1986/12/01 読売新聞朝刊
日本、国連加盟30年 分担金も2位 重さ増す役割
日本が一九五六年十二月に国連に加盟してから、今年で三十年。東京・九段会館で二十八日、行われた国連加盟三十周年記念式典にメッセージを寄せたペレス・デクエヤル国連事務総長は「国連を再活性化させるための日本のリーダーシップを歓迎する」と、日本の役割に大きな期待を表明した。累積赤字が五億ドル近くにのぼる財政危機、アメリカなど主要先進国に広がる国連離れの傾向――といった状況の中で、日本の比重は急速に高まりつつある。
「加盟当時、初めて国際社会への仲間入りを認められヨチヨチ歩きだった日本が、いまや国連のリーダーシップを担おうとしているんだからね」
外務省のある幹部は感慨深げにこう語る。日本の国際的地位の高まりと同時に、国連分担金がアメリカに次いで二位(二百七十二億円=八六年=で、全体の約一〇・八%)という自信に裏打ちされた感想だ。
だが、放漫財政に陥っている国連の立て直しは「気の遠くなるほどしんどい作業」(外務省筋)である。
外務省は、三十周年を機に、国連再活性化のため日本に何ができて、何をしなければならないかについて、総合的な検討作業を行った。この結果、来年に向けて二つの柱を目標にすることになったという。
一つは、日本が支払っている分担金や拠出金の使途を徹底的に洗うための初の調査委員会の設置。六十二年度予算で七千五百万円を要求しているが、今月の予算編成でこれが認められると、来年四月発足の運びとなる。例えば、日本の拠出金が被災民に直接届いているかどうか、国連児童基金(ユニセフ)などの国連機関で、日本の分担金、拠出金が有効に使われているかどうかを、調査委員会から派遣された担当官が査察することになる。「これまで、分担金、拠出金は出しっ放しだったが、使途をチェックすることで放漫財政の洗い直しにもなる」と、国連局の担当官。外務省内に事務局を置き、運輸省、農水省など関係省庁とも調整を図っていくことになりそうだ。
もう一つは、国連機関の長(事務局長)に日本人を送り込むこと。現在、国連には国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)、世界保健機関(WHO)など二十五の機関がある。各事務局長ポストは十八か国にわたっているが、日本人の事務局長はゼロ。日本人としては、わずかに明石康・国連事務次長(現在広報担当、来年三月から軍縮問題担当)が重要ポストについているだけだ。国連の平和維持活動(PKO)への要員派遣ゼロという現状とあわせて、「カネは出すが人は出さない」と皮肉られる根拠となっている。
ところが、事務局長ポストについては、これまで、日本が人を送らなかった、というよりも、「送り込むべき人材がいなかった」(外務省筋)というのが実情だ。事務局長には(1)少なくとも二か国語以上の外国語にたん能(2)巧みな行政手腕(3)国際人として各国の代表と渡り合って行ける度胸(4)国連の実情に詳しい――といった条件が求められる。
国連局幹部は「なかなか適任者がいない。やはり、加盟三十年たっても、本当の意味での国際人がまだ育っていないということでしょう」と、悲観的だが、外務省内には「そろそろ人材を発掘して事務局長ポストに送り込むべきだ」とする声が強く、学界、ジャーナリズム、外交官OBなどに打診して、初の日本人事務局長の候補探しに乗り出している。
ただ、放漫財政のチェックや、人材投入が実現しても、平和維持活動、経済開発など国連本来の機能を取り戻すには時間がかかりそうだ。日本が昨秋、提唱した「行財政改革のための賢人会議」は、「あえてパンドラの箱を開けた」(外務省筋)もので、賢人会議の勧告案は、今国連総会で予想通り、アフリカなどの第三世界諸国から強い反発を受けている。
日本は、来年一月から六回目の安保理非常任理事国になる。「様々な安保理決議に日本がどう反応するか、第三世界から踏み絵を踏まされているようなもの」(外務省筋)で、先進国の主要国としての日本が、国連の大多数を占める第三世界諸国とどう折り合っていくかも、加盟三十年を迎えた日本の国連外交の大きな課題となっている。
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