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1996/12/22 読売新聞朝刊
[国連加盟40年](4)PKO参加、なお入り口(連載)
 
 「他国の軍隊と共同で(部隊などを攻撃から守るための)警護訓練はできなかったし、自衛隊は指揮官の指揮による(武器使用の)行動はできない。それだけでも変わっていて、他国と歩調を合わせにくい所はあった」
 国連モザンビーク活動(ONUMOZ)(九三年五月―九五年一月)に参加した陸上自衛隊の今浦勇紀二佐は振り返る。
 日本の国際貢献のあり方を巡り、国論を二分した議論の末、国連平和維持活動(PKO)協力法が成立したのが九二年六月。しかし「自衛隊の海外派兵につながる」との批判を考慮し、協力法や、それに基づく実施計画は、「(活動内容の)ぜい肉をそぎ落とし、かなり限定した形」(陸幕広報室・遊佐宏文二佐)にせざるを得なかった。「海外での武力行使」に当たるとされた警護業務も協力法には盛り込まれなかった。
◆同胞を警護できず
 ところが、PKOの現場では状況が刻々と変化し、柔軟性のある活動が求められる。カンボジア派遣(九二年九月―九三年九月)でも、「輸送」「医療」業務は実施計画に追加して可能となったものの、選挙前の緊迫する治安状況の中で、日本人選挙監視員の警護をフランス部隊に要請する、という事態にもなった。防弾チョッキを着込み、小銃を担いだ自衛隊員は、「情報収集」を名目に日本人が担当する投票所を回らざるを得なかった。
 「他国の部隊に当然のことが、なぜ、日本部隊はできないのか」
 自衛隊派遣の先々で国連側や他国部隊から発せられる質問に、「日本国憲法は皆さんの国の憲法とはちょっと違う。私たちは普通の軍隊と同じような活動ができないことになっているんです」と、遊佐二佐は説明し、理解を求めたという。
 総理府国際平和協力本部は九月、PKO協力法の見直しについて中間報告を行った。個人の判断に任され、隊員に過重な心理的負担を与えているとして、見直しを求める声が強かった武器使用については、指揮官の命令で組織的な使用が可能になる方向で改正案がまとまりつつある。しかし、警護業務は「今後とも検討する事項」に含まれたものの、「内閣法制局が憲法との整合性について検討を行っているが、業務に加えるのは相当難しい」(協力本部筋)のが実情だ。
 政治の側でも、自衛隊の海外派遣に依然として消極的な社民党の発言力を、自民党も無視できないなどの事情から、PKO法の積極的見直し論は聞こえてこない。PKO法に盛り込まれながら「凍結」されている「平和維持隊(PKF)の本体業務」(停戦の確保、武装解除など)への参加問題を見直そうという動きもない。
◆変質する活動手法
 国際社会に目を転じると、失敗に終わったソマリアやボスニアなどでの経験を経て、PKOは変化、発展を遂げている。今までの停戦監視を主体とするPKOよりも、人道的な食料や医療品の運搬に対する警護活動がむしろ主流になりつつある。そしてボスニアやザイールなどで見られるように、より強制力を発揮できる多国籍軍とPKOを組み合わせて紛争解決を試みる手法が今後一般的になろうとしている。
 明石康・国連事務次長は「PKOは教科書的なものではなくなっている」と言う。そして日本の現状について、こう警鐘を鳴らす。
 「憲法の精神を尊重し、武力行使を最小限にとどめるのはよいが、あまり杓子(しゃくし)定規な態度にとどまっていてはいけない。かたくななPKOに対する考え方のままでは、今後大変な試練に直面することになるだろう」
 自衛隊のPKO参加はルワンダ派遣を含め四回を数え、派遣隊員は千八百人以上に上る。しかし、PKOの入り口でとまどいを払拭(ふっしょく)しきれない日本と、世界のPKOの現状との距離はむしろ広がりつつある。
(外報部 三好範英)
 
 
 
 
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