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1994/08/08 毎日新聞朝刊
日本の常任理事国入り 国の運命決める なし崩しは危険
田中秀征 さきがけ代表代行
 
 常任理事国入りに慎重姿勢を示す田中秀征さきがけ代表代行は毎日新聞のインタビューに対し「なぜ慎重論なのか」を語った。
 
 ――常任理事国入りに慎重な理由は?
田中氏 問題点は大別すると二つ。一つは日本が常任理事国になることは、今後日本が生きていくうえで一つの運命を決める大きな問題だ。この意思決定が、行政主導で進められている感じを受けることが問題だ。もう一つは常任理事国入りそのものの是非。僕はどういう経緯でなるかが、常任理事国になった場合でも非常に影響すると思っている。「絶対になってはいけないとは言わない。なりたいと思うのはよくない。できればならないに越したことはない」というのが昨年以来の私の基本姿勢だ。
 
 ――講演で首相の私的諮問機関の設置を提案しましたが。
田中氏 一つの方法としてね。日本が常任理事国になって何をしたいかが論議されていない。常任理事国として果たさなくてはならない義務、責任が明確でない。それなのに国民的論議、合意形成を省略して立候補するのはどういうわけだ、と思ってます。
 
 ――首相特別補佐時代、外務省と議論しましたね。
田中氏 昨年九月の国連総会前に斉藤邦彦外務事務次官に確認した。「なりたいのか」と。斉藤さんは「なりたいとは思っていない。なるべきだとは思っている」と。「なるための運動をしてきたのか」と聞いたら「今までもしていないし、これからもしない」と。
 
 ――外務省は運動しているように見えますが。
田中氏 「見える」というのが大事なことだね。例えば市議になりたいと思っている人は、自分で言わなくても名刺が大きくなったり、足を踏まれても怒らなくなったり、一升瓶をぶら下げたり・・・。それで分かる。なりたいという気持ちでなる時、向こうから条件がつく。推挙されるのなら、こちらからできること、できないことを明確にして、しかも国連、安保理(の改革)に注文をつけることができる。
◇「一国平和主義」は誤解
 ――消極論に対して「一国平和主義」という批判も聞こえます。
田中氏 誤解して「自己中心的」という人がいるが、とんでもない。何をするのか分からないまま入って迷惑をかける方がよっぽど大変だ。もう一つは安保理の在り方だ。国連創設から五十年たって一つの曲がり角にきている。安保理の改組、常任理事国の構成も問題になっている。構成や拒否権の問題に日本の意見をまとめてぶつけてもいいじゃないか。それでなれなきゃいいじゃないか。それと一番の理由は常任理事国にならなくても、ほかにやることがあるんじゃないか、ということ。例えば、国連平和維持活動(PKO)は、燃えてる家の火を消すこと。火種になる戦争・紛争の原因は貧困など軍事要因以外が多い。グローバルな地球環境、麻薬、人口、エイズ、人権問題、圧政・・・。ルワンダの問題も貧困、人権問題、圧政が根っこにある。火種を除く努力は、火を消すのと同じ大事な貢献だ。これに重点を置くことが一国平和主義であるはずがない。
 
 ――常任理事国入りした場合の問題点は?
田中氏 湾岸戦争を例にとれば、常任理事国は一つ一つの安保理決議に主導的に参加する。(相手国にとって)非常に強い敵性を帯びる。公海上で船舶、飛行機にテロや報復を受けたら今の憲法でどう対抗するのか。米上院が「日本があらゆる形態の国連平和維持活動、平和創出活動に参加可能になった場合のみ、常任理事国入りを支持すべきだ」という決議を採択したように、同じ責任を担えという声がある。それと長期的に国力が、常任理事国としての立場を許すか。その辺が論議されず、ポッポと手が打たれていく。危険なものを感じる。
 
 ――村山政権は慎重姿勢ですが、「外交の継続」ということで、外務省の論理に取り込まれている印象も受けます。
田中氏 私と武村さん(正義蔵相)、村山さん(富市首相)、河野さん(洋平副総理・外相)の考え方は同じだ。僕は今度の三党合意に深くかかわっている。あれが政権の基本姿勢だ。外務省は(常任理事国入りのため)いろんなことをやるだろうが、こういう流れでやった仕事は絶対成功しない。外国からも政府開発援助(ODA)や一連の外交政策がみんな(常任理事国入りの)選挙運動だと受け取られる。とにかく、なし崩し的に既成事実を積み重ね、誘導していく問題ではない。手をあげる時には、国民合意が必要だ。これは批准段階ではできないんですよ。今が大事だ。
◇田中秀征(たなか しゅうせい)
1940年生まれ。
東京大学文学部、北海道大学法学部卒業。
1983年、衆院選初当選。細川首相特別補佐、経済企画庁長官等を歴任。
現在、福山大学教授。
 
 
 
 
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