日本財団 図書館


1993/03/12 毎日新聞朝刊
<新時代の国連>/1 問われる「平和の使者」 モザンビークにて
 
 米ソ両国の冷戦終結は、それまで無機質にも見えた国連の存在を一挙に前面に押し出した。地域、民族紛争解決のため、国連への期待感は大きい。日本の「国連中心主義」もいま、新しい局面を迎えている。内外から、新時代の国連を取り巻く磁場に迫ってみた。
 思わず目を留めるほどの立派な建物だった。モザンビークの首都、マプトの中心部にある白壁三階建ての邸宅。前の歩道で女の子が遊んでいる。姉のオルパちゃん(8つ)は四年前、父のジャニワリさん(43)に連れられ、東部のニャンバネから戦火を逃れてやってきた。妹のスゼッタちゃん(1つ)はここで生まれた。
 邸宅は一見、凝った造りの出窓、壁に残る陶磁の装飾に旧宗主国ポルトガルの面影が残る。しかし近付いてみると荒れ放題。屋根は落ち、窓枠は崩れている。邸宅の持ち主、ビラ・アルガルベ家は十八年前のモザンビーク独立を機にポルトガルへ帰国。そこへ、オルパちゃん一家が住みついたというわけだ。
 この邸宅の歴史は、マプトの縮図でもある。かつて南部アフリカ屈指の観光都市として栄えたが、十六年にわたる内戦ですっかり荒廃。一九九一年十二月の旧ソ連崩壊で政府は社会主義路線を修正、一部西側資本も入っているが、街には退廃ムードが漂う。
 そのマプトにようやく光が差しかけている。昨年十月、民主選挙の実現を柱とする和平条約調印を受け「国連モザンビーク活動」(ONUMOZ)が動き出したのだ。停戦監視、武装解除を進めるため、イタリアを先頭に各国の平和維持活動(PKO)七千五百人が到着しつつある。国連は「平和の使者」なのである。
 この国連PKOの前で、政府と長年対立してきた武装ゲリラ組織「モザンビーク民族抵抗運動」(RENAMO)は、話し合いのテーブルに着いている。RENAMOのビンセント・ウルル事務局長は「政府による独裁専制支配への戦い」を強調。市場経済を目指すほか、“職住分離”による集団農場を進める政府に反発、「農民に居住と生活の自由を保障せよ」と訴える。戦闘ではなく、初の自由選挙での勝利を勝ちとろうとしているのだ。
 今後の展開は、政府、RENAMO両軍計十一万人の国内四十九集合地点への集結―武装解除―両軍統合の順で進む。昨秋、政府軍とゲリラ軍の統合で失敗したアンゴラPKOの例があるだけに、アイエロONUMOZ代表は「各国PKOによる集合地点への誘導、武装解除の監視が極めて重要」と強調。当地でのPKO参加がささやかれる日本に対しては「(この誘導、監視を支える)医療や通信の後方支援部隊を派遣してもらいたい」と強く期待している。
 日本への期待はそれだけではない。両軍が集結し、統合する際にはじきだされる約八万人の戦後生活を保障する面での貢献である。要求の内容も「例えば運転技術や、農耕の指導など」と具体的だ。銃をクワやスキに変えようと懸命である。
 七日からモザンビークを視察中の日本政府代表団(団長・小西正樹外務省審議官)は「両勢力ともこれ以上戦闘はしたくない点で一致。今のところ停戦協定は守られている。今後は武装解除の徹底が焦点だ」との印象を持っているという。しかしモザンビークPKOへの日本政府の反応は今のところ消極的である。
 モザンビークに本当に平和が訪れるのか。この国のPKO活動と酷似しているカンボジアPKOは、ポル・ポト派の抵抗でピンチにある。RENAMOや政府軍がいつまた銃をとるかわからない。また国連PKOの展開に新しい不穏な兆候も出ている。隣国南アフリカから土地買いの動きが出てきたというのだ。
 マプトのアルガルベ邸に住むジャニワリさんも「終戦後どうなるかって? さあ、分からない」と首をかしげる。モザンビークの和平は、まだスタートラインに立ったところなのだ。
(マプトで、福井聡)=つづく
◇メモ
【加盟国】
 現在の国連加盟国は180カ国。1945年の国連創設時の原加盟国は51カ国。日本は56年に加盟。最近は南北朝鮮とバルト3国(91年9月)旧ソ連8カ国とサンマリノ(92年3月)旧ユーゴ3カ国(同5月)と新規加盟が相次ぎ、今年1月にはチェコとスロバキアが解体しそれぞれ加盟した。主な未加盟国はスイス、バチカン、モナコ。パレスチナ解放機構(PLO)はオブザーバー。
 
 
 
 
※ この記事は、著者と発行元の許諾を得て転載したものです。著者と発行元に無断で複製、翻案、送信、頒布するなど、著者と発行元の著作権を侵害する一切の行為は禁止されています。








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION