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1990/04/22 毎日新聞朝刊
[inside]「経済大国」日本、国連での役割は
◇「責任期待論」と「警戒」と安保理常任理入り目指すが・・・
 戦後四十数年続いた冷戦の終結がいわれ、世界の新秩序構築が迫られている中、国連における日本の経済規模に見合った貢献に、期待が寄せられている。第二次世界大戦の歴史的現実、その名残で国連憲章には旧枢軸国の日本、西独などに対する敵国条項がいまだに存在しているが、経済大国・日本と統一ドイツが誕生しようという時代は同条項の非現実性を浮き立たせた。日本は国連発足五十周年(九五年)の節目を前に、念願である安全保障理事会(安保理)の常任理事国入りの機運を醸成する意欲を見せ、国連外交の幅を広げたいとしている。
(報告者=ニューヨーク・松本 照雄)
 昨年暮れ、国連総会で日本の立場を象徴する場面があった。南太平洋での流し網漁禁止決議案を米国、ニュージーランドが提案、これに対抗して日本が全面禁止への動きに歯止めをかける決議案を提出し、日米両国が国連で初めて真っ向から対立した。米国は、環境、資源保護を大義名分に太平洋諸国と四十八カ国が加盟する英連邦諸国の支持を取り付け、日本は環境、資源破壊者として孤立した。資源を外に求めるだけでなく、金にあかせて象牙(ぞうげ)や野生動物、昆虫などを乱獲、輸入し「環境テロリスト」と見られがちな日本の弱点を突かれた。
 日本の国連代表部は、漁業問題から他の分野への波及を防ぐため科学的根拠に乏しい米国側の決議案を各国に説明、説得した。南太平洋の流し網漁禁止はビンナガマグロの枯渇を危惧(きぐ)したものだが、日本の調査で米国、ニュージーランドも捕獲していることが判明。さらに米国でも二万三千隻が流し網を使っていることが分かった。途上国を中心に日本側への理解が得られたのは成功だった。交渉にあたった担当官は言う。
 「日米が四つに組み、途上国はどちらにつくか悩んでいた。態度の表明がその国の対日、対米関係を損なうのを恐れたからで、どちらにもつかないという態度をとった。そして両決議案の一本化を両国に強く働きかけたのです。日米が対立した場で、今回ほど日本の国力を痛感したことはなかった。それだけ日本への期待が大きいということです」
 日本代表部では、流し網漁の規制で両決議案が一本化出来たのは、日本の粘り強い説得が功を奏し、米国側が譲歩したとの認識を持っている。 だが、それだけに経済大国・日本に対し、国力に合った役割と責任を国際社会で果たすよう期待が高まっているのだ。日本は国連加盟国の“エリート組織”安保理の常任理事国入りを目指し始めた。
 常任理事国の話は、これまでにも田中、福田元首相時代の日米首脳会談で取り上げられたことがある。しかしソ連などの反対が予想され、実現は難しいとされてきた。
◇経費分担第2位
 国連通常経費の分担率一一・三八%、分担額九億ドル(九〇年)と、米国に次いで二位の地位を占める日本。そしてベルリンの壁の消滅に象徴される東西関係の劇的変化で、統一ドイツが現実のものとなりつつある。現在の常任理事国五カ国を七カ国にし、日本、統一ドイツを加えては、という機運は国連の場でも生まれつつあるのだ。
 同時に「第二次世界大戦中に敵国であった国に対する連合国の行動を無効にすることはない」と安全保障の過渡的規定である、いわゆる敵国条項(国連憲章第百七条)の削除も検討される可能性がある。日本は五六年に国連加盟以来、同条項の非現実性を訴え、七〇年代には一般演説でこの問題に言及してきた。
 だが憲章改正は、総会構成国の三分の二の同意を得て提案され、安保理のすべての常任理事国を含む国連加盟国の三分の二による批准が必要なだけに、慎重に対応せざるをえない。日本の国連代表部は「機運の高まりを見守る必要がある」と経済大国意識をチラつかせるような愚行を避ける意味でも表立った動きは見せていない。
 ASEAN(東南アジア諸国連合)は早くも日本の意図を見極めなければと、警戒感を募らせているともいわれる。加盟百五十九カ国中、非同盟諸国を中心に中小国が三分の二を占める国連。経済援助だけでなく地域紛争の平和維持活動の場での人的貢献など実効性のある役割が、日本に求められている。日本に対する敵国条項が消える日はいつやってくるのだろうか。
 
 
 
 
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