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1997/07/19 読売新聞朝刊
[特派員ノート]アナン氏の国連改革手腕
ニューヨーク・藤本直道
 
 マンハッタンの国連本部に近い国連事務総長公邸で十五日、読売新聞やニューヨーク・タイムズなど世界の有力紙誌十社の記者を集めて朝食会が開かれた。コフィ・アナン事務総長が「静かな革命」と呼ぶ、国連行財政改革案を事前説明するためだった。
 今年初めに就任したアナン氏は三月に、事務局ポスト千人分削減などの第一次改革案を発表しているが、今回の改革案発表にあたっては、事務総長の上級顧問で改革案の推進役、ジョン・ラギー氏(前米コロンビア大学国際学部長)が十六日の発表当日、ワシントンに飛び、米議会と有力シンクタンクで改革案を説明する熱の入れようだった。
 アナン氏が国連改革を急ぎ、かつ周到な根回しをしているのは、冷戦後の国連の役割見直しと国連組織の効率化が急務となっていることもあるが、職員の給与が滞る事態も憂慮されるほど財政危機が深刻化しているためだ。そして、改革案の真の標的は、百八十五の加盟国ではなく、米議会にある。十四億ドルと言われる米国の国連分担金滞納が、国連財政圧迫の最大の原因であり、その米国は、議会が国連改革を滞納金支払いの条件にしている。
 クリントン米大統領はアナン氏の事務総長就任直後、滞納金支払いの善処を約束し、六月には支払いに慎重な米上院外交委員会から、三年間で八億一千九百万ドルまで支払うとの合意を取り付けた。ただ、米議会が国連の経理を監査する権限を持つことや、米国の分担金を通常予算では現在の二五%から二〇%まで減らすことなどが条件。
 だが、今回の改革案は米議会の条件にはほど遠く、部局の統廃合や運転信用資金の設置などにとどまっている。自発的な拠出による十億ドル規模の運転信用資金は、分担金滞納などで財政が危機に陥った場合に使うものだが、それでは「米議会が滞納で圧力をかける意味がなくなる」(NYタイムズ紙)。それだけにリチャードソン米国連大使は「全体としては評価できるが、運転信用資金と軍縮局の新設は再検討の必要がある」と語る。
 議会でも、「アナン氏は国連改革に立ち上がり、正しい方向に導こうとしている」(ジョセフ・バイデン上院外交委メンバー、民主)と評価する声がある一方で、上院外交委のジェシー・ヘルムズ委員長(共和)のスポークスマンは「国連がいかに官僚機構の悪弊に陥り、第三世界諸国に操られているかを示すもの」(ワシントン・ポスト紙)と切り捨てる。
 もともとアナン氏は、米国がブトロス・ガリ前事務総長を嫌って強引に再選辞退に追い込み、引っ張り出した人物。ガーナ出身だが米国で学び、米国流の考え方を身につけている。それだけに米国には御しやすいと見られていた。
 だが、初の国連生え抜きの事務総長であるアナン氏は、国連の行財政をよく知り、改革の必要性と同時に国連の自力での改革には限界があることもわきまえている。
 確かに、国連は、事務的な非効率や経費の無駄遣いが目立つ。経費負担が米国に偏りすぎていることも事実だ。「国連改革には外部からの圧力が必要」という米議会筋の主張には一面の真理がある。
 だが、湾岸戦争など国連のお墨付きを必要とする時には国連を利用し、その一方で分担金を滞納して改革の圧力とする米国に対し、発展途上の国々は唯一の超大国の横暴という印象を抱いている。
 老練な国連行政官アナン氏が、国連、米政権、米議会の絡み合った糸を、いかに解きほぐすか。
 
 
 
 
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