2002/01/19 読売新聞朝刊
女性天皇、誕生には憲法解釈まで論議が必要(解説)
◆例外措置か、男女平等か、慎重に
女性天皇の誕生に道を開くには、憲法論議も含め、静かに、かつ、広く、深い議論を積み上げておく必要がある。
(調査研究本部 鬼頭誠)
敬宮(としのみや)愛子さまご誕生とともに日本国内では、女帝待望の声が一層高まった。だが、政界では年が明けると、「男系(父方が天皇家)の男子」のみに皇位継承を限定する皇室典範の改正論議は沈静している。「まだ男子誕生の可能性があり、議論は尚早」とする慎重論も巻き返している。
皇位継承の可能性のある皇族男子は、継承順位一位の皇太子殿下を筆頭に七宮おられる。ただ、現在の皇族の顔ぶれや年齢を考えると、皇太子殿下の世代に次ぐ継承者の誕生を期待できる時間が少なくなっているのも現実だ。
高松宮妃が「婦人公論」(一月二十二日号)への寄稿で、第二子以降の男子誕生に期待しつつ、女帝を検討することについて「長い日本の歴史に鑑(かんが)みて決して不自然なことではないと存じます」との考えを示された。これも、そうした現実を見据えた上のご感想だろう。
法的に女帝を認めるにしても、実際に女帝の代がやって来るのは、早くて皇太子殿下の次の時代である。だが、天皇になるための「帝王学」の教育は、幼少期から始められる。その意味でも、敬宮さまが誕生された今、万全の備えを進めておく必要がある。
宮内庁は、皇族男子が生まれない場合に備え、皇位継承者の拡大について〈1〉男系の男帝に限る〈2〉男系の女帝を認める〈3〉女系(母方のみが天皇家)の天皇を認める――の三つを検討しているとされる。
従来通り、〈1〉の男系男帝に限るのは、かつて皇籍を離脱した男系の旧皇族子孫を皇族に補充して即位させるか、男系の旧皇族の中から養子をとる方法などを想定している。
しかし、皇籍復帰や養子は、「国民感情と皇室の伝統から、実現困難な選択肢ではないか」(高森明勅・国学院大講師)との見方が強い。
〈2〉の男系女帝は、古代と江戸期に十代計八人の実例がある。女帝容認の場合でも、旧例を踏襲し、男子継承者不在の際の「例外措置」とするのか、「男女平等」の観点から、男女に関係なく年長の皇子を優先させるかが、重要な検討ポイントだ。後者なら、皇太子殿下の次の皇位継承者は敬宮さまとなる。
男系の女帝を認めた場合、いずれ不可避となるのが、〈3〉の女系天皇だ。男系女帝の夫が民間人の場合、その子は、女系(母方の祖先)にのみ天皇家との血縁を持つ。男であれ女であれ、その人が母の皇位を継承すれば、女系天皇であり、皇室史上初となる。
天皇制度は、国柄や歴史的継続性を最大の根拠にしている。政府は、女系天皇について「古来、男系相続で一貫してきている」(一九五九年、内閣法制局長官答弁)と、世襲の対象外に置いてきたが、「前例がない」ではすまなくなるかもしれない。
皇室典範を改正する場合、政府の憲法解釈の変更は不可避だ。憲法第二条の「皇位は、世襲」について、政府は「男系男子が継承するという意味」と解釈してきたからだ。
女帝となれば、その夫に与える地位についても熟慮し、国民的理解を十分に深めることがきわめて重要になる。
皇位継承は、国の根幹の問題である。慎重さとともに現実的思考が大切だ。
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