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2000/09/02 毎日新聞朝刊
国連千年紀サミットの焦点 「安保理改革」「PKO強化」−−各論で難航?
◇各論で難航?理事国拡大
 ニューヨークの国連本部に世界各国の首脳を集めて9月6日から8日まで開かれるミレニアム(千年紀)サミットとこれに続くミレニアム総会では「安全保障理事会(安保理)の改革」と「国連平和維持活動(PKO)の機能強化」が大きな焦点になる。とりわけ深刻なのが安保理問題で、いまのような機能低下状態が続けば、国連の権威そのものを低下させてしまう懸念がある。二つの問題について、その現状と課題、サミットでの議論のポイントをまとめてみた。
【ニューヨーク・上村幸治】
◇安保理改革◇
◇中国の強い訴え
 中国は今年7月の九州・沖縄サミット(主要国首脳会議)への不参加を決めた直後から、国連の重視を改めて声高に訴えるようになった。G8(主要8カ国)サミットより、国連を重視せよとほのめかしているようにもとれた。中国は国連安保理にあっては拒否権という権力を誇示している。しかし、G8サミットに参加すれば、日本やカナダと同じ一つの国にすぎなくなる。中国としては、国連以外の場所で主要国の意思決定・合意形成が進むと、自国が不利になる。だから国連重視を強調する、というわけだ。
 国連安保理は、常任理事国5カ国(米英仏露中)と非常任理事国10カ国で構成しているが、常任理事国だけが拒否権を持っている。常任理事国は、第二次世界大戦の戦勝国を軸に構成されているだけで、現在の国力・影響力とは関係がない。
 国連の通常予算分担率(2000年)でも、1位こそ常任理事国の米国25%だが、2位は日本20.573%、3位はドイツ9.857%だ。フランス6.545%、英国5.092%で、ロシアはわずか1.077%、中国も0.995%にすぎない。
◇果たせない役割
 しかも、冷戦期には常任理事国が拒否権を乱発した結果、国連は平和維持の機能をあまり果たせなかった。冷戦が終わり、国連の出番が来たかと期待されたが、ここしばらくを見ても、国際情勢で重要な役割を果たしてきたとは言い難い。
 劇的な南北首脳会談が行われた朝鮮半島の情勢に関して、国連は何のイニシアチブも発揮できなかった。昨年3月のコソボ紛争では北大西洋条約機構(NATO)が安保理の決議なしにユーゴ空爆に踏み切っている。チェチェン危機では、ロシアが当事国ということもあり、まともな議論すら行われていない。
◇動きだした論議
 国連はすでに1993年12月に安保理改革作業部会の設置を決議し、本格的な改革に乗り出している。97年には、作業部会のラザリ・イスマイル議長が改革案(ラザリ案)を提示し、安保理構成国の数を現行の15から24に増やすよう求めた。
 しかし、ドイツの常任理事国入りを嫉妬(しっと)するイタリアが「コーヒー・クラブ」と呼ばれる反改革グループを作り、決定の先延ばしを求めた。その後、ロシアや中国もこの動きを支持している。
 それでもかなりの数の国が、安保理常任・非常任理事国の枠の拡大に同意するようになり、常任理事国の拒否権の制限を求める声も強まってきた。安保理改革に慎重だったアナン事務総長も、危機感を抱くようになり、今年4月にミレニアム・サミットに向けた報告書を発表、安保理を早急に改革するよう求めた。
 同じころ、安保理構成国の数は21までしか増やすべきではないと主張し、改革論議を停滞させていた米国が、日本の説得で「21より少し大きな数に増やすことを検討する用意がある」と表明し、積極姿勢に転じた。沖縄サミットでも、イタリアを含む主要8カ国の首脳が安保理改革を促した。
 これを受けて、グリラブ国連総会議長(ナミビア外相)がミレニアム・サミット宣言の草案の中で安保理改革を促している。ミレニアム・サミットでは、各国首脳の議論を踏まえ、この宣言を採択する。こうした動きにより、安保理改革をめぐる議論に弾みがつくのでは、と期待されている。
 もっとも、総論賛成でもどこが新たに常任理事国になるのかといった個別の問題では、意見が対立しがちだ。実際に改革を実行するには、加盟188カ国の3分の2の賛成が必要ということもあり、実現にはかなり時間がかかりそうだ。
◇虐殺防止へ実効策討議
◇PKO強化◇
◇ルワンダの過ち
 「国連は一般市民を大量虐殺から守るという任務に二度と失敗しないようにしたい。これが国連事務総長の最も重要な職責だと考えている」――昨年12月、ルワンダ大虐殺に関する報告書が国連に提出された時、アナン事務総長は沈痛な表情で、こう語った。
 ルワンダ大虐殺は、アフリカ中部の同国で、100日余りの間に、ツチ族住民80万人がフツ族に殺された事件だ。レイプ、拷問なども行われ、凄惨(せいさん)を極めた。
 国連は当時、PKO要員を現地に派遣していた。しかし、その任務が「和平協定の履行監視」にあると説明して中立的な立場に終始し、虐殺を防止できなかった。このため、スウェーデンのカールソン前首相らがまとめた報告書は、国連PKOの対応に問題があったと厳しく指弾している。
 ルワンダ報告を受け、アナン事務総長は、諮問機関「国連の平和活動に関する委員会」にPKOの見直しを要請した。
 委員会はPKOの機能を強化するため(1)和平協定違反者に対し、中立的立場を取らず、現実的に対応する(2)PKO派遣にからむ事務総長の権限拡大(3)緊急展開部隊を創設するための事前登録制導入――などといった提言を行った。
 地域紛争が多発し、従来のPKOが想定していなかった事態が起きているため、これに備えようという色彩が強い。どうすれば大量虐殺のような事態を防止できるかという観点から考えられた内容が目立つ。
◇アフリカ念頭に
 もっとも、現時点でこうした虐殺が懸念されるのは、内乱の続くアフリカだ。たとえばシエラレオネでは、今年5月に、国連シエラレオネ派遣団(UNAMSIL)が攻撃を受け、要員約500人が拘束されるという事件も起きている。
 その一方、アジアの国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)や、国連東ティモール暫定統治機構(UNTAET)といったPKOは、成功している。したがってアナン版PKO強化策は、とりあえずアフリカを念頭に置いたものということになりそうだ。
 報告書はミレニアム・サミットに提出され、各国首脳らの議論にかけられる。とりわけ、9月7日の安保理サミット(安保理構成国の首脳による会議)で、重点的に討議される予定だ。安保理サミットでは、当然ながらアフリカ問題そのものも焦点になる。
《サミット・総会の主な議題》
・平和と安全保障
・貧困の根絶
・環境保護
・国連改革
・PKO機能の強化
・重債務貧困国の債務削減
・アフリカ問題
・エイズ対策
・IT(情報技術)
・グローバリズム対応
《主な参加予定者》
 クリントン米大統領▽ブレア英首相▽シラク仏大統領▽プーチン露大統領▽江沢民・中国国家主席▽森喜朗首相▽金大中(キムデジュン)・韓国大統領▽金永南(キムヨンナム)・朝鮮民主主義人民共和国最高人民会議常任委員長▽シュレーダー独首相▽ワヒド・インドネシア大統領▽マハティール・マレーシア首相▽バジパイ・インド首相▽バラク・イスラエル首相▽ハタミ・イラン大統領▽ムバラク・エジプト大統領▽アラファト・パレスチナ自治政府議長▽フジモリ・ペルー大統領
 
 
 
 
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