1999/06/25 読売新聞朝刊
国連改革と日本の課題 常任理事国視野に 国際責務果たす用意を(解説)
小渕首相は、先の主要国首脳会議(ケルン・サミット)で国連改革の重要性を強く訴えたが、改革の実現には日本も一層の努力が必要だ。
(政治部 村尾新一)
小渕首相がサミットで、安全保障理事会を中心とした国連改革を主張したのは、国連がユーゴスラビア・コソボ紛争を未然に防止できなかっただけでなく、一連の和平プロセスでも、米英など主要八か国(G8)に主役を譲り、国連はほとんど機能しなかったためだ。
実際、安保理では、米英仏などを含む北大西洋条約機構(NATO)が、国連決議なしで「人道的介入」を理由にユーゴ空爆に踏み切ったのに対し、ロシアと中国は「内政干渉」と強く反発、常任理事国の足並みはそろわなかった。
ただ、その一方で、紛争終結の最終局面では、G8も、コソボに展開する国際文民・治安部隊を国連傘下に置くことなどを柱とした安保理決議の必要性を強く主張した。これは、米英仏など各国が自らの軍事行動および紛争処理の正統性を国連の「権威」に求めたものと言える。
こうした動きを踏まえ、小渕首相も、「安保理がまず行動を起こして、紛争解決へと導くことができれば理想」として、安保理再生の重要性を強調した。背景には、朝鮮半島情勢などを念頭に、G8に加わっていない中国に配慮した面もある。
日本の働きかけもあり、サミットのG8宣言には「危機予防において国連が果たす重要な役割を認識し、能力強化に努める」との文言が盛り込まれた。また、今回の訪欧中に行われた一連の個別首脳会談でも、独英両国や北欧五か国が日本の主張に賛意を示した。
日本側には、さらに、今回のコソボ問題をきっかけにして、遅々として進まない国連改革論議に再び火をつけ、悲願の安保理常任理事国入りへとつなげたいという考えも強い。だが、実現は簡単ではない。
日本はすでに九三年七月、当時の宮沢内閣が国連に対し、初めて安保理改革の意見書を提出した。現在は具体的には〈1〉先進国と途上国から新たに常任理事国を加える〈2〉常任、非常任合わせて十五か国の安保理メンバーを二十四か国に拡大する〈3〉日本も常任理事国として責任を果たす用意がある――などと主張している。
しかし、常任理事国の枠の拡大をめぐっては、イタリアがドイツに先を越されることに反発するなど「総論賛成、各論反対」が支配的。現在十か国の非常任理事国の枠についても、大幅増をめざす途上国と拡大を望まない欧米との隔たりは大きい。常任理事国五か国だけが持つ拒否権に関しても、途上国を中心に批判が強いものの、五か国側は手放す考えはない。
日本の場合、仮に国連改革が実現し、常任理事国に入ることができたとしても、さらに課題がある。どのような役割を果たしたいのか明確ではないことだ。コソボ紛争でも、「内政不干渉」の原則を守ろうとする中国、ロシアと、原則を棚上げしても「人道的介入」が許されるとする欧米との対立の中で、日本はどのような立場をとるのか、いま一つはっきりしなかった。
常任理事国を務めるには、国際的な責務を果たすだけの覚悟がいる。そのためには、国内の制約を取り払う努力が不可欠であり、国連平和維持隊(PKF)参加の凍結解除などについては早急に結論を出す必要がある。
日本政府は二〇〇〇年七月の沖縄サミットでの議論を経て、「国連ミレニアム(千年紀)サミット」と位置づけられる来年秋の国連総会までには国連改革の道筋をつけたいとしているが、改革実現には、各国への働きかけとあわせて、国内の環境整備も急務だ。
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