年生の時に父を病気で亡くし、「体を動かすのが好きだったし、女手一つで育ててくれた母親に孝行したい、という気持ちもあった」。
 時速八十キロを超えるスピードを競い、転覆など危険と隣り合わせの世界。「怖いと思ったことはない。風を切って進むとスカッとします」と度胸満点だ。
 
 「不況に強い」とされてきた公営ギャンブル界だが、景気後退で競艇も厳しい。ピーク時の一九九一年度、二兆二千百三十七億円を記録した売り上げは、二〇〇〇年度には四割減の一兆三千三百四十七億円まで落ち込んだ。
 全国モーターボート競走会連合会は「寺田選手のような強い女性選手が、男性をうち負かすようになれば、女性ファンも増え、人気も再浮上するのでは」と期待を込める。
 
 競艇では、グランドチャンピオン決定戦や賞金王決定戦、総理大臣杯など年間八つのレースが「SG(スペシャル・グレード)」で、優勝賞金は一億―四千万円。選手の賞金としては、プロスポーツ界のトップクラス。
 寺田さんは「頂点は手の届くところにあると感じた。いいレースをして、競艇のすそ野が広がれば」。夢の「SG女性初制覇」に向け、気合を入れた。
(岡部 匡志)
 
 
 
 
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