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2001/01/17 毎日新聞朝刊
[負の明細書]国連の裏側/2 国際法廷でも不正続々−−ルワンダ
◇出納記録なく二重給与も−−査察報告書「すべての分野で重大な管理ミスがある」
 タンザニア北部。アフリカ最高峰キリマンジャロの山すその小さな町、アルーシャ。緑にあふれる街道を行くと、国立会議場が見える。その中に、国連の「ルワンダ国際犯罪特別法廷」がある。
 1994年4〜7月の3カ月間で、推定80万人が犠牲となったルワンダ大虐殺。その責任者を処罰するため、同年、国連決議で設置が決まり、95年末、発足した。
 その法廷を、国連の内部査察室(OIOS)が集中的に査察したのは96〜97年にかけてのことだ。「組織管理がずさんだ」という国連加盟国からの情報があり、国連総会が査察を要請した。
 査察室の幹部が当時を振り返った。「法廷では不祥事は少ない。最初はそう考えていたが、見事に裏切られた」
 毎日新聞が入手した97、98年の報告書が残る。
 まず、査察官らは財務簿を調べようとしたが、多くの記録が欠け、信用できるものではなかった。金庫の中身を調べると、国連規定で決められた手持ち現金の限度額1000万円分をはるかに超える6000万円分があった。支出の際の手続きも不要で、出納記録もなかった。「横領や盗難の温床になる」と査察官は報告している。
 職員のモラルも問題になった。
 ある経理担当職員は、95年10月以来、ニューヨークの本部から給与を得ながら、同額の給与を法廷の予算からも引き出していた。この「二重給与」で、職員は6カ月間、350万円分余計に現金を手にした。その後、問題が発覚し、職員は辞めている。
 「汚職が進行している」
 97年、査察室にこんな内部情報が入った。同年末、犯罪担当部門の査察官が調べた際、ビル管理部門の職員2人が業者に金品を要求していたことを確認した。査察室は同年12月に切れる予定の職員2人の契約を延長しないよう勧告。だが、2人が職場を去ったのは翌年の5月だった。
 「職員との対話」、「会議」。97年、過去の弁護士への支払いを調べた時は、こんな不明朗な名目で、次々と報酬を払っていたこともわかった。進行中の裁判とは全く無関係な法律書を読むだけで報酬を得た弁護士も多かったという。同年1〜9月の間、弁護士への支払いが、1億円に達していることも記録で判明している。
 96年11月の調査によると、出勤簿もなく、勤務時間が記録されていなかった。97年8月時点で、1400万円相当の私用電話、ファクス代が未回収だと判明した。職員は公用車を私用に使い、週末の観光などで乗り回していた。
 「すべての分野で重大な管理ミスがある」。報告書は、そう警告していた。
 
 オランダ・ハーグ。旧ユーゴスラビア紛争の戦犯を裁く「旧ユーゴ国際戦犯法廷」(93年設置)も95〜98年にかけて、査察室が調査した。そしてここでもさまざまな問題を発見した。
 旅費や電話代、通訳代などの出納記録がずさんで、96年、1億円以上の金が何の目的で使われたか分からなかった。また、各国の拠出金の受け付け記録もあいまいで、オランダが申し出た2億円分が記入されていなかった。
 一方、無用な職員ポストの増設などで、97年には6億円の予算が余分に請求されていたほか、民族浄化が問題になったボスニア・ヘルツェゴビナなどの調査資料も一時整理されず、起訴の障害になる可能性もあったという。
 
 アルーシャで、ルワンダ法廷のモガル広報官(37)が話した。
 「法廷設立の失敗だけで、アフリカはダメといったイメージを当てはめないでほしい。あの報告書以降、人員も管理体制も規律もすべてが変わった」
 事実、査察室はその後、ルワンダ、旧ユーゴの両法廷が勧告に従い多くの改善を行ったことを認めている。ルワンダでは査察室の報告を契機に、ほぼスタッフ全員が入れ替わってもいる。
 だが、なぜこのようなずさんな運営が行われたのか。
 報告書は、人材不足▽国連本部による各法廷の運営ガイドラインの欠如▽先に活動を開始した旧ユーゴ法廷がルワンダを援助しなかったこと――などを要因に挙げる。さらに、ルワンダ法廷のケネディ広報担当長(48)は現地の実情についてこう語る。
 「アフリカで施設を設立することは難しい。96年当時、アルーシャにはドル小切手をすぐに決済する銀行がなかった。領収書も書いたことのない業者を相手にすれば、帳簿がずさんになるのもやむを得ない」
 
 国際法廷は、第二次大戦後のニュルンベルク・極東裁判以来初めて「人道に対する罪」を問う旧ユーゴ戦犯法廷が国連決議で設立され、ルワンダが続いた。しかし、現実には裁く側に資質に欠ける事例もあることは無視できない。
 問題の根は、深い。
【藤原章生、福原直樹】=つづく
 
 
 
 
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