1991/04/17 毎日新聞朝刊
[社説]日本はまだ国連の敵なのか
湾岸戦争をめぐり、日本国内で高まった国連論議のひとつに、国連憲章の条文に含まれる「敵国条項」問題がある。
第二次大戦が終わり、国際連合がつくられたとき、日本はドイツ、イタリアなどと並び「旧敵国」扱いされた。いずれも国名は挙げられていないが、憲章第一〇七条は「憲章の署名国の敵」という文言を明記している。戦後四十六年が経過したが、憲章の上では日本はいぜん、国連加盟国のなかでは敵国なのである。
この不合理をこの際、是正しようというのが論議の趣旨である。日本政府は、この秋の国連総会に向け、同条項の削除を目的に、米ソをはじめとする安保理常任理事国への働きかけを開始している。
「敵国条項」は実際には、死文化している。日本の国連活動にとっても実質的な障害とはなっていない。また条項の削除は憲章の改正を伴うため、五常任理事国はもちろん、総会の三分の二以上の賛成と各加盟国の国内での批准が必要である。手続きの面倒さに、かえって縛られる懸念もある。
だが私たちは、今年、日本の国連加盟三十五周年という記念の年にあたり、この条項削除に向けての努力は意味のあることと考える。過去の行為を抹殺しようというわけではない。冷戦後の新しい国際秩序形成に向け、国連の舞台を中心に国際的な貢献をいっそう求められているわが国にとって、ひとつの大きな節目にすることができるという視点からだ。統一成ったドイツにとっても、これは異論のないことだろう。
日本はすでに、国連運営のための通常経費分担率では、米国に次いで二位だし、他の主要国連機関・組織に対する拠出金の額でも、ソ連、仏、英国などを抜いている。少なくとも資金面での日本のこれまでの貢献は、加盟国の間で高く評価されている。国連中心の平和外交に徹しようとする日本の方針についても、理解は深まっている。その意味では、現状に合わない条項の撤廃についての条件は熟していると考えられる。
問題は今後である。
湾岸戦争の処理にあたって、国連が主要な役割を果たしたことはたしかである。同時に、見直すべき多くの課題も浮上した。
紛争対処への国連の今回の方式は今後も通用するのか。安保理常任理事国の構成と拒否権のありかたは、現状のままでいいのか。また国連事務総長の紛争調停の役割と権限を強化する必要はないのか。さらに日本については、資金面だけでなく人的貢献度を高める方策はなにか――などである。
日本に期待されるのは、自らの義務を果たしつつ、同時にこうした将来の国連の機能の再検討と活性化に向けて、発言と行動を強めてゆくことだろう。国連はこうあるべきだとのビジョンを積極的に明らかにし、国連の枠内で国際秩序をつくってゆく姿勢だ。
それでこそ「敵国条項」を返上する意味があると言える。
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