1995/10/26 読売新聞朝刊
国連創設50周年記念総会 苦悩する世界浮き彫り 組織疲弊も深刻に
◆見えない日独の指導力
【ニューヨーク24日=山岡邦彦】二十二日から二十四日まで国連本部で開かれた国連創設五十周年記念総会特別会合には、加盟百八十五か国のうち、百七十七か国代表が出席、国家元首や政府首班など百数十人の首脳が集まった。これだけの数の世界の首脳たちが五分間の演説に凝縮して映し出したのは、各国が平和の確保や経済・社会開発に苦闘している現実であり、処方せんとしての国連改革推進への意思だった。
〈紛争〉
平和へのほのかな兆しは、中東にあった。
二十一年前、第四次中東戦争後の国連総会で、「オリーブ(平和)か、銃か」と迫ったアラファト・パレスチナ解放機構(PLO)議長は、初日午前の最後に登壇し、腕を上下に激しく振りながら「二十一年前、私は自由、解放、独立の闘士としてここに来た。今日、愛と平和に満たされた心と、オリーブの枝を持って皆さんの前にやって来た」と、過去一年、イスラエルとの和平プロセス進展でパレスチナ暫定自治が始まったことを喜び、調停努力にあたった米ロやエジプト、日本、欧州連合(EU)、ブトロス・ガリ国連事務総長らへの謝意を表明し、満場の拍手を浴びた。
戦火が広がっていた旧ユーゴスラビア地域からも、希望の薄日はさしていた。
国連の制裁下にある新ユーゴスラビアは総会議席追放で不参加だったが、米国の調停でセルビア人勢力との停戦合意にこぎつけたボスニア・ヘルツェゴビナとクロアチアの両国首脳は、ともに和平努力への取り組みを表明した。国連調停で隣国ギリシャと和解したマケドニアは、記念総会前日に、初めて国旗が国連本部に掲げられた。だが祝うべき主役の大統領は三日、車爆弾テロの暗殺未遂事件にあって重傷を負い、大統領代行の代理演説となった。
紛争に苦しむ地域は中東、バルカンだけではない。分離独立を要求する少数民族タミル過激派との内戦が続くスリランカ、紛争勢力との来年二月までの停戦を報告したタジキスタン、八千人規模へ増大される国連平和維持活動(PKO)「第三次国連アンゴラ検証団」への協力を重ねて表明したアンゴラ、戦争犯罪人をかくまっているとしてケニアを非難したルワンダなど、代表たちは現実の厳しさを訴えた。
〈開発〉
環境、開発問題も主要テーマの一つだった。
ベラルーシのルカシェンコ大統領は、チェルノブイリ原発事故の放射能汚染で、出生率が半減し、復興対策に国民総生産(GNP)の二割以上を費やす現状を説明して国際社会の支援を要請した。マンデラ南アフリカ大統領、カストロ・キューバ国家評議会議長はいずれも飢えと貧困に苦しむ人々の救済を訴え、ナミビアからは「国連は今後五十年以上、拡大する一方の南北の富の格差是正に重点を置くべきだ」との注文が出た。
〈改革〉
平和の維持、建設にも、社会・経済開発にもカネがかかる。しかし分担金滞納は三十億ドル以上に達し、国連の財源は枯渇した。ガリ事務総長は、加盟国に支払いを要請。国連通常予算の二五%を支払うべき米国は、肥大化した国連官僚機構の縮小の必要性を強調して予算削減努力を国連に求める一方、肝心の分担金支払いは、国連批判の強い議会に承認を渋られて、十億ドル以上も滞納している。
ノルウェーのブルントラント首相は、「十何か国もの議会は、加盟国に支払いが義務付けられた分担金を政治的な“人質”にとっている。最低の行為だ」と非難した。だが、経済苦境のラトビアからは、過重な分担金比率で滞納を余儀なくされ、総会投票権の停止が来年一月に迫っているので何とかしてほしい、と切実な声も出た。
〈日独〉
各国の主張が相次いだ中で、分担金比率で米国に次ぐ大国の日本とドイツの影は、奇妙にも薄かった。コール独首相は五分間の演説が短過ぎると参加せず、代理出席のキンケル外相も各国首脳の記念撮影時には別の用件で席を外し、国内の批判を浴びた。村山首相は、首脳が招かれたガリ氏主催の昼食会に出席せず、国会日程を理由に演説終了後ただちに帰国した。クリントン米大統領らが乾杯の音頭取りをし、各国首脳が貴重な機会とばかりに交流と意見交換に努めた三日連続の昼食会に、姿を見せなかったのは、あと、二国間首脳協議の都合で欠席したシラク仏大統領だけ。
そのシラク氏はじめ数か国代表から「国連安全保障理事会常任理事国入り支持」を名指しされた日独両国の政治指導者の腰の引け方は、国連への取り組み姿勢が両国とも微妙な内政問題になっていることを、図らずも印象づけた。強力なリーダーシップを日独が発揮しようとしない現実は、課題の多い国連の前途多難ぶりを象徴しているように見えた。
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