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1992/06/22 毎日新聞朝刊
[社説]紛争の解決と国連の役割
 
 東西冷戦の時代は終わったが、世界各地の紛争は終息を迎えるどころか、かえって勢いを増し、燎原(りょうげん)の火のように燃え広がる勢いを見せている。かつての米ソ両超大国の代理戦争としてではなく、複雑な民族、人種、宗教、国家関係を反映して、その激しさは冷戦時代を上回るほどである。
 国際社会はこうした事態に、一体どう対処したらよいのか。
 脱冷戦世界では、米ソに代わって国連がこれまで以上に大きな安全保障上の役割と機能を果たすものと期待されているが、国連のガリ事務総長は十八日、これに対する一つの回答案を報告書にまとめ、国連の安全保障理事会に提出した。
 報告書は、一月末に開かれた国連安保理首脳会議で、事務総長に冷戦後の新しい世界情勢の中での国連の機能強化に関する報告を行うよう要請したのに応えたもので、全文五十二ページ。紛争の防止、平和の維持、さらに平和の創造の各分野について幅広い改革、強化策を提案した。
 中でも最も注目されたのは、国連安保理の下に、紛争の発生時にいつでも緊急に出動できるような国連軍を創設する、という構想である。イラク軍のクウェート侵攻での国連の役割を教訓に、停戦監視や兵力の引き離しといった任務ばかりでなく、平和を「強制する」任務を果たす軍事力を国連に新たに持たせようというのである。
 ガリ構想では、この「緊急平和強制部隊」は、紛争が起き、安保理でそのつど派遣を決め、組織する現在の平和維持活動や同部隊のようなものではなく、国連加盟国に新たに常設しておく軍事力である。
 これは国際的な紛争を予防する「抑止力」となることを想定している点でまさに画期的だ。また、国際的な紛争に対して、複数の国が一致協力して平和維持のために共同で軍事行動を行使しようという考えが、国連と相前後して、欧州共同体(EC)諸国と冷戦終結後の欧州全域などで、すでに具体化し始めている事実に注目したい。
 例えば、フランスを中心に米国を除く西欧の英独などで構成する西欧同盟(WEU)は十九日に外相・国防相会議を開き、加盟国軍隊から成るWEU部隊を結成して、地域紛争に対処する、との宣言を採択したばかりだ。
 また旧東西欧州の全諸国を網羅した全欧安保協力会議は、北大西洋条約機構(NATO)が平和維持活動のためにNATO軍部隊の域外派兵に道を開いたのを受けて、来月ヘルシンキで開く首脳会議で、独自の平和維持軍の創設を決めると観測されている。
 国連の改革案もこうした世界的な流れに呼応したものである。が、その方向性はさておき、安保理の五常任理事国の権限強化や小国の主権確保など問題点は多い。慢性的な資金不足解決を含め、国連全体の機構改革なしには論議できない面もある。
 日本は国連平和維持活動(PKO)協力法を成立させたばかりだが、国連や欧州での動きに改めて対応を求められていることを忘れてはなるまい。
 
 
 
 
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