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2001/12/02 毎日新聞朝刊
[クローズアップ2001]新宮さま誕生(その2止) 皇室典範改正、再燃も
◇女児誕生続き、世論見極め−−政府
 「これで日本の皇位継承に女性もという問題が再燃するが、歴史上、女帝はあったし、中国や英国にもあった。自由に考えればいい。古代の人の方が男女同権に伸び伸びしていたのではないか」。1日午後、自民党の加藤紘一元幹事長は、羽田空港で記者団にそう語った。
 憲法は、第2条で「皇位は世襲のもの」とし、皇室典範第1条は「皇統に属する男系の男子がこれを継承する」と定めている。さらに皇室典範第2条は皇位継承の具体的な順位を定めているが、継承順位2番目の秋篠宮さまの後の順位の男性皇族は、いずれも皇太子さまより年齢が高い。このため、「将来的に皇位を継ぐ皇族がいなくなるのでは」との懸念が政界を中心に出ていた。
 政界では雅子さまの懐妊が明らかになった今年4月から5月にかけ、皇太子ご夫妻に女児が生まれた場合に備え、皇室典範の改正論議が持ち上がった。
 自民党が5月に設置した国家戦略本部(小泉純一郎本部長)で検討する方針を打ち出し、他党も「男女共同参画社会の観点からも女性の天皇を認めるべきだ」(神崎武法公明党代表)、「(6月まで開かれた)通常国会で改正してもいい」(鳩山由紀夫民主党代表)などと賛同した。
 その後、「男か女か分からないうちに議論をすると雅子さまへのプレッシャーになる」(政府首脳)という配慮で表立った論議はなくなっていたが、今回、生まれたのが女児だったことで議論が改めて活発化する可能性がある。
 ただ、「子どもが女の子だったからと言ってすぐにそういう議論をするのも失礼だ」(首相周辺)との見方もあるため、政府は当面、与野党の議論や世論の動向などを見守る構えだ。自民党では、党内に設けた憲法調査会で12月から検討を始めることにしている。
◇明治から「男系男子」
 皇室での男子誕生は秋篠宮さま以来36年間なく、寛仁親王家、高円宮家、秋篠宮家に続き、81年以来8人の女児誕生が続いたことになる。
 日本の皇室を歴史的に見れば、8人10代の女性天皇がいた(2人は2回即位)。「男系男子の後継者が成長するまでの例外的存在だった」との見方もあるが、女性天皇が認められなくなったのは旧皇室典範がつくられた明治以降のことだ。
 女性天皇を認めることについては、憲法に定められた男女平等の観点からも論議の対象になってきた。近年著しい女性の社会進出も、認めるべきだとの意見を後押ししている。
◇欧では改正次々
 欧州の王室では、英国が慣習法で長く女王の即位を認めてきたほか、オランダが83年に王位継承に関する男子優先規定を廃止、スウェーデンも80年、性別に関係なく第1子を王位継承者とすることに改めている。ベルギーでは独立以来、男子のみに王位継承権を与えてきたが、男女平等の風潮から91年の憲法改正で性別の記載を削った。10月に誕生したエリザベート王女が順調に育てば、同国初の「女王」となる。
 しかし、女性天皇を認める場合、(1)現在、女性皇族は天皇・皇族以外の人との結婚後は皇室を離れることになっているが、その規定をどうするか(2)女性天皇の配偶者となる男性を皇族にする規定を設けるかどうか(3)男系の皇統が途絶えることの歴史的、社会的経緯をどのように位置付けるか――などの課題がある。
 時代と共に皇室の在り方も変わってきている。憲法に規定されている「象徴」としての天皇。それは日本という「国のかたち」を規定している。21世紀に見合った「国のかたち」がどうあるべきか、国民一人一人が考えるべき問題でもある。
◇慎重な検討を−−小泉首相
 小泉純一郎首相は1日、皇室典範改正論議について「慎重に検討した方がいい。多くの国民の声を伺い、歴史、伝統を考えながら広く検討していけばいい。結論を出すのは早いんじゃないか」と述べ、国民世論の動向を慎重に見極めながら、検討する構えを示した。
 ◇男子に限るのおかしい−−横田耕一・九州大教授(憲法)の話
 男女平等を定めた憲法の趣旨からすれば、皇位継承を男系男子に限るのはおかしい。ただ、現在の日本で女性の継承権について議論が起きたのは、現実的に「天皇が絶えてしまう」ためだと思う。今後のテーマは、これまでなかった「女系」の継承を認めるかどうかになるが、天皇制を維持していく観点からは認めざるを得ない。一般から迎える男性を皇族にするのかなど、改正のためには踏み込んだ議論が求められる。
 ◇お祝いの最中に非礼−−大原康男・国学院大教授(日本近代思想)の話
 国民が待ち望んだお子様のご誕生をお祝いしている最中に、女帝の問題を議論するのは大変非礼なことだ。次のお子様が親王さまであることも考えられ、このような話をすべきではない。考えなければならない時期がきたら、英知を出し合えばいい。
◇安易な議論避けるべきだ−−所功・京都産業大教授(日本法制史)の話
 現行の憲法に「皇位は世襲」と明記している以上、その原則を維持するため、皇位継承は男女を問わず認める方向で改正するほかない。ただ、安易な男女平等主義の観点からでは本質を誤る恐れがある。今回の出産を契機に十分議論し、結論を出す必要がある。
◇女性の皇位継承、各国も関心高く
◇米国◇ 雅子さまに女児が誕生したことについて、米メディアは11月30日、景気低迷に苦しむ日本で久々の明るい話題だとして喜びに沸く日本の様子を速報するとともに、「女性の皇位継承を認めるための皇室典範改正論議に火がつくだろう」と改正問題に高い関心を示した。
【ワシントン佐藤千矢子】
◇ロシア◇ タス通信は1日、雅子さまに女児が誕生したことを伝え、ロシアのテレビも女児誕生のニュースを短く流した。いずれも、女児誕生で女性の皇位継承問題が大きく浮上すると指摘した。
【モスクワ石郷岡建】
◇フランス◇ フランスのニュース・テレビ局LCIは「ご成婚から8年後で初めてのお子さまであり、ご誕生は待ち望まれていた」と報じた。その上で「日本では女性は皇位継承から除外されている」と皇室典範の規定を伝えた。
【パリ福島良典】
◇タイ◇ 秋篠宮さまがたびたび訪問され、日本の皇室となじみが深いタイでは1日、入院時からのニュースを流すなど関心の高さを示した。タイ外務省は「雅子さまとお子さまのご健康を祈ります」とのコメントを出した。
【バンコク薄木秀夫】
◇中国◇ 中国外務省の章啓月報道局副局長は1日、「日本国民に祝賀を申し上げる」とのコメントを発表した。また中国国営・新華社通信は女児出産を東京発の至急報で速報した。
【北京・浦松丈二】
◇韓国◇ 金大中(キム・デジュン)大統領は1日、雅子さまの出産について、天皇陛下に祝電を送った。青瓦台(大統領官邸)によると、祝電は「待ち望んでいたお子さまが誕生したことを心よりお祝いします」と述べた。
【釜山・大澤文護】
◇皇位関係条文
■日本国憲法
第2条(皇位の継承)皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより継承する。
■皇室典範
第1条(資格)皇位は、皇統に属する男系の男子が継承する。
第2条(順序)(1)皇位は、左の順序により、皇族に伝える。
一 皇長子(注・天皇の長男)
二 皇長孫(注・天皇の長男の長男)
三 その他の皇長子の子孫
四 皇次子及びその子孫
五 その他の皇子孫
六 皇兄弟及びその子孫
七 皇伯叔父及びその子孫
(2)前項各号の皇族がないとき、皇位は、それ以上で、最近親の系統の皇族に伝える。
(3)第2項の場合においては、長系を先にし、同等内では、長を先にする。
◇過去の女性天皇◇
 33代 推古(すいこ)
 35代 皇極(こうぎょく)
 37代 斉明(さいめい)
 41代 持統(じとう)
 43代 元明(げんめい)
 44代 元正(げんしょう)
 46代 孝謙(こうけん)
 48代 称徳(しょうとく)
 109代 明正(めいしょう)
 117代 後桜町(ごさくらまち)
 *35代(皇極天皇)と37代(斉明天皇)、46代(孝謙天皇)と48代(称徳天皇)はそれぞれ同一人物
◇各国の王位の継承◇
<英国>
 慣習法。女子の継承も認めているが男子を優先
<デンマーク>
 53年の憲法改正で女子の継承容認。男子が優先
<スウェーデン>
 80年の法律改正で男子限定から第1子の継承に
<オランダ>
 83年の憲法改正で男子優先から第1子の継承に
<ノルウェー>
 90年の憲法改正で男子限定から第1子の継承に
<ベルギー>
 91年の憲法改正で男子限定から第1子の継承に
<タイ>
 現国王が後継を指名。女子の継承も認めている
<ネパール>
 憲法で規定。継承は男子に限定
 
 
 
 
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