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2002/12/08 毎日新聞朝刊
[社説]視点 カジノ構想“ばくち天国”になる!?・・・
論説委員・三木賢治
 
◇“ばくち天国”になる!? 悪の温床増やすな
 石原慎太郎・東京都知事の提唱をきっかけに、カジノの開設を求める声があちこちから聞こえてくる。観光客の誘致のほか税収アップと雇用創出効果が期待できるというが、引き換えに失うものの大きさを考えねばならない。
 公営ギャンブルが認められている今、刑法が賭博を禁じているから、とカジノに反対するのは説得力に乏しいかもしれない。ギャンブルは最終的には自己責任に帰することだし、一獲千金の夢を抱く自由があっていいようにも思う。
 しかし、地方自治体が税源とするとなると、公営ギャンブルと同列では論じられない。配当金は主催者団体が売上金から支払い、地方自治体は“寺銭”をかすめているだけでは済まないからだ。
 カジノの場合は主催者、つまり胴元側は、客の求めに応じて賭博を開帳しなければならない。しかも客と同様に運を天に任せていては経営が危ういから、常勝するための工夫を要する。ここにイカサマが生まれる余地があり、トラブルも覚悟しなければならない。
 いわゆる素人が扱う商売ではないとされてきた由縁だ。日本のばくちが暴力団の裏稼業で行われ、諸外国のカジノの多くにマフィアが入り込んでいるのが何よりの証拠。「官」がカジノを推進するなど筋違いと言わざるを得ない。
 パチンコ店という事実上のカジノが、全国に乱立している現実も忘れてはならない。しかも、終戦直後に戦争未亡人らの生活を援助するとの理由でスタートした特殊景品を介した現金化が当たり前となり、最近は一度に10万円以上を投資するファンも珍しくない。パチンコ店の前に開業前から行列ができ、大損した人々が消費者ローンに駆け込んだ末、自己破産や自殺に追い込まれている現状は尋常ではない。
 暴力団がパチンコ店から用心棒代を取り立てようとするのも、縄張り内でのばくちを見過ごせば博徒流のけじめがつかないとの意識が働くからだ。それを取り締まるべき警察官の多くが競い合うように関連業界に天下りし、業界から政治献金を受け取っている国会議員もいるのだから世の中はおかしすぎはしないか。パチンコの正常化を抜きにしてカジノを認めるのは、社会としての自殺行為だ。
 税収も本当に見込めるのか。公営ギャンブルは人気が下降し、地方競馬はすべて赤字に転落している。海外のカジノも黒字経営ばかりではない。「先進国でカジノがないのは日本だけ」という声も聞こえるが、だからといって恥じ入ることではない。多くの低開発国にもカジノはある。むしろ、マフィア組織や腐敗した役人のマネーロンダリングの場と化し、治安上問題化している国が目につく。
 たとえ税収面でメリットがあるとしても、犯罪の温床となるカジノの恩恵を受けるより、支出の削減を図るのが健全な考えだろう。
 
 
 
 
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