1997/08/02 毎日新聞朝刊
[国連改革と日本]常任理事国入りを問う/1 背水の陣 議長案米支持で弾み
◇裏に日本の働きかけ
日本政府が国連安全保障理事会常任理事国入りの意思を総会の場で明確に打ち出してから間もなく3年。安保理をはじめ行財政、経済社会の3分野に及ぶ国連改革論議が今、胸突き八丁に差し掛かっている。日本は国連分担金比率が改定される今年末までに常任理事国入りにめどをつけたい構えだが、各国の利害や思惑が交錯し、論議の行方は予断を許さない。冷戦の終えんを受け、国連改革が国際社会の課題として浮上した背景を踏まえつつ、常任理事国入りを目指す政府の論理と戦略をさまざまな角度から探る。
「過去4年間の進展を踏まえ、第52回総会(会期は今年9月から1年間)でも作業部会の論議を継続するよう勧告する」
7月18日、ニューヨーク国連本部。1993年12月に設置されて以来、安保理拡大問題を毎年検討してきた国連総会直属の安保理改革問題作業部会(議長・ラザリ総会議長)は、4年目の今期も「結論」を出せないまま、継続討議を勧告する報告書を採択して閉会した。新たな合意事項は何も盛り込まれず、国連外交関係者は「作業部会でこれ以上議論を詰めるのは難しいかもしれない」と、その限界を口にした。
今年3月、作業部会にはかつてない緊張感が漂っていた。遅々として進まない論議を懸念したラザリ議長が、自ら改革草案を各国に提示したからだ。
「安保理の構成を現在の15カ国から24カ国に拡大する」「拒否権を持たない常任理事国を5カ国加える」「改革の枠組みを定める総会決議を今年6月から9月の間に採択し、新常任理事国を来年2月末までに総会の投票で3分の2の多数で決定する」――。いささか強引にもみえるラザリ提案は165カ国からの個別の意見聴取を土台にしたもので、作業部会の論議を一気に活性化させた。
それから4カ月余。日本や米国、英国、ドイツ、インド、ブラジルなど「改革推進派」と、イタリア、韓国、メキシコ、パキスタンなど「改革反対派」の綱引きの中、議長が提示した当初のタイムスケジュールは困難になった。総会で大きな勢力を占める非同盟諸国は議長案の「改革実現の時間的枠組み」に懸念を示し、アフリカ統一機構(OAU)も「アフリカから二つの常任理事国を」という主張を崩していない。作業部会の論議は結局、「展開すれども進展せず」(国連外交筋)で今総会会期中の全日程を終えた。
だが、国連外交筋は「ラザリ議長案が死んだわけではない」とみる。その有力な根拠が、米国の「早期決着支持」宣言だ。
作業部会の会期切れを翌日に控えた7月17日、リチャードソン米国連大使は、途上国3カ国の常任理事国入りに同意する考えを米国として初めて明言、今秋の総会で安保理拡大の「枠組み」を採択するという議長の目標を支持する意向を表明した。次の作業部会の実質討議が始まるのは年末から年明けとみられることから、堂々巡りの作業部会にとらわれず、この問題を総会の場で政治決着させる意思を示唆したものと受け止められている。
リチャードソン大使の発言の裏には、改革論議の停滞を恐れた小和田恒・国連大使ら、日本側の積極的な働きかけがあった。日本外務省筋は「日本の常任理事国入りはほぼコンセンサスができている。最大の障害は途上国の常任理事国入りをどうするかで、それに消極的とみられていた米国から容認姿勢を明確にしてもらうことがどうしても必要だった」と語る。
リチャードソン発言を受けて、今秋の総会での多数決決着の可能性も浮上してきた。だが、中国やロシアは沈黙を守ったままだし、途上国問題にめどがついても、残る二つの課題である「新安保理の構成国数」と「新常任理事国の拒否権の取り扱い」をめぐって多くが納得する結論が導き出される保証はない。
日本政府は、今夏で退任する予定だった小和田大使の任期を延長するという「背水の陣」を敷いて、今年中に結論を出すことに意欲を燃やす。ラザリ議長案で弾みのついた安保理拡大論議は、リチャードソン発言をきっかけに大きな分岐点を迎え、作業部会を離れてシナリオのない水面下の交渉に突入する気配だ。=つづく
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