日本財団 図書館


1994/11/09 読売新聞夕刊
ニンジンは世界一の賞金 “市場開放”で英国騎手活躍 本国の仲間も高い関心
 
 競馬の本家・英国のダービーを制した騎手が今、日本で活躍している。アラン・K・ムンロ騎手(27)。今年度から日本中央競馬会(JRA)が外国人騎手用に導入した三か月の短期免許を受け、今月末まで騎乗する。異国で勝負するジョッキーの素顔は――。
 茨城県美浦(みほ)村。ここに、二千頭を超える馬と競馬関係者が生活をともにするJRAトレーニング・センターがある。
 ずらりと並ぶきゅう舎の二階で、目指すムンロ騎手は昼寝の真っ最中だった。「ちょっと待ってくれ」。シャワーを浴び、ぬれた髪をなでつけて出てきた。コロンの香りを漂わせ「チャオ」とあいさつするところは、英国紳士というよりイタリア人だ。「じいさんがイタリアで遊んだろって、よく言われるよ」とウインクする。
 センターの朝は早い。毎朝四時半には起きて、休みは週一日。「慣れたけど、やっぱりきつい。イギリスでは朝の調教といっても八時半か九時ごろからだから」
 これまでに重賞も含め105戦12勝という成績も挙げている。先の天皇賞に外国人騎手として初めて出走するはずだったが、騎乗予定の「センゴクシルバー」が不調で、出走回避。ただ、「すべて調教師に任せてはいるが、チャンスがあればどんどん乗りたい」と、チャレンジ精神はだれにも負けない。
 イギリスはもちろん、フランスやイタリア、スイスなどの欧州各国、それに香港、アメリカなど、まさに世界をまたにかけた騎乗歴を誇るムンロ騎手の見る日本人騎手の乗馬スタイルは「アメリカ流」という。
 鞍(くら)から腰を浮かし、手綱を握る手とあぶみのつま先だけで馬をコントロールするのがアメリカ流で、「馬を結構自由に走らせる。僕もこの方が乗りやすい」。本場英国では、ひざで押さえ込むなど、全身で馬を操作しながら走る。「レースのペースも、日本はアメリカ流で速く、最初は戸惑った」そうだ。
 競馬場の雰囲気が良いのにも驚いたという。ヨーロッパでは、有名なレースでも観衆がまばらなこともあるのに、日本はいつも満員。「それに、日本競馬の賞金は世界最高。最大の魅力だ」。それはそうだろう。騎乗二か月間で、出走手当などは別にして、早くも一千六十三万円の賞金を手にしたのだから。
 本国の騎手仲間からいろんな問い合わせがあり、「日本滞在記」を英国の競馬専門紙に執筆中でもある。「相当な反響らしくて、もっと長い原稿送れって催促がうるさくて」
 JRAでは、身元引受人の確保など一定の条件を満たす騎手なら、同時期に五人以内という制限はあるものの、今後とも外国人を受け入れていく方針。ムンロは今春来日したニュージーランドの女性騎手に次いで外国人騎手二人目で、十二月からは、フランス人騎手の来日も決まっている。「日本でレースに出ることは僕の人生にとっての冒険でもある。国にいる彼女にも会いたいけど、こうした門戸開放には大賛成」
 競輪界でも、毎春、「国際競輪」に外国人選手を招いてレースを開催。約二か月間にわたって、毎年八人から十人の選手が来日し、健脚を競っている。
 諸外国に比べて経済的に安定している日本は外国の強豪選手にとっても魅力がいっぱい。公営ギャンブルの市場開放は順調に進んでいて、業界の活性化にもつながっていると言えそう。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。

「読売新聞社の著作物について」








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION