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1988/09/27 読売新聞朝刊
外国人の見た「祈りの人々」 驚き・称賛・不思議ニッポン/天皇重体
 
 「私も一緒に祈りたい」と共感する声もあれば「どうしてこんなに集まるの」と首をかしげる人も−−。降りしきる雨をついて連日押し寄せるお見舞いの人の波が、外国人の目にどう映っているか。二十六日、皇居前広場で、ニッポン人を遠巻きに見守る外国人たちにたずねてみた。
◆みんな行くから?◆
 〈驚き〉来日十年のフランス人実業家、ジャン・クロードランデさん(41)は皮肉っぽい。「皇居にあんなにお見舞いの人が集まるところを見ると、天皇陛下は日本人にとっては王様というより神様に近い人なんだろう。改めて、そう感じ始めている」とフランス人らしくエスプリをきかせた。
 韓国から取材で来日中の女流作家、王秀英さん(50)は「天皇制と日本のことなら、韓国人として何日かかっても語り尽くせないものがある」と複雑な表情で、「皇居にあれほどの人が集まるとは思わなかった。時代へのノスタルジアがあるお年寄りならわかるが、若い人も多い。彼らの世代は、他人が行くから自分も行くといった面があるのではないか。日本人はみんなと同じ行動をして安心するという性格があるから」と、手厳しい分析をしてみせた。
◆ホワイトハウスじゃ起きないネ◆
 「大統領が重体になってもホワイトハウスの前にお祈りする人たちの行列はできないと思う」とびっくりしていたのはアメリカ・ボストン市からサーカスのためやって来たピエロ役、スーザン・ドクトロフさん(23)。「それに私の国には皇室がなく、手を合わせる人の気持ちは、正直言ってわかりません」と首をすくめた。
 合気道の勉強のため、二か月前にイスラエルから来日、都内の道場に通っているボアーズ・ハガイさん(23)も「大勢の人が天皇の回復を祈るため記帳するというのが、どんな意義があるのかよくわからない」と首をかしげた。来日前に抱いていた「先進工業国」のイメージとは大きく違ったようで「伝統やしきたりを根強く残す面があることに驚いた」と言う。ただしこれは評価にもつながり、「伝統と自然との間で学んだ見事なバランス感覚を持っていると思う」と付け加えた。
 〈理解〉英国の有力日曜紙が「これを機会に日本の右傾化が懸念される」と伝えたが、皇居前では、日本人の心情に理解を示す声も多かった。
 「(記帳の列は)驚くべき反応だが、気持ちはよく分かる。今度のように十万人も集まるかどうかはわからないが、イギリスやフランスでも、重要人物がこのような状態なら同じことが起こるだろう。それに日本の天皇陛下は、歴史上、とても重要な人だ。世界が注目しているはずだ」。東京でフランス語の教師をしているミシェル・ミシャさん(26)の意見だ。
 ソウル五輪を見物した帰りだというアメリカ・ミズーリ州からの主婦、テレサ・ディトマイヤーさんとダイアナ・キルバーンさんは、口をそろえて「日本人が心配して皇居に集まって陛下のご回復を祈るのは、とても良いことじゃないでしょうか。人の健康を祈って悪いわけがない。英国などで右傾化を心配するのは問題外。私たちだって、陛下に一日も早く回復していただきたいと思っていますし、アメリカの大統領が同じ状況なら、方法は別として祈ります」と日本が特別ではないことを強調した。
 同じ君主国ベルギーからやって来たエンジニア、ディディエ・ショットさん(27)は「私の国の国王は天皇より若くて元気だが、病気で倒れれば、日本人と同じ気持ちになる。両国とも元首ではなく、象徴だが、皇族を大切にし誇りに思うのは君主国の国民の特権です」とまで言い切った。
◆素晴しい光景だ◆
 〈称賛〉「行列ができていると聞いて見に来たが、素晴らしい光景だ」と手放しなのは、ボストン市の神父、トーマス・パワーズさん(48)。「天皇というと、すぐ戦争を思い起こすアメリカ人もいるが、同時に多くのアメリカ人は自分に厳しい天皇のすぐれた人柄もよく知っている。私も一緒に祈りたい気持ちだ」と、強い共感を示した。
 ブラジル・リオデジャネイロから来日中のリビア・バルボサさん(39)も「日本人が陛下のご健康を心配して、雨の中、こうして集まってくるのを見て、非常に良い印象を持った。日本人は心が優しいんですね。うるわしい限りです」とほめちぎる。
 
 
 
 
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