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1995/10/17 毎日新聞朝刊
[国連50年]期待と限界/2 米国 「国益の道具」に利用
◇PKO参加は選別的に
 米国が国連平和維持活動(PKO)の大幅改革政策を発表したのは昨年五月。前政権も国連の非効率と放漫財政の改革を求めたが、クリントン政権はさらにPKOでも(1)一九九六年一月からPKO経費負担を二五%(現行三二%)に削減(2)PKO経費の監査制度新設(3)米のPKO参加は国益に照らして厳選し、選別的に行う――という決定を打ち出した。
 新政策の根拠は、レーク大統領国家安全保障担当補佐官の「米国にも国連にも、あらゆる紛争を解決する義務はなく、そのすべもない」という説明に尽きよう。過去五十年担ってきた「世界の警察官」の役割を全面放棄し、また国連にその役割をゆだねるわけでもないという決断を世界に告白したことを意味する。「国際社会が一致して紛争の平和解決に取り組み、米が後押しする」――という国連創設時の理想と決意の金看板はついに下ろされた。
 国連の非効率と浪費は確かに目に余る。記者は国連防護軍が初めて現地入りした九二年、ザグレブに同行したが、真新しい迷彩服を着た兵士が都心の最高級ホテルに陣取り、ロビーでそっくり返って酒食に興じる光景は、どうみても場にそぐわなかった。九一年秋のイラク核疑惑調査団の軟禁事件でも、国連本部の担当高官が週末休みで捕まらず、救難要請の第一報が米国務省に入ったのは有名な秘話だ。
 最大の資金拠出国である米国の「積年の悪弊打破こそ最優先課題」(米高官)という不満は議会の共鳴を呼び、世論には「国連無用論」も広がりつつある。北大西洋条約機構(NATO)のボスニア・ヘルツェゴビナ空爆論争で、米が明石康・国連事務総長特別代表の発言権を封じた「明石外し」事件でも明らかなように、クリントン政権は一連の改革で国連を「必要な時にだけ活用する米国益の道具」として選別利用する戦略を露骨に示し始めた。
 だが、こうした「国連たたきムード」の中でしゅん別しなければならないのは、保守派に根強い米外交の孤立主義だろう。財布を握る議会は「現政権は自国の国防強化を怠り、国連にカネを注いでいる」(ドール共和党上院院内総務)と批判。米の国連分担金未払い額はすでに十三億ドルに上る。
 「世界の警察官」放棄は止められない時代の流れにしても、「選別活用か、国連無用論に陥るか」の間を綱渡りしているのが米国の現状だ。
(ワシントン・高畑昭男)
 
 
 
 
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