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1995/10/21 産経新聞朝刊
【混迷と模索】国連50周年(4)PKOと財政 問われる日本の貢献度
 
 国連にとって五十回目の通常総会が開幕した先月十九日、ドアマラル総会議長(ポルトガル)は就任演説の中で、第一次大戦後の国際連盟と、第二次大戦の戦後組織として出発した国際連合とを比較して次のように語った。「国際連盟は二十年余りしか続かなかったが、国連は五十年も続いている。国際連盟は第二次大戦を防ぐという目的を達成することはできなかったのに対し、国連は第三次大戦を防ぐという大目的をとにかく果たしてきた」
 国連が発足の直後から経験しなければならなかった冷戦という長い冬の時代を生きながらえた理由について、ブトロス・ガリ事務総長は国連憲章の柔軟性を挙げている。ガリ事務総長の「憲章の柔軟性」が「解釈の余地が大きい」という意味だとすれば、国連平和維持活動(PKO)ほど、その柔軟性をよく表しているものはなさそうだ。
 国連憲章にはPKOに関する記載はない。発足当時には想定すらされておらず、冷戦時代の紛争に直面して現実の中から国連が生み出してきた活動だからだ。ガリ事務総長は九二年六月に「平和への課題」を発表した。この中で示された平和執行部隊の考え方に基づき、翌年五月にはソマリアで国連憲章第七章を根拠に自衛の範囲を超えた武力行使の権限を持つ平和執行型PKOが発足している。
 しかし、ソマリアのPKOは、武力によって紛争当事者であるアイディード将軍派の武装解除を強制しようとしたことから、逆に反撃されてPKO自身が紛争当事者の立場に立たされ、撤退を余儀なくされた。
 今年一月に事務総長が発表した「平和への課題・補足」は、ソマリアや泥沼の紛争が続くボスニア・ヘルツェゴビナの反省から、平和執行と平和維持は異なるものであることを確認し、PKOは「紛争当事者による派遣合意」「中立性の維持」「自衛目的以外の武力の不行使」の三原則を重視すべきだとする考え方を示している。
 ところが、ボスニアでは今年五月、北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆を受けたセルビア人勢力がPKO要員を人質にとって空爆の盾にしたことがきっかけになって、フランスやイギリスがPKO要員の安全確保のために重武装の緊急対応部隊を派遣した。
 国連はいま、原則面ではPKOの枠内での平和執行を否定しながら、ボスニアでは重武装の部隊がPKO要員として展開するという矛盾を抱えている。ガリ総長は、PKOをボスニアから撤退させ、NATOを中心にした多国籍軍に任務を引き継ぐことを認めるよう安保理に求めている。
 一方、政治から財政問題に移っても国連は窮地だ。先月ニューヨークを訪れた河野洋平外相にガリ国連事務総長は、「国連はいま破産寸前」と訴えるとともに、一層の財政支援に期待を表明した。
 国連の財政を支えるのは各国の分担金だが、その通常分担金と国連平和維持活動(PKO)分担金を合わせた未払い金の総額は今年九月三十日現在で、三三・三億ドル(うちPKO分担金二五・二億ドル)にも上る。逆に、日本の分担率は年々高まり、今年の通常予算分担金でもシェアは一三・九五%で、米国の二五%に次いで世界第二位。これは英国、フランス、中国三常任理事国の分担金の総和より多く、ロシアの二倍以上だ。財政面における日本の役割は今後さらに大きくなり九七年にそのシェアは一五・六五%まで増える。
 米国では議会が、今まで三一%負担していたPKO分担金を通常予算と同じく二五%しか払わないことを決めている。さまざまな国内事情があるとはいえ、米国が国連に失望しているのは事実。「米国の国務省では国連担当は左遷人事」(外務省筋)だという。
 だが、日本にとっては、国連の存在は全く違う。ある外務省幹部は「国連は主権国家同士の権力闘争の場なのに神聖化してしまっている」と言う。戦後、日本では社会党などが日米安保条約を「悪」と位置付け「国連中心外交」を教条的に訴えたことも「国民が無条件に国連を美化する」(外務省筋)土壌をつくった。
 さらに別の筋は、今総会で財政改革と並んで安保理改革が懸案になっていることに関連して、「世界第二位の財政負担をしながら、常任理事国になりたくないというのは、金だけ出して後は知らないと言っているわけで、他国からは無責任だと思われ、結局は国益を損なう」と強調する。
 PKO協力法が成立して三年余り経て、いくつかのPKOの実績も積み重ねられた。だが、国連の実態を正面から見据えず、常任理事国入りの論議をしている現状では「金も口も自衛隊も出すのが世界の平和維持に対する日本の誠意の証明」(外務省幹部)であることに気付くには、まだ時間がかかりそうだ。
(ニューヨーク 宮田一雄、政治部 福島徳)=おわり
 
 
 
 
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