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2003/11/01 読売新聞朝刊
[国連・幻想と現実](6)日本、「依存」脱却が必要(連載)
 
 九月二十四日、ニューヨークでの国連総会。北朝鮮と日本の政府代表団が激しい応酬を繰り広げた。
 北朝鮮代表「川口外相の演説での核、ミサイル、拉致問題に関する言及をすべて拒否する。拉致問題で未解決なのは(日本に帰国した拉致被害者)五人の(北朝鮮への)帰還だけだ」
 本村芳行国連次席大使「(五人の家族が)平壌に残ったままの不正常な状態を解消することこそ必要だ」
 終了後、日本政府代表団の一人は「北朝鮮の非人道的な考えが白日の下にさらされた。国際社会の北朝鮮への圧力は、強まるだろう」と語った。しかし、北朝鮮の非道ぶりが明らかになっても、国連は北朝鮮問題で何ら有効な手を打てないでいる。北朝鮮と日本の応酬をただ眺めているだけだ。
 日本は戦後、日米同盟と並ぶ外交・安全保障の基本方針に「国連中心主義」を掲げ、国連に対して毎年、多額の財政的貢献を続けてきた。にもかかわらず、北朝鮮問題という、日本にとって、戦後最も現実的な安全保障上の脅威にさらされている時に、その国連はほとんど役立っていないという現実に直面している。
 北朝鮮問題で国連の対応がにぶいのは、安全保障理事会常任理事国の中国とロシアが、北朝鮮を刺激する行動を避けていることが影響している。核問題など国際社会への挑発的な言動を繰り返す北朝鮮に対し、安保理は北朝鮮非難の議長声明さえ出せないでいる。
 対イラク戦争を巡っても、国連の機能不全が明らかになった。それでも日本政府は「国連中心主義」の旗は降ろしていない。十月半ばの日米首脳会談でも小泉首相は、「米国が国連をもっと活用することを考えてもらいたい。国連にはやはり権威があり、大義がある」と呼びかけた。
 ところが、ブッシュ大統領は「今の国連は古い」とにべもなかった。米国は、同盟国が中心の「有志連合」で、北朝鮮などの大量破壊兵器拡散を阻止する構想を提唱している。
 国連中心主義は、自衛隊派遣など日本の国際貢献でも足かせになっている。イラク復興支援特別措置法の制定にあたっては国連安保理決議を要件としたため、イラクへの自衛隊派遣は他国に比べ遅れが目立ち、いまだ実現していない。
 政府は、自衛隊の海外派遣に関する恒久法制定の準備を進めている。たたき台となる、福田官房長官の私的諮問機関「国際平和協力懇談会」(座長=明石康・元国連事務次長)の提言は、国連決議に基づく多国籍軍に限定した支援を打ち出している。
 川口外相の私的諮問機関「外交政策評価パネル」(座長=北岡伸一・東大大学院教授)は九月に発表した報告書の中でこう提言した。
 「日本の(対外活動に関連した)法制の多くが国連の活動にリンクしている。そうしないと国内立法ができない現実がある。これは再検討の余地がある」
 「国連のお墨付き」に頼る安易な国連依存は、しばしば日本外交から主体的判断力を奪ってきた。国連が世界の安全保障に責任を果たすとの理想が、「幻想」にすぎないことが明白になった今、日本は日米同盟を主軸に、国益を踏まえた外交・安保戦略を構築すべきだ。
(政治部 河島光平)(おわり)
 
 
 
 
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