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2003/10/31 読売新聞朝刊
[国連・幻想と現実](5)「旧敵国条項」、古い体質(連載)
 
 五月二十三日の米クローフォードでの日米首脳会談。小泉首相はブッシュ大統領に呼びかけた。
 「旧敵国条項の問題なども踏まえて、国連を強化するための改革に取り組むべきだ」
 「旧敵国条項」のくだりは外務省の官僚が事前に用意した応答要領にはなく、首相が自ら語ったものだ。
 首相の脳裏には、三か月前の衆院予算委員会でのやりとりがあった。民主党の前原誠司・前衆院議員が迫った。
 「日本は国連に世界第二位のおカネを出している。(年間)二百四十億円だ。しかも情けないことに、まだ敵国条項というのが残っている」
 「国連演説でも日本の立場を表明している」との答弁でかわそうとする首相に対し、前原氏は「表明しても、言いっぱなしで変わっていない。『国際協調』とかそういうお題目ではなくて、敵国条項が残っている中で、(日本の主張を)どう働きかけるのか」とたたみかけた。
 旧敵国条項とは、第二次大戦中に米英仏など連合国と敵対した国を「敵国」として言及する国連憲章第五三条などを指す。条文では具体的な国名こそ出してはいないが、日、独、伊などがこれにあたる。
 国連憲章が、まだ第二次大戦中の一九四五年に連合国によって決められたためだ。
 大戦終結から六十年近く、日本が国連に加盟してからも半世紀がたとうとしているのに、依然、この条文が残っていること自体、国連の体質の古さを物語っている。
 日本の働きかけにより、九五年十二月の国連総会で、条項を削除するための憲章改正手続きを早期に開始するとの決議が全会一致で採択された。決議は削除の理由として、「世界の実質的変化にかんがみ、敵国条項は既に廃れている」ことを挙げた。
 この総会決議を機に、日本は国連外交の目標を、日本の常任理事国入りを含む安保理改革に絞った。
 ところが、その後、安保理改革に向けた動きは止まり、憲章改正の手続きも全く進んでいない。
 全会一致の決議がありながら、条項が削除されないのは、国連が戦勝国によって創設され、今なお戦勝国中心の枠組みで主導されていることの象徴といえる。
 憲章改正の手続きに高いハードルがあることも大きな要因だ。改正案の発効には、安保理常任理事国五か国を含む加盟国三分の二の批准が必要だ。このため、国連憲章の改正は過去三回しかなく、最近は三十年間以上も改正されていない。
 ドイツやイタリアなど日本以外の旧枢軸国が、「もう誰も敵だとは思っていないし、現実に差別もされていない」として条項削除にそれほど積極的ではないことも影響している。
 しかし、日本はこの決議以降も、「敵」と見なされながら、一方で、毎年、莫大(ばくだい)な分担金を拠出させられるという理解しにくい状態が続いている。
 佐藤行雄・前国連大使は「安保理改革を待っていたら、いつまでも条項は削除されない。日本の国連加盟五十周年の二〇〇六年までに削除するよう努力すべきだ」と言う。加盟国間に異論のない条項削除すら出来ないで、意見の食い違いが大きい安保理改革をどう実現するというのか。日本外交の実行力が問われている。
(政治部 佐藤昌宏)
〈旧敵国条項〉
 国連憲章第五三条は第一項で、地域的取り決め(機関)による強制行動(軍事行動)は安保理の許可がなければとれないとしているが、「敵国に対する措置」の場合は例外としている。第二項で「敵国」を、第二次世界大戦中に国連憲章署名国の敵国だった国と定義する。
 
 
 
 
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