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1990/11/01 毎日新聞朝刊
[ニュースきょうあす]国連の平和維持活動とは? 「国連軍」と異なる実態
◇海外派遣が独り歩き
 国会の国連平和協力法案をめぐる議論は、「自衛隊の海外派遣」の問題ばかりが独り歩きして、これまでに国連が実績を積んできた平和維持活動の実態が忘れられている。自衛隊の参加問題が浮上した「国連軍」はこれまで一度も創設されたことはなかったし、歴史的経過から今後も創設される可能性はあまりないとみられている。国連の平和維持活動の歴史とその実態を、改めて見つめる必要がある。
 国会の議論の焦点となった「国連軍」は、国連憲章第七章に規定されており、「集団安全保障体制」の考え方が基盤にある。国連憲章では前身の国際連盟規約より徹底して中央集権的な軍隊の創設が盛り込まれた。安全保障理事会が加盟国と平時から特別協定を結び、提供する兵力数などを取り決めておき、有事には安保理事会の五常任理事国から成る軍事参謀委員会が指揮権をとることが規定された。
 しかし、その後、東西間の冷戦や大国と小国の政治・経済力の格差拡大など、国際社会の現状が本質的に「集団安保体制」になじまなかったことから、この構想は挫折。特別協定などは一切結ばれないまま今日に至っている。朝鮮戦争での国連軍も、国連の統制下にはなかった。
◇大国中心の国連軍
 「国連軍」に代わり、国連が現実の国際情勢に合わせて生み出した安全保障上の活動が「国連平和維持活動」(PKO)だ。軍事監視団と平和維持軍の二つに大別されるが、どちらも安保理により設置され(総会による場合もある)事務総長の指揮下に入る。
 軍事監視団は武器を持たず、平和維持軍は軽火器を装備するが、使用は自衛のため以外は認められない。どちらも大原則は、戦闘を目的とせず、派遣国や紛争相手国など関係国の同意を受けて行動するということだ。「国連軍」が大国を中心に軍事行動を目指したのに対し、平和維持活動は紛争の現実に即し、停戦の実現、維持、緩衝地帯の創設などが任務であり、要員も中小国からの派遣が多い。
 平和維持活動はこれまで十八回あり、軍事監視団はパレスチナ休戦監視機構(一九四八年)、インド・パキスタン監視団(六五年)、アンゴラ監視団(八九年)など十回。また、平和維持軍は一九五六年のスエズ危機の時に結成された第一次国連緊急軍、コンゴ(現ザイール)内戦に対処したコンゴ活動(一九六〇―六四年)、キプロス平和維持軍(六四年)など八回ある。
 派遣団の活動は戦闘行為の中止や境界侵犯の監視、兵力の引き揚げの監視などが中心だが、休戦地帯など危険地域に分け入ることが多く、不意の攻撃を受けたことや事故も多発し、過去に六百八十四人が生命を落とした。
 日本は一九八八年の国連アフガニスタン・パキスタン仲介ミッションに初の文民を一人派遣して以来、昨年から今年三月にかけてナミビアの選挙監視団に二十七人を派遣するなどこれまでに計三十五人の文民を派遣しているが、平和維持軍には一度も派遣していない。
 平和維持軍の担い手はスウェーデン、ノルウェー、フィンランド、カナダ、オーストリアなどが多く、とりわけ北欧四カ国が維持軍の三割を占めている。
 北欧四カ国は、普段から軍隊とは別個に「国連待機軍」を設けており、いつでも千―千五百人程度の人員を招集できる体制を作っている。待機軍は徴兵による兵役を終えた人が対象でボランティア制。国防目的には使用されないことが法律などに明記されており、国防軍とは明確な一線が引かれている。
◇現実性持つ維持活動
 大国が多大な影響力を持ち続ける国際環境が続く限り、大国がその構成員の中心となる国連軍は、紛争に巻き込まれる危険性が高く、今後も創設されることはあまり考えられない。代わって現実性を持つのは、むしろ平和維持軍の拡充などこれまでの平和維持活動の拡大であろう。
 日本が今すべきことは、目前の中東危機に対処するためにわざわざ架空の「国連軍」を引っ張り出して議論することではなく、平和国家としての理念を踏まえたうえで、国連平和維持活動、とりわけ平和維持軍とどうかかわっていくか、を真剣に議論することである。
(外信部・阿部菜穂子)
 
 
 
 
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